あれはいったい、なんだったのだろう……まるで夢でも見ていたかのような気分だ。
夕飯の料理が並ぶ食卓の席に座りながら、俺は先ほどの行為をぼんやりと思い返していた。
確かめるように触れた耳と頬には、まだ濡れた感触が残っていて、押し当てられた唇の柔らかさや、吐息のこそばゆさを思い出してしまう。
あれは、まずかったよな……兄妹のスキンシップにしては度を超えている。どうして由奈はあんなことをしたのだろうか?
気まずさを感じている俺をよそに当の本人はといえば、何事もなかったかのように平然と隣の席に座ってるしさ。
由奈の顔色を横目で窺うも、そのポーカーフェイスからはやはり何も読み取れない。
この子はいったい何がしたいんだ?
「タカくん、どうしたの?」
「いっ、いえ、何も!」
義妹の意図をはかりかねていると、向かいの席に座っていた綾乃さんが不思議そうな顔をこちらに向ける。
「もしかして、嫌いなものがあったかしら?」
どうやら俺が苦手な料理を出されて困っていると勘違いさせてしまったらしい。いかんいかん、由奈のことは気になるが、今は三人でする初めての夕食が優先だ。
「いえっ、大好物です!」
いつもレンチンしたコンビニ弁当を一人で食っていた俺としては、出来立ての温かい料理が並んでいるだけでも感動ものだ。香ばしく揚げられた豚カツからは食欲をかき立てる匂いが漂い、見ているだけで涎が出てしまう。
「そう、よかった。たくさん食べてね」
「はいっ、それじゃあ……いただきます」
手を合わせてから箸を取ると、まずはソースの掛かった豚カツを一切れつまむと、からしを少し付けてから大きく口を開けて噛り付く。
カラっと揚げられた衣が噛む度にサクサクと良い音を立て、中に閉じ込められていた熱い肉汁が溢れ出し口いっぱいに広がる。そこにすかさず、ほかほかの白米をかき込むと────ウマいっ! ウマすぎるぅっ!
出来たて晩ご飯のおいしさに感激しながら、次々と豚カツを頬張りご飯をかきこんでいくと、あっという間に茶碗が空になってしまう。
食べるのに夢中になっていたが、綾乃さんがポカンとした顔で俺を見つめているのに気づいて手を止める。しまった、ちょっと行儀が悪かったかもしれない。
俺はモグモグと咀嚼して口の中のものを飲み込んでから、気恥ずかしさに照れ笑いをする。
「タカくん、そんなにお腹が減っていたの?」
「いえ、そういうわけじゃないんですけど、いつも弁当で済ませてたから、こういう出来立てのご飯が嬉しくて、あと綾乃さんの料理が凄く美味しかったから、つい」
「まぁっ、そう……そうだったのね……」
何故か綾乃さんは、熱の籠もった潤んだ瞳で俺のことをじっと見つめている。
まるで何かを堪えているかのように頬を上気させ妙に艶っぽいのだが、どうしたのだろう、部屋が熱いのだろうか?
「あの、綾乃さん?」
「あっ、ごめんなさい、なんでもないのよ。ご飯のおかわりよそうわね?」
そう言って綾乃さん身を乗り出したことで、服越しでも分かる巨乳がタップンと重そうに揺れ動いた。
すげぇぇ! 義理とはいえ母親をこんな目で見てはいけないと思いながらも、同年代の女子では真似できない圧倒的な質量に視線が釘付けになってしまう。
すると、それまで隣で静かに食事をしていた由奈がこっちを見て口を開いた。
「お兄ちゃんが人妻好きだったなんて妹はショックです」
「なに言っちゃってんの!?」
「由奈は知ってます。お兄ちゃんがいつも、お母さんの胸をチラ見していることを」
「みみみみ見てないしっ!?」
いや、見てるけれども! しょうがないんだよ、男の子は大きな胸があると無意識に見ちゃうもんなんだよ。
いきなり家庭内不和を起こすような発言はやめてもらいたいものだ。
幸いにも綾乃さんはそれをただの冗談と受けとったようで、微笑ましげに俺たちのやりとりを眺めていた。
「うふふっ、由奈はお兄ちゃんに構ってほしいのよね?」
「あ、そうなの?」
もしかして「もうっ、お兄ちゃんてばお母さんにデレデレしないで可愛い妹の私のことを見てよ!」みたいなアレか?
「いえ、ちがいます」
即答された。どうやら違うらしい。
この子の俺に対する好感度がさっぱりわからねぇ……。
*
夕飯を食べ終わってからリビングで食休みをしていると、台所から風呂が沸いたことを告げるアラームが鳴った。
「二人とも〜、お風呂入っちゃいなさ〜い」
洗い物をしている綾乃さんから声が掛かると、二人して顔を見合わせる。
「由奈が先に入りなよ」
小学生とはいえ女の子なんだから、きっと男の入った後は嫌だろう。兄として、さりげない気遣いをしてみたのだが──。
「今日は、お兄ちゃんと一緒に入ります」
「はい?」
「兄妹なので」
いや────おかしくね? 兄妹だからって普通は小学五年生の女の子は兄と風呂には入らないんじゃね?
「流石にそれは、ねぇ?」
綾乃さんに視線で助け舟を求めたものの。
「あらあら、仲良しでいいわねぇ。それじゃあタカくん、お願いね」
母親として恥じらいの足りない娘を嗜めてくれることを期待していたのだが、逆にお願いされてしまった。
え、これって普通なの? 俺が気にしすぎてるだけで、世の中の兄妹は小学生まで一緒にお風呂入るもんなの?
「いきますよ、お兄ちゃん」
「あ、はい」
自分の中の”普通”が揺らいでいる俺は、有無を言わさず引っ張る由奈に連れられて洗面所に到着したのだが────さて、風呂に入るには当然、服を脱がないといけないわけで。
目の前の義妹をもういちど良く見る。
可愛い女の子だと思う。だが、小学生らしく背も低いし顔だって丸っこくて、高校生の俺からすればお子様である。
そうだよ、ちょっと不思議ちゃんなところもあるが、由奈はまだまだちびっ子である。一緒にお風呂に入ったところで何も問題ないじゃないか。
どうやら俺は少し考えすぎていたようだ。
「んっ、しょっ……」
そんな俺をヨソに、由奈は先に脱衣を始めていた。
もぞもぞと動きながら両手を服の袖から抜き取り、そのまま持ち上げてスッポリと脱ぎ捨てる。服の下には丈の短いキャミソールのようなものを着ていた。
なにそれ、ブラみたいなもんなの? というか小学生ってブラしてたっけ?
俺が見ていることをまるで気にせず、続いてスカートも脱ぎ捨てると子供らしい綿のパンツが姿を現す。
一瞬ドキッとしてしまった。
まずいと感じて、いちど目を閉じて深呼吸する。
落ち着け俺ぇ、たかが小学生のパンツだぜ? つまりあれはワカメちゃんのパンツと同じ、お茶の間で放送されても問題ない健全な布切れだ。故に俺は妹のパンツをいくら見たところで何も感じない──。
OK! 自己暗示完了!
完璧な精神耐性を獲得した俺が目を開けたそのときだ。
「んしょっ」
ちょうど由奈がキャミを脱ぎ捨て、その下から膨らみかけのおっぱいがお披露目された。
なだらかな曲線の中央にはピンク色のぽっちが慎ましやかについている。
ふむ……ふむふむ、なるほどね、そうきたか。
まあね、言うて綾乃さんの巨乳と比べればまな板も同然だネ。
けどさぁ……いかに小さいとはいえ、プニッと丸みを帯びたソレは男の胸とは異なるもので、もしもテストで、問一『これはなんですか? 簡潔に述べよ』と出題されたのなら、俺は回答欄に『これはおっぱいです!』と書くぐらいには丸いわけよ。
つまり──────おっぱいじゃん!? これっ、おっぱいじゃんッ!!?
いやいや、ダメだろこれは。
もしも小学生の妹と一緒にお風呂に入っても許されるラインがあるとすれば、きっとそれは妹の胸をおっぱいと認識しているか否かだと俺は思うね。
そして、俺の脳ミソは視覚から伝達された胸部の膨らみを”おっぱい”と認識してしまっている。もはやどれだけ取り繕おうともだ。
これ以上、由奈のおっぱいを見るのはヤバい。もしもここで、俺の股間にぶら下がっている眠れる獅子が目を覚ましてしまうなんて事態になれば──。
二日目にして新家庭崩壊の危機だよ!?
息子よ、起きてはいけません! そのまま眠っているのです!
必死に股間に念を送ることで、若干薄目を開けかたけた獅子は、また深い眠りについたのであった。
あっぶねぇ……。
「お兄ちゃん、何してるんですか?」
俺が心の中で壮絶な戦いを繰り広げているのを知らない由奈は「コイツなに一人でクネクネしてんだ?」って目でこっちを見ている。
「ハハッ、なんでもないよ?」
「そですか……んしょっ」
気のない返事をしながら、由奈はスルリとパンツをずり下ろすと、片足を上げてその小さな布切れを足から抜き取った。
産毛すら生えてないツルツルの股に、スジがハッキリくっきり見えていた。
丸見えである。無修正である。
「Ouch!」
本能的に危険を察した俺は由奈の裸から慌てて顔を背ける。
あかんでー、これはあかんヤツやでー。
女の子の裸なんてエロ動画でしか見たことがない俺には、小学生とはいえ生で女の子のおっぱいやアソコを見てしまったことに衝撃を受けてしまう。
くびれのないストンとした体つきながら胸だけがぷっくりと膨らんでいて、子供なのにちゃんと女の子の体をしている。そのアンバランスな体つきが余計に見てはいけない感を強めていた。
「服、脱がないんですか?」
呆気にとられている俺に、由奈は裸を隠そうともせず平然と立ったまま尋ねてきた。どうやら気にしてるのは俺だけで、由奈は裸を見られることに何も感じていないようだ。
「あ、いや、すぐ脱ぐから……由奈は先にお風呂に入っててよ」
「わかりました」
そう言って由奈が一足先に浴室へと入ると、すぐに曇りドアの向こうからシャワーの流れる音が聞こえてきた。
おいおい、どうすんだこれ。
一緒に入るのをやめようかとも思ったが、ここで引き返したら由奈に嘘をつくことになる。妹からの好感度を下げるような真似はしたくなかった俺は意を決して服を脱ぐのであった。