小学生の義妹と風呂に入り、そのうえ手コキで射精させられてしまう醜態を晒した件から一夜明け、スマホのアラームで目を覚ました俺は、ベッドの上でぼんやりと天井を眺めていた。
もしかしたら、あの出来事は抑圧された思春期のイカ臭い欲望が見せた夢だったのかもしれない────。
などと、やらかしてしまった事を認めたくない余りにアホなことを考えてしまうが、すぐに無駄な行為だと悟ってベッドから抜け出す。
そして、寝ぼけた頭を覚まそうと向かった洗面所でタイミング悪く由奈と鉢合わせてしまった。
「おはようございます。お兄ちゃん」
「うっ、うん、ハハッ、おはよう……」
あんなことをしでかした後で、一体どんな顔をすればいいというのだ。
気まずさに乾いた笑いをする俺とは対照的に、由奈はいつもと変わらない無表情でこちらを見ると、鈴の音のように澄んだ、しかし抑揚のない声で挨拶をする。
あまりにも普段通りな義妹の様子に、もしかしたらアレは本当に夢だったのではと思いたくなるが、由奈の顔を見ているだけで、風呂場で体験した甘美な快感を思い出して股間が疼いてしまう。
おいおい、朝っぱらから何を考えてるんだ俺は。
朝立ちとは違う理由で勃起しそうになるムスコをなだめていると、タオルで顔を拭いていた由奈が横に移動する。
「どうぞ」
「あっ、うん、ありがと……」
場所を譲られ洗面台に向かうと、俺は蛇口から流れ落ちる水を手の平に掬って顔に浴びせ掛けた。
冷たい水の感触によって浮ついた気持ちが鎮まると、股間の疼きも次第に治ってゆく。
横から由奈が手渡してくれたタオルを受け取り、顔についた水滴を拭ぐってから目の前の鏡を覗き込むと、そこには見慣れた自分の顔が映っていた。
いつも通りの平凡な顔。普通という言葉がよく似合う俺の顔だ。
そうだよ、俺は普通なんだ。間違っても小学生に欲情するような変態ではない。
由奈は小学五年生、性に興味を持ち始める年頃なのだろう。そのせいで、昨日はちょっと悪ふざけが過ぎてしまったのかもしれないが、俺が平常心を保っていれば、あんな間違いはもう起こらないはずだ。
そう、こんな時こそ兄として毅然とした態度で接するべきなのだ!
なんてことを考えていた俺の袖を由奈の小さな手がクイッと引っ張った。
「──なに?」
「お兄ちゃん、寝グセがついてます。しゃがんでください」
「あ、はい」
なぜか言う通りにしてしまう俺は言われるままに膝を曲げ、由奈は目線の高さまで低くなった俺の頭についた寝癖を優しく撫でつける。
まっ、まあ、これぐらいなら仲の良い兄妹の範疇だよな?
俺は兄として甘んじて妹に頭を撫でられることを選択したわけなのだが、それにしても────顔が近い。
文字通り、目と鼻の先に由奈の顔がある。
感情の読めない瞳が俺の顔をじっと見つめている。呼吸をするたびにプニッとした唇の隙間からピンク色の舌が見え隠れする。
俺、この子とキスしたんだよな……。
せっかく忘れようとしているのに、こんなふうに顔を近づけられたら嫌でも唇の感触を思い出してしまう。
女の子とキスをしたの初めてだったが、高校二年生でキスを済ませたというのは、中々のリア充っぷりじゃないだろうか?
問題は相手が小学五年生の義妹ってことだ。
親にバレたら家族会議待ったなし。学校では周囲からドン引きされ、ロリコンの烙印を押された俺はイジメられ、学校にも行けなくなって引きこもり、ニートと化し親からは愛想を尽かされ家から追い出され、最後はボロアパートの片隅で誰にも知られず孤独に…………。
こわっ!? ついつい悲惨な未来を想像してしまったが、これがあながち冗談で済まないのだから恐ろしい。
うへへっ、女の子とキスしちゃったぜ! なんて浮かれている場合ではない。俺はよく考えもせずに非常に危険な行為をしてしまったのだ。
だから、もう二度とあんなことをしてはいけないと、頭では理解できているはずなのに、それなのに────。
俺の脳内では裸で由奈と抱き合いながらねっとりと舌を絡ませたディープキスをする記憶が呼び起こされていた。
小学生の甘い唾液に自分の口内が犯される感覚を思い出して背中がゾクリとする。
ヤバい、ヤバい、ヤバい……俺は今、由奈とキスしたいと思っている。
それは危険だと理性が警告しているにもかかわらず、あの甘い唇をもう一度味わいたいと本能が望んでしまっている。
興奮にドクンドクンと高鳴る心音が頭に響くのを感じながら、俺は無意識に由奈の可愛らしい唇に自分の唇を近づけてゆき────。
「はい、もういいですよ」
もう少しで唇が触れ合いそうになったところで、由奈はフイッと顔を背けてしまった。
「あっ……うん、ありがと……」
作り笑いをしながらも、内心では冷や汗がダラダラである。
あっ、危ねぇぇ……っ! セーフ! ぎりぎりセーフ!!
危うくまた間違いを犯しそうだったのを未然に防げて安堵するが────そのときの俺は由奈とキスできなくて落胆している自分に気づいていなかった。
*
朝っぱらから悶々としてしまったが、家を出て学校に向かっているうちに動揺は消え、到着する頃にはすっかり平常心を取り戻していた。
そして俺は靴箱の前で見覚えのある女子に遭遇する。
「神山おっはよ〜」
「佐伯さん、おはよう」
佐伯さんは今日も明るくて可愛い。俺みたいなモブ野郎にもちゃんと気づいて挨拶をしてくれるなんて、さすがのコミュ力である。
「あっれぇ?」
そんな佐伯さんがこちらをじっと見つめている。
えっ、なんだろう?
「神山さ〜、なんかイイことあったっしょ?」
「へ、なんで?」
「いつもより元気っぽい気がする」
「そうかな? いつもと同じだと思うよ」
「ウソだ〜、いつもは声掛けたら、あっ、うっ、えっ、って、めっちゃキョドってるじゃ〜ん」
キョドっ……て、やっぱりそう思われてたのか……実際その通りなんだけど、でも別に良いことなんて。
そこで思い浮かんだのは裸になった由奈の姿だった。
おいバカやめろ。なんで今そんなこと考えるんだ。それにあれは良いことではなく、むしろ悪いことだろうが。
頭に浮かんだ悪い妄想を必死にかき消して、俺は佐伯さんとたわいのない会話をしながら教室に向かったのだが、言われてみれば、佐伯さんとまともに会話ができたのはこれが初めてだったし、その日は女子を相手にしてもあまり緊張しなかった。
なんでだろう?
*
「二人とも〜、お風呂沸いたわよ〜」
その日の夜のことだ。昨日と同様に学校から帰って三人で夕飯を食べた後、リビングでくつろいでいた俺と由奈に向かって台所から綾乃さんが呼びかける。
「じゃあ……由奈が先に入りなよ」
これも昨日と同じ。けれど口ではそう言いながらも、俺は内心で違うことを考えていた。
もしまた彼女が一緒に風呂に入ろうと言ったら……と。
断るか? いや、でもせっかく仲良くしようとしているんだから、俺から突き放すのは良くないし、一緒に風呂に入っても俺がしっかりしていれば問題はないわけで。
小学生の妹を相手に間違いを犯してはダメだと頭では理解していながら、本音では由奈が一緒に入ろうと言い出してくれることに期待している俺がいた。
その証拠に、股間では膨らんだペニスによってズボンの布地が盛り上げられていた。
さあ、言え、言ってくれ!
「……わかりました、先に入りますね」
しかし、俺のやましい期待を嘲笑うかのように、由奈はそれだけ言うと一人でさっさと風呂に向かってしまった。
またしても肩透かし……いやっ、違う、これでいいんだよ。
普通は高校生の兄と小学生の妹は一緒に風呂なんて入らない。これからも一人で風呂に入ってくれれば万事解決じゃあないか。
そうやって自分に言い聞かせ、どうにか納得しようとするものの、やはり俺の胸中には満たされない気持ちが残ってしまうのだった────。
*
由奈が風呂から上がった後、俺は一人、浴室の椅子に座り、目を瞑って裸の由奈を思い浮かべながら、自らの手で勃起したペニスをしごいていた。
ぷにっと柔らかい唇の感触、甘い唾液が絡むヌメついた舌が口の中をうねうねと動き、ペニスを握った小さな手に扱かれるのを想像しながら、ボディーソープでぬかるんだ手を動かす。
「うっ……ぅぅっ……ッ!」
そして、あっけなく射精へと至った俺は、妄想の中の由奈に向けて粘ついた白濁液を射精した。
「ふぅっ……はぁ……」
目を開けると手の平には無残に放出された白くドロついた精液、そこから青臭い匂いが漂ってくる。
射精したことで興奮が冷めてくると、義妹をオナネタに使ってしまった罪悪感と共に、満たされない虚しさが倍増する。
あぁ……由奈の手でシゴかれながら射精したときは、あんなにも満たされた気持ちになれたというのに……。
こびりついた精液をシャワーで洗い流してから、俺は風呂に浸かりながら由奈のことばかり考えるのだった。
*
風呂から上がり自室のベッドで仰向けになっていると、不意にドアをノックする音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん、由奈です。入ってもいいですか?」
外から聞こえてくる義妹の声に驚いて、俺は慌てて起き上がる。
「どっ、どうぞ!」
動揺しているせいで妹相手に何故か敬語になってしまうが、今の俺にはそんなこと気にする余裕はなかった。
こんな夜遅くに、妹はいったい何の用で兄の部屋を訪ねてきたというのだろう。
わからない、わからないが、俺の胸は期待に高鳴っている。
そして、ゆっくりとドアが開かれると、そこには可愛らしいパジャマ姿の由奈が立っていた。
息を呑む俺を見つめながら、由奈は一歩部屋に入ると、後ろ手にドアを閉めたのだった。