佐伯さんとキスをした後、俺は何も考えることができないまま、気がつけば家に帰ってきていた。
ただいまを言う気力もわかず、のろのろと靴を脱ぎ、重たい足で階段を上がり、ようやく自分の部屋に到着する。
ドアを開けて部屋に入ると、ベッドの上で寝転んでいる義妹の姿。
首から膝下まですっぽりとかぶるタイプのスウェットのワンピースを着た由奈は、何をするでもなく、手にしたスマホを見ながら、足をぱたぱたと動かして寛いでいる。
「おかえりなさい。お兄ちゃん」
由奈は俺に気づいて、チラリと顔を向けてから、すぐにまた視線をスマホに戻した。
「うん……ただいま」
妹が勝手に部屋に入っていようと、べつに気にしない。むしろ、由奈の顔を見たことで、ようやく気持ちが現実に引き戻された。
俺はカバンを床に置くと、着替えもせずベッドに上る。そして、うつ伏せになっている由奈の足元に座り込むと、まるで猫が狭い場所に潜り込むように、スウェットの裾をめくって中に頭を突っ込んだ。
薄暗い服の中は由奈の体温でぬくもっていて、甘いミルクの匂いに満ちている。
頬に感じるコットンパンツの優しい肌触り。プニプニの可愛いお尻を両手で揉みながら、尻肉に顔をうずめ、由奈の匂いを鼻の奥までめいいっぱい吸い込んでから、ゆっくりと吐き出す。
あぁ……気持ちがやすらぐ……。
小学生の妹のお尻には、きっと兄の心を落ちつかせる効能があるのだろう。なんという安心感。じつにミルキィだ。
心の安定化をはかるため、俺はそのまま深呼吸を繰り返した。
「お兄ちゃん、由奈のお尻の隙間で息しないでください。あついです。ムレムレです」
妹の尻からクレームがきたので、仕方なく頭を引っ込めると、由奈も起き上がってこちらに向き直る。
「それで、今日はどうしたんですか? またクラスの人にいじめられたんですか?」
「いや、俺は別にいじめられたことはないよ!? 勝手にそんな設定追加しないでよ!」
そう、俺は陰キャなモブ扱いされてるだけで、いじめられているわけではないのだ。
────ほんとだよ? ほんとだぞ!? やめて、そんな疑わしげな目で兄を見ないでッ!!
「じゃあどうしたんです?」
「じつは……」
俺は由奈に事の顛末を全て話した。
佐伯さんとキスしたこと、そのまま付き合うことになったこと。
「おめでとうございます」
「え?」
「凛花さんのことが好きだったんでしょう? 嬉しくないんですか?」
「それは……」
あれ? 言われてみれば、なんで俺ってば、こんなにテンション低いんだ?
好きだった女の子が彼女になってくれて、キスまでしちゃって。ふつうはテンション爆上がりしてる場面なんじゃないのか?
「いや、嬉しい。嬉しいよ? けど……」
佐伯さんと付き合えるのは素直に嬉しい。それは間違いない。それなのに、両手を上げて喜べないのはなんでだ?
びっくりして気持ちが追いつかないっていうのもある。けど、今はなんだか、嬉しいと思う気持ちを別の感情が覆い隠してるというか……。
自分の感情をうまく言葉にできず黙り込んでいる俺の手を由奈が優しく握った。
「おにいちゃん。おいで」
かるく手を引かれただけで、俺は妹の胸に誘い込まれるように抱きついていた。
「よしよし、いいこいいこ」
ちっちゃな体の温もりを感じながら頭を撫でられると、気持ちよくて頭の中がとろんとしてくる。
「もう……由奈とこういうことしちゃ、ダメなのかなぁ……」
ふいに口から漏れ出た言葉。それこそが、俺が佐伯さんと付き合うことを素直に喜べずにいた理由だった。
俺と由奈の関係が、一般的な兄妹から大きくかけ離れたものだということを自覚しながらも、なあなあでここまできてしまった。
けれど、彼女が出来てしまったからには、いつまでも兄妹でこんなことを続けてはいけないんじゃないだろうか。
そう考えてしまったのだ。
「お兄ちゃん」
独白ともつかない問いかけに答えるように、俺の口に由奈の柔らかな唇が重ねられた。
「んっ、ちゅっ……ちゅぷ、れろっ……」
もう何度したかもわからない兄妹キスは、自然と互いの舌を擦り付け、ねっとりと絡ませ合う。
甘い唾液と舌の感触に浸りながら、口の中がじゅうぶんに幸福で満たされたころ、由奈は口を離して俺に囁きかける。
「だいじょうぶです。これからも、由奈はお兄ちゃんを甘やかしてあげますよ」
「いいのかな……?」
「いいんです。だって由奈とお兄ちゃんは兄妹なんですから。それは彼女ができても変わりません」
「……そっか」
「お兄ちゃんに彼女ができても、お兄ちゃんが結婚しても、お兄ちゃんが老人ホームにはいっても、由奈が甘やかしてあげます」
「そっ……そっか?」
妹の言葉が妙に重たく感じるのは何故だろう?
けど、そうだよな。たとえ佐伯さんと付き合うことになっても、兄と妹の関係は変わらない。だって家族なんだから。
「恋人と家族はべつばらです」
別腹!?
「だからお兄ちゃんは、これからも気にせず由奈とイチャラブしていいんです」
なるほどなぁ。
べつに恋人がいたって、小学生の妹にナデナデされたり、小学生の妹とベロチュウしたり、小学生の妹マンコと先っぽチュッチュしてもいいのかぁ。
だって家族なんだから!
ははっ、なんだよ、余計な心配しちゃったな!
ていうか俺、ついに念願の彼女ができちゃったんだ! やったぜッ!!
全てが杞憂だったことに安堵した途端、押さえ込まれていたテンションが一気に振り返してきた。
「ふふっ、お兄ちゃん元気になりましたね」
元気になるついでに膨らんじゃった股間を由奈がさする。
「お兄ちゃん、シコシコしますか?」
「おっふ!」
「ペロペロもします?」
「おっふおっふ!」
「今夜はお風呂で泡あわチュポチュポしましょうね?」
「おぉォォッふぅぅぅッ!!!」
こうして俺は人生で初めての彼女と付き合うこととなった。