さて、佐伯さんと付き合い始めることになった翌日の朝。
俺は教室で自分の席に座りながら、佐伯さんが登校してくるのをじっと待っていた。
今の俺の心境は、早く彼女に会いたいという期待の気持ちが半分と、これからのことについて不安な気持ちが半分。
クラスのみんなは、誰も俺が佐伯さんの彼氏になったことなんて夢にも思わないはず。今の俺は、まだ名も無きモブキャラにすぎないのだ。
けれど、きっと彼女のことだから、俺と付き合うことを大っぴらに宣言してしまうに違いない。
うん、それは困る。
なにせ根が陰キャなものだから、いきなり堂々と「俺は佐伯さんの彼氏になったんで、みんなヨロシクぅっ!」なんて臆面もなく言う度胸はない。
フレンズC君みたいな奴から反感を買いたくもないし、学校ではなるべく目立たず過ごしたいので、佐伯さんにそのことを伝えるつもりだったのだが──。
「わたし神山と付き合うことにしたわぁ。これからは彼ピ優先だからよろ〜っ」
遅かったぁ……。
彼女は教室にやってきた途端、挨拶がわりに一発キメてくれちゃったよ。
もうね、凍りついたわ。俺が。
けれど、意外なことに、いつも佐伯さんとつるんでいるギャル友達は、「へぇ〜」とか「いんじゃね〜?」なんて、軽い感じで受け入れてくれたのだ。
てっきりブーイングの集中砲火を受けると思っていたのに、これには俺も驚きである。
後で聞いた話だが、俺と佐伯さんの様子を端から見ていた女子たちからすれば、「おまえら、まだ付き合ってなかったの?」って感じだったらしい。
佐伯さんの彼氏宣言によって、興味津々のギャルたちが席の周りに、ぞろぞろと集まってきた。
やばいっ、囲まれた!
まるで、玩具に興味津々な猫の集団である。
相手はただ珍しいものに興味あるだけで危害を加えるつもりはないのだろうけど、こっちからすれば、たまったものではない。
逃げ場がなくて固まっていると、「うはっ、メッチャきんちょーしてんじゃん、うける〜」とか笑いながら指で顔をつついてくるし。「アメちゃん食べる〜?」って、口の中に飴玉ねじ込んでくるし。やっぱギャルこぇよぉ……。
とまあそんな具合に、佐伯さんのギャル友からは、あっさりと受け入れられたのだが、問題はメンズ連中である。
もうさ、女子に合わせて「マジかよ〜」とか軽い感じで言ってるけどさ、目がね、笑ってないのよ。
こいつら絶対に心の中では「は? 冗談だろ、マジありえねぇんだけど? なんでこんな陰キャが凛花と付き合うんだよ」って思ってるから。
その中でも特にわかりやすいのが、前に校舎裏でイチャモンつけてきたフレンズCくん。なんか目が血走ってる。
あ〜、これはもう殺意の眼差しですわ。
狙ってた女子を、自分が見下してた陰キャにNTRされた(まだキスしかしてないけど)逆恨みしてる男の目ですわぁ。
フレンズC以外のAとかBも大体そんな感じで、きっと密かに佐伯さんのことを狙っていたのだろう、俺に対する嫉妬心が見え見えである。
やばいなぁ、これって後で「おい神山、ちっとつら貸せや」とかなっちゃう、ぱってぃーんだよ。
それでも佐伯さんの前で俺の悪口を言うわけにはいかず、微妙な笑いを浮かべる男連中だったが、その中に堪え性のないヤツがひとりいた。
フレンズC君である。
「いやないわ〜っ、神山みたいな陰キャが凛花の彼氏とか、マジありえないでしょ、ぜんぜん吊り合ってなくね? なぁ?」
馬鹿にしたような笑い。陰キャをイジって周囲に賛同を得ようとするC君だったが、それにいち早く反応したのは佐伯さんだった。
「は──? オマエなにうちの彼氏ディスってんの?」
「ぇっ……ぁっ……」
いつも能天気な──もとい、明るく朗らかな佐伯さんの口からドスの効いた声が飛び出した。
静かにキレる佐伯さんの冷たい瞳が向けられ、C君もまさか彼女がそんな反応するとは思っていなかったのだろう、それ以上は何も言えずに押し黙ってしまう。
「いっとくけど、神山に変なちょっかい出したら私が許さないから。そこんとこよろしく」
ドンッ!!!
という効果音が聞こえてきそうな気迫をもって、佐伯さんがフレンズたちに宣言をする。
たじろぐ男連中の隣で、ギャルたちがパチパチと手を叩いた。
「うはっ、凛花めっちゃイケメンじゃ〜ん」
「凛花かっけぇ〜、ホれるわぁ」
うぉぉおおぉぉっ! 佐伯さんマジカッケェェ!!!!
彼女の男気を見せられて、思わず胸がドキッ☆としてしまう彼氏がそこに居た。
あまりにも女々しくて、今なら少女漫画のヒロインが主人公にときめいてしまう気持ちがよくわかるんだぜ!
ちなみに、佐伯さんの「私の男に手を出すな」宣言のおかげで、その後、イチャモンをつけられるようなことはなく、フレンズC君はといえば、別のクラスにいる性格の悪そうなギャルと付き合い始めたらしい。
どうやら俺が佐伯さんと付き合っているのに、自分に彼女がいないというのはプライドが許せなかったらしい。
これ見よがしに教室に彼女を連れ込んでイチャイチャしてみせるけど、ほんとどうでもいいし、ほかのフレンズからもウザがられて孤立している。まあどうでもいい話だ。
そんなこんながあって、俺と佐伯さんの恋人ライフは順調に進み、早くも2週間が経過していた。
今まで以上に一緒にいる時間が増えて、彼女とキスをするのにも慣れ、もうキスだけじゃ我慢できなくなってきた頃。
二人の関係が大きく動くイベントが発生した。
それはよく晴れた日曜日の昼下がり。
佐伯さんがうちに遊びにきた。
まあ、彼女が家に来ること自体はもはや珍しくもない。いつもだったら、由奈も交えて一緒にゲームをしたりするのだが、今日はちょっとばかり状況が違うだの。
何がって?
今、この家には俺と佐伯さん以外、誰もいない。
綾乃さんは遠方の友達と会う約束で帰りが遅くなるらしく、由奈はクラスメイトの友達の家に遊びに行っているのだ。
つまり、ふたりきりである。
玄関で佐伯さんを出迎えた俺は、そのことを佐伯さんに伝える。
「えっと、今日は家に誰もいなんだ」
「……へぇ、そうなんだぁ」
なんてことのない会話のはずなのに、今の一言で、雰囲気が変わったのを感じた。
空気が浮ついて、お互いに何か意識してることを感じ取りながらも、気づかないフリをする。
佐伯さんには先に部屋に上がってもらい。俺はキッチンでお茶の用意をする。
ペットボトルのお茶をグラスに注ぎながら、俺の頭の中では由奈と練習した、とある行為をシミュレートしていた。
いったい何を練習したのかって?
それは遡ること、昨日の夜のことだ。
*
「お兄ちゃん、コンドームはちゃんと買っておいたほうがいいですよ」
「由奈さん!?」
明日、ふたりが出かけているときに、佐伯さんが遊びに来ることを伝えた俺に、由奈はそう忠告した。
いきなりな義妹の避妊具発言にビビる俺。
そんなまさか。付き合い出したとはいえ、俺が佐伯さんとそう簡単にセックスまで漕ぎつけるわけないじゃないですかぁ。
由奈ちゃんたら、やだなぁもぉ。そりゃ……ねぇ?
その後すぐ、俺は夜のコンビニに駆け込んで、『おどろきの薄さ!』を謳い文句にした厚さ0.02ミリのコンドームを購入していた。
棚に並んだコンドームのパッケージは見た目がシンプルで全然いやらしい感じがなく、そのおかげで、あっさりレジに持って行くことができた。
年齢確認とかされたらどうしようかドキドキしたが、よく考えたらコンドームはアダルトグッズじゃないんだから、未成年でも購入可能である。
そして俺はコンビニの袋を握りしめ、ダッシュで家に帰り、由奈の部屋に駆け込むと、「コンドームゲットだぜ!」と高らかに見せつけた。
なんかこう、避妊具を買っただけで、大人の仲間入りをした気分である。
「お兄ちゃん、使い方わかりますか?」
「わからなーい」
「じゃあ、練習しときましょうか。とりあえずパンツ脱いでください」
「あっ、はい」
妹にパンツを脱ぐことを強要された兄は、颯爽とすっぽんっぽんになる。
隠すものがなくなった俺の股間を、由奈が不思議そうに見つめている。
「なんで、もう勃起してるんですか?」
「コンドームにつられて、つい」
「…………そうですか、すごいですね」
あれ。なんか今、めっちゃ呆れられた気がする。
ともかく、下半身の準備は整った。
俺はいざ箱を開封して中身を取り出す。
個別包装された正方形の袋が6個つながった状態でぶら下がっており、そこからひとつちぎり取ると、表とウラの表記があるのを確認してから、封をあけてリング状になっているピンク色のゴムをつまみ出す。
指先に少しぬめった感触。
ほへぇ〜、これが生のコンドームなのかぁ〜、コンドームだけど生とは奇怪な。なんてしょうもないことを考えていると、由奈が説明書きに目を通す。
「先っぽのふくらんでるところをつまんで、空気が入らないようにオチンチンにかぶせてください」
「ラジャ!」
妹の指示にしたがって、俺はコンドームを亀頭にSet!
「そのままクルクルしてください」
「くるくるくる……と」
亀頭から竿にかけて、丸まっていたゴムが伸びてゆき、俺の勃起チンポは根元までピッチリと薄いゴム膜に覆われた。
完成! これがフルアーマーチンポだ! 包茎って意味ではないぞ!
コンドームに覆われて、テカテカしてる肉棒の勇姿よ。まるでライ○セイバーである。
なんかもう、これだけでも童貞卒業しちゃった気分だわぁ。
「で、どうしようかコレ?」
なにげに1枚100円以上するし、せっかく装着したのに何もせず捨てるのはもったいない。
「じゃ、舐めますか?」
「ひゅうっ、さすが由奈さん。話がわかりすぎるぅっ」
妹のご好意に甘えて、俺は勃起したコンドームチンポを由奈の唇に押し付けた。
「んっ……んむっ、れろっ、ちゅぷっ……」
小さく開けられた由奈の口の中に、亀頭がぬぷりと咥えこまれると、先っぽがじわりと温かい感触に包まれる。
「おぉぅ……なんか、いつもと違う感じがするけど、ぅうぅッ……ふつうにキモチいいッ……!」
さすが、おどろきの薄さを謳っていることだけある。
たしかに、ゴム越しのせいか、いつもより若干刺激が弱い気もするが、舌のまとわりつく感触もしっかり伝わってくる。
「れろっ、ちゅぽっ……んっ、んぅっ……ちゅっ、ちゅぱっ」
もはや俺の気持ちい箇所は全て把握している由奈の舌技によって、的確に射精へと導かれてゆく。
それに加えて、いつも生でしてもらっているせいか、ゴム有りというシチュエーションが逆に新鮮で、妙に生々しく感じてしまうのだ。
俺は自分でも腰を揺らして、由奈の口の中を存分に堪能しながら、せり上がってくる射精感に身を委ねる。
「あぁっ、由奈っ。でるっ、もうでるよっ……! うぅうっ!!」
ぶるっと腰を震わせて、入り口まで登り詰めた精液を開放する。
どくっ、どくっ、どくっ──! と、堰き止めていたものが一気に吹き出す快感と脱力感。
「んっ……ちゅぷっ、れるっ……ふぅっ……」
由奈は口に咥えたまま、射精に震えるイチモツをゆるゆると舌で愛撫してから、最後にチュポッと口からペニスを抜き取った。
口元は唾液で濡れているが、いつもみたく口内にドロドロのザーメンが溜まっているわけではない。
そのかわりに、チンコに装着されたコンドームの液だまりには、俺の精子がつまった大量のザーメンがしっかりと受け止められており、たっぷんと膨らんでいた。
「ふへぇ〜、こうなるのか」
俺は中身をこぼさないように、そっとチンポからコンドームを引き抜くと、入り口を縛って蓋をした状態でつまみ上げる。
テッテレー! 『ザーメンコンドーム』を手に入れたぞ!
「由奈、由奈っ、ちょっとこれ持ちながら、ピースしてみて。そう、もっと顔の近くで、そうっ、そんな感じ!」
俺の注文通り、由奈は右手でザーメンの詰まったコンドームを顔の横でぶら下げながら、左手でピースをしてみせる。
う〜む、無表情なのがちょっと気になるが……素晴らしい! これはぜひ写真に納めたいメスガキビッチの絵面だ!!!
「まんぞくですか?」
「あっ、はい。すみません……」
無味な視線に見つめられ、俺は申し訳なくコンドームを回収する。
このままゴミ箱に捨てて綾乃さんに見つかったらことなので、後で紙に包んで捨てよう。
「いやぁ、けどコンドームって妙にエロい感じがするよね? 由奈もこの方が楽なんじゃない?」
射精した後も縛って捨てるだけでOKなのだ、口内射精するよりも負担は減るし後片付けも楽だろう。
しかし、由奈は微妙な顔をしながら、もごもごと口を動かすと、ティッシュを口元に当てると、「ぺ」と唾を吐く。
「ちょっとゴムくさいのであんまり。やっぱり、お兄ちゃんのチンポはナマしぼりにかぎりますね」
「おぉぅ……」
JS妹のブレない発言に戦慄する兄であった。
*
そして現在に至る。
お茶のグラスを持った俺が自室のドアを開けると、部屋の中には佐伯さんから発せられる甘い匂いが充満していた。
「おっ、おまたせ……」
「うん……」
お互いに、これから何かが起こることを予期している。
俺は枕の下に隠したコンドームのことを思い出しながら、部屋のドアを閉めるのだった。