セミはとっくに鳴きやんだのに暑さは続く九月の頭。
青く広がる空を見上げていると、この夏の出来事が思い起こされる。JKふたりと一緒に海水浴に行ったりと、俺がこれまで生きてきた中で過去最高にアオハルした夏だったのは間違いない。
それだけでも夢のような出来事だったのに、更には、あの夏祭り……俺は、美緒に告白されてしまった。
うむ、現実を受け止める為に、あえてもう一度言おうじゃないか。
俺は!JKで!巨乳で!美少女な!姪からッ!告白されてしまったぁああああぁッ!!!
──ふぅぅぅっ……思い出すたび胸がモキュモキュして発作的に叫びたくなっちまうぜぇ。
今の状況を恋愛ドラマのあらすじっぽくまとめるなら──「夏祭りで秘めた恋心を打ち明けた美緒、姪の一途な想いをどう受け止めるべきか葛藤する叔父。変わってしまった二人の関係。はらはらドキドキの同居生活第二部がここに開幕ぅっ!」という感じだろうか。
今も家のリビングで美緒とふたりきり、マジでラブする5秒前? ほら、こちらから熱い視線を送ると、彼女は恥ずかしそうに、はにかんだ顔を俺に見せて──。
「おじさん、さっきからジロジロ見すぎ、何か用?」
「あ、いえ……すみません、なんでもないです」
──くれると思っていた時期が俺にもありました……。
実際のところ、夏祭り以降も俺と美緒の関係は驚くほど変わっていなかった。
美緒はなにも無かったみたいに平然としていて、俺に告白の返事を聞かせ欲しいとも言ってこない。けど今まで通りセックスはしてる!おまんこフリーなJKは最高だゾイッ!
──うーん、だめじゃね? これって問題を先延ばしにしてるだけじゃね?
美緒との同居期間も残り半分を切った。この関係にもけじめをつける時がやってくる。いつまでもこのままという訳にはいかないのだ。決断の時は迫っている!
しかし……逆に考えれば、まだ半分とも言える。つまり〜?
もう少しだけ、JK姪とのエチエチなモラトリアムを堪能しても、いいんじゃないかな!?
窓の外に目を向けると、まだまだヤル気の太陽が空に輝き、そのせいで気温は連日三十度超え。とてもじゃないが外に出る気になれない。こんな日は冷房の効いた家で美緒とエッチするに限るぜッ!
などと、ソファに寝っ転がってダメ人間の見本みたいな思考をしていたときだった。
「……おじさん、少し運動したほうがいいよ」
「へ?」
気づけばこちらを見ていた美緒、その視線は俺の腹部に向けられていた。
「俺、太ってるかな?」
「ううん、べつに太ってはないけど、いつも休みは家にいるから、たまには外で体を動かしたほうが健康的だと思う」
「まあ、そうだな」
「海に行ったとき、すぐにバテちゃってたでしょ? おじさんはもっと体力をつけたほうがいいよ。持久力の強化を狙える有酸素運動がおすすめ」
「うっ……それは、そうだけれどもっ」
言うだけあって、おへそが見えるショート丈のノースリーブを着た美緒のお腹はキュッと健康的に引き締まっている。それに比べて俺の腹は、ムニッと指で摘めるいかにも三十路といったたるみ具合だ。最近は体力面でも衰えを感じずにはいられない。
学生の頃ならいざしらず、社会人になると趣味でスポーツでもしていないかぎり休日に運動することなんて滅多にないのだから、年を追うごとに身体能力が低下するのは当然だが……。
「とは言っても、スポーツジムとか長続きしないだろうしなぁ」
「そこまでしなくても、軽く走ったりするだけでも効果はあるよ、近くの公園にジョギングコースがあるでしょ?」
「ああ、そういえばあったな」
マンションから歩いて行ける距離にテニスコートや運動場なんかが完備されている大きめの公園があり、そこは外周がジョギングコースになっているのを思い出す。一度も利用したことはないが──。
「わたしも久しぶりに走りたいから、一緒にいこ?」
「なんだ美緒、おまえ運動好きだったのか?」
「うん、中学のときは陸上部だったし。ほら、これ、三年生のときに出た大会の写真」
そう言って、美緒が見せてくれたスマホの画面には、今よりも少しあどけない顔をした美緒が競技場に立っている姿が映っていた。
上下に分かれたセパレートタイプのユニフォームで、日焼けした美脚と股間にピッチリ食い込んだビキニパンツがなんとも眩しい。どうやら美緒のスタイルの良さは陸上経験によるものだったらしい。
「へぇ、かなり本格的だったんだな……」
姪の健康的なエロスに注目していた俺は、ふと、あることを思いついてしまった。
「ちなみに、このユニフォームってまだ持ってるの?」
「記念に取ってあるから、たぶん荷物に入ってたと思うけど。どうして?」
「俺も一緒に走るからさ、その代わりに──」
俺が耳元で”お願い”を囁くと、美緒が珍しく眉間にシワを寄せた。
「……本気?」
「俺はいつだってマジだぜ」
「おじさんがしたいなら、わたしはいいけど……」
「ほんとか!? よ~し、それじゃあ、おじさんチョット張り切っちゃおっかな~」
まさか承諾してもらえるとは思っていなかったので喜び勇んで支度を始める俺に、美緒が若干呆れた顔を向けるのだった。
*
本格的に走るなんていつぶりだろうか。とはいえ、学生時代は運動も出来る方だったと、公園のジョギングコースぐらい余裕だろう。見ればTシャツ短パン姿のおじいちゃんですら元気に走ってるし、これなら楽勝ですわ。
──などと、ろくにペース配分も考えず軽い気持ちで走り出したことを後悔するまで、そう時間はかからなかった。
「はひっ、はッ……ひッ、ヒッ……っ!」
「おじさん、大丈夫?」
「はっ、ハッ……これっ、ぐらっ……よっ、ゆっ……ウっ」
嘘です。めっちゃキツイ……!
コースは一周が3Km程。最初こそ並走する美緒と会話をしながら体を動かす心地よさを感じていたものの、中間地点に差し掛かる頃には、そんな余裕はとっくに無くなっていた。
足は鉛のように重いし、心臓がバクバクと脈打つ。肺は酸素を求めているが苦しくてまともに息が吸えない。しかも、厳しい暑さで汗がとめどなく吹き出し、体から水分が失われていくのを感じる。
──これが十年近く運動をしてこなかった三十代のリアル!
「はっ……うっ……おれに、かまわず……はぁっ、美緒はっ、さきにっ、行って、いいぞぉ……」
「わかった、無理しないで、キツかったら途中で休憩してね」
「おっ、おぅ……」
ペースアップした美緒の背中が、みるみる小さくなっていく。
このままリタイアしたら、あまりにも情けない。せめて一周は走りきらねばと、おじさんのプライドを振り絞って走り続けるが、最後は横っ腹の痛みで徒歩になり、ゴール直前で美緒に追いつかれて周回遅れとなってしまった。
──くそっ、どうして俺は若いうちにもっと運動しておかなかったんだ。
圧倒的な敗北感を味わいながら、自販機で買ったスポーツドリンクを片手にベンチでうなだれていたら、たいして息も上がってない美緒がこちらにやってくる。
「わたしはもう一週してくるから、おじさんは少し休んでて」
「あ、はい……」
軽快に走り去る姪の背中を見送った俺は、隣で休憩していたおじいちゃんと、のんびり世間話をして過ごしたのであった。
*
「やっぱりおじさんは、もっと運動したほうがいいね。これからも定期的に走りにいこ」
「うぅ、お手柔らかにお願いしますぅ」
ジョギングを終えてようやく家に帰ってきたが、休憩を挟んでも俺の足はプルプルしっぱなし。美緒もあれだけ走れば汗もかいたようで、じっとり濡れた肌と、頬にくっつく髪の毛がなんともエロい……。
暑さで乾いた喉がゴクリとつばを飲み込む。
「じゃっ、じゃあ……約束通り、いいか?」
「ほんとにするの?」
「もちろんだ」
「はぁ……わかった」
期待の篭った眼差しで俺に見つめられながら、美緒は観念した様子でランニングウェアの上下を脱ぐ。
「おぉっ!」
「あんまりじっと見ないで、ちょっと恥ずかしい……」
珍しく羞恥に頬を赤くする美緒。その体には中学時代のぴっちりした陸上ユニフォームがまとわれていた──。