だめっ、また流されちゃう……。
母親として息子を正そうとする意気込みはどこに消えたのか。タカくんに抱きしめられ、彼から伝わってくる熱い脈動を感じた体は、その手を跳ね除けるどころか、これから起こることに期待してドキドキと胸を高鳴らせてしまう。
もしもまた、今朝のような強引さでもって、あの逞しいペニスを突きつけられたら……。
想像するだけでショーツの奥に隠された陰部がキュンと疼いて、膣奥からトロリとした分泌液が滲みでてしまう
「ママ、ボクもう我慢できないよ……」
「あぁっ、タカくん……」
火照る体、湧きおこる情欲。力強い腕になす術もなく抱き寄せられ、熱に浮かされるままに、私とタカくんの唇が近づこうとした、そのときだった。
「お母さん、お兄ちゃん。なにしてるんですか?」
タカくんの背後にあるドアから、由奈がひょっこりと顔を覗かせ、キッチンで抱き合っている私たちを不思議そうに見ている。
驚いた私は慌ててタカくんから離れると、取り繕った笑顔を由奈に向けた。
「なっ、なんでもないのよ。ちょっと、よろけちゃっただけ」
苦しい言い訳だったが、幸いにもタカくんの背中が目隠しになっていたお陰で、キスをしようとしているところは見られていないはず。
「そっ、そうなんだよ由奈。急な立ちくらみでさ。綾乃さん、大丈夫?」
「ええっ、もう平気よ、ごめんなさいね。もうすぐご飯ができるから」
タカくんがオーバー仕草で誤魔化しながら説明をすると、由奈は「そうですか」と、それ以上追求することはなかった。
「じゃっ、じゃあ俺たちは一緒にテレビでも見ながら待ってようかな! ねっ、由奈」
「? べつにかまいませんが」
「よしっ、いこういこう」
由奈は慌てる兄の態度を訝しみながらも、タカくんに背中を押されて素直にキッチンを出て行った。
危なかったわ……。
ひとり残された私は、ほっと胸を撫で下ろしてから、そっと指先で唇に触れた。
あのまま由奈が現れなかったら、私は息子とをキスをしていただろう。
息子との口づけを想像するだけで、息苦しいほどに鼓動が早まる。
もしも唇を許してしまったら、私はそのまま拒めなくなり、息子の全てを受け入れてしまうのではないだろうか。
この鼓動が不安によるものなのか、それとも私は期待してるのか……。
濡れたショーツの感触が気になって、擦り合わせた太ももの付け根から、淫らな蜜液がトロリと垂れ落ちた。
*
それからしばらくして夕飯の準備が整うと、私たちはいつもどおり、何事もなかったかのように三人で食卓を囲んだ。
いつもと変わらない様子で私の作った料理を美味しそうに頬張るタカくんを見ていると、肉欲に飢えて私を求めてきた姿が嘘のように思えてしまう。
私はただ、この幸せな時間を守りたかっただけなのに……。
食事を終えてから少しして、由奈がタカくんに一緒にお風呂に入ろうと誘っていたけれど、私との約束を守ってくれたのか、彼がやんわりと断っているのを見て少し安心した。
けれど、由奈がお風呂に入ったことで、リビングでタカくんと二人きりになってしまう。
私は少し身構えたけれど、タカくんはソファに寝転がって、のんびりとテレビを見ながら寛いでいるだけだった。
息子が今、いったい何を考えているのか、私にはわからない。
隙を見て、また私に迫ることを考えているのだろうか?
もう、あんなことをしてはいけないと、今すぐキッパリと言うべきなのか。
けれど話を切り出す決意ができず、もやもやとしながらテレビを眺めているうちに、由奈がお風呂から出てきてしまった。
「タカくん、お風呂入っちゃいなさい」
「ん〜、俺は後でいいから、綾乃さんが先に入りなよ」
「そう? それじゃあ、お言葉に甘えようかしら」
いつもは私が後なのだけど、今日は色々あって気疲れしていたので、ゆっくりお風呂に浸かってリラックスしたい気分だった。
洗面所に入った私は、ため息まじりに服を脱ぎ、下着も外して全裸になると、髪をまとめ上げてから、洗面台の大きな鏡に映る自分の裸体をじっと見つめる。
三十後半にしてはスタイルは良い方だと思うが、やはり若い頃に比べたら見劣りする。乳房の形も昔はもっとハリがあって上向にツンと反っていた。今はまだ形は保っているけど乳首が少し下向きになっているし、触った感触も、おもちみたいにプニプニして指が沈み込む。
それから後ろ向きになって、突き出したヒップを掴んでみると、たっぷりとした肉感が手に伝わってくる。
私のお尻、こんなに大きかったかしら……?
こっちも、だいぶボリュームが増しているせいで、最近はショーツがピッチリしているのが気になってしまう。
出産経験もあるし、体型が変わるのは仕方ないことだと思っているけど、昔のように大胆なビキニを着て海に行ったりするのは、もう恥ずかしくてできないと思うと、ああいう格好は若いうちに思う存分しておくべきだったなと後悔してしまう。
そんなことを考えながら浴室に足を踏み入れ、シャワーのハンドルを捻ってお湯を出すと、手で温度を確認してから体に掛け流す。
シャワーヘッドから吹き出す細かなお湯が湯気となって浴室を白く曇らせる。
温かなお湯が肌に当たって弾けるのを感じながら、私が心地よさに身を浸していたときだった。
『ママ』
「えッ?」
不意に聞こえてきた息子の声に驚いて振り向くと、半透明のドアの向こう側に人影が立っているのが見えた。
「たっ、タカくん……? どうしたの?」
「ねえ、ボクも一緒に入っていいかな?」
「え……それはっ、ダメよ……」
突然のお願いに、私は咄嗟に断ってしまったが、それでもタカくんは引き下がろうとしなかった。
「なんで? 親子なんだし、一緒にお風呂に入ってもいいでしょ?」
「でも、タカくんはもう高校生だし……」
「そんなの関係ないよ。ボクはママと一緒にお風呂に入りたいんだ」
私のことを「ママ」と呼ぶ息子に、ドキリとしてしまう。
そして、返事を聞かないまま、タカくんはドアの向こうでごそごそと服を脱ぎ始めた。
「ちょっ、ちょっとまって、本当に一緒に入るつもりなの……?」
どうしよう。このままだと無理やり中に入ってきちゃう。
こんな狭い密室で裸のふたりが一緒になったら、ただ入浴するだけで終わらないことはわかり切っていた。
ドアの鍵をかけて入ってこれないようにするべきか、でもそんなことをして拒絶したらタカくんを傷つけてしまうのではないか。
そうやって私が迷っているうちに、外から取っ手が動かされ、カチャリと開かれたドアの隙間から外気が流れこむのと一緒に、全裸のタカくんが足を踏み入れてきた。
「あぁっ……タカくん……」
逃げ場のない状況に緊張しながらも、私の目は息子の裸体をまじまじと見つめていた。
運動は苦手だと言っていたけれど、若さによって引き締められた体は、肉付きは少ないものの、うっすらと筋肉で盛り上がった胸板やお腹は、中年太りで丸くなった夫のそれとはまるで別物だった。
子供でもなく、大人もでない。今まさに成長中の若さを漲らせる肉体に私が見惚れていると、タカくんも同じように、私の裸体をじっと見つめていることに気づいて、私は恥ずかしくなって思わず両手で体を隠してしまう。
「いやだわ、そんなに見ないでちょうだい。もうおばさんの体だもの、だらしないでしょう?」
そう言ってから、私は自分の言葉が息子に対するものではなかったことに気づいた。
やだ……これじゃあまるで、タカくんに綺麗な女として見てもらいたがってるみたいじゃない……。
「そんなことないよ。ママの体は綺麗だし……すごくエッチだ」
その言葉が嘘でないことを証明するように、私の目の前で、大人しかったタカくんのペニスに血流が集まり、ぐぅっと鎌首をもたげて、雄々しく起立した。
男の子の勃起を間近で見せつけられて、顔が熱くなる。
「やだっ、そんなふうにママのこと見ちゃだめよ……」
恥ずかしくなって後ろを向いた私は、言葉とは裏腹に気持ちが高揚するのを感じていた。
息子に裸を綺麗だと褒められたことが嬉しかった。自分の衰えた裸体が若いオスの性欲を滾らせたことが嬉しかった。
母性と女の両方が悦んでしまっている。
だめだわ、こんなときにタカくんに迫られたら、私……。
懸念した通り、すぐさまタカくんが後ろから私の体をそっと抱きすくめた。
「ママの体……柔らかくて、あったかくて、こうしてると、すごく心地いいんだ……」
「あぁっ、タカくん……だめよ……」
遮るものもなく、ぴったりと密着した肌から、お互いの温もりが伝わり合う。
いますぐ振り向き、タカくんを抱きしめて、もっとママのぬくもりで包んであげたくなってしまう。
でも、それをした最後、私とタカくんの関係は、もう元には戻らなくなる気がした。
最後の一線だけは踏みとどまろうと、私は体を守るように腕で隠す。けれど、隙間からもぐりこんでくる息子の手に、乳房を、お腹を、恥部を、優しくサワサワとなでつけられてしまうと、身体中に広がる甘い快楽によって、女の喘ぎ声が浴室に響いてしまうのだった。