「はぁっ……はっ……ふぅぅっ……」
挿入する前に射精してしまったシーズだが、一回出したぐらいでは興奮は収まらず、性液まみれになったアルテラの秘裂に陰茎を擦り合わせる。
ヌルヌルとした刺激と卑猥な光景によって、陰茎はすぐさ硬さを取り戻す。
「あんっ、旦那様のお○んぽ、ここに入りたくてビクビク震えてますわ……」
アルテラが自らの指で陰唇を広げると、その奥に男根を待ちわびてヒクヒクと動く膣口が見える。
「さぁ、旦那様……アルテラの中にいらっしゃって」
今どこそ、アルテラとひとつになる時がきた。
シーズは緊張しながらも、亀頭を膣口の位置に合わせると、亀頭が穴の入り口へぬちょりとキスをする。
後はゆっくりと腰を前に落として彼女の中に入ればいいだけ──。
と、まさにそのときだった。
いきなりドアのノックオンが部屋の中に響き、シーズの体が驚きに硬直する。
そしてすぐに、外から「坊ちゃん」というマーサのしわがれた声が聞こえてきた。
シーズはまるで水をぶちまけられたように頭が冷たくなり、さっきまで破裂しそうなほどに昂ぶっていた性欲が急速にしぼんでいく。
アルテラも驚きに獣耳をピンッと立たせている。
そこから二人は迅速かつ的確に動いた。
まずアルテラは開いた足を床に降ろして立ち上がり、乱れた服装を元に戻す。
シーズはパンツとズボンをぐいっと引き上げながら、執務机の椅子に見事なステップで飛び込み、姿勢を正すと若干うわずった声で外にいるマーサに返事をした。
そしてすぐにドアを開けて入ってきたマーサは、シーズの後ろに目を向けた。
「こちらにいましたかアルテラ」
いつの間に移動したのか、アルテラはまるで何事もなかったように、澄ました顔でシーズの斜め後ろに立っていた。
「はい。旦那様のお仕事を拝見させていただいておりました」
「仕事はまだまだあるのですよ。早く戻ってらっしゃい」
「かしこまりましたマーサさん。それでは旦那様、失礼いたします」
上品に会釈をして去っていくアルテラからは、先ほどまで淫美に乱れていた様子は微塵も感じさせなかった。
その変わり身の早さにシーズが唖然としていると、ふと、ソファの近くに小さくて丸いなにかが落ちているのに気づいた。
拾い上げてみると、それは丸まったアルテラのショーツであった。
まだしっとりとして生暖かい。
つまり彼女は今、ノーパンということになる。それであんな何食わぬ顔ができるのだから、女とはすごいものだと感心をする。
しかしこれはどうしたものか、マーサに見つかっては面倒だし、仕方なくシーズはアルテラのショーツをポケットにしまった。
女性の下着を隠し持つなんて酷く変態的な気がした。
あとで彼女にこっそり返そうと思いながら、そもそもどうしてこんな事態になったのかを思い返す。
(アルテラの尻尾……見忘れたな……)
誰もいなくなった書斎で、シーズはぽつりと呟いた。
*
アルテラがマーサに連れていかれた後、シーズは改めて執務をこなしていたが、どうしても彼女のことを考えてしまい仕事が手につかない。
(いかんなぁ……アルテラを前にすると理性が消える……)
もちろんシーズも年頃の男子であるから、女性の体に興味津々なのは確かだが、こんな自分がこんな節操のない男だとは思わなかったのだ。
今こうしているときでさえ、彼女の艶かしく動く唇や、手に収まりきらない大きくて柔らかな乳房、誘うようにねっとり光る膣のヒダヒダが、脳裏に焼き付いて離れな。
(仕事にならん……)
シーズは手に持っていた羽ペンを放りだし、気分転換に中庭へ向かうことにした。そして、部屋を出てちょうど階段に差し掛かったときだった。
「だんな様ぁ」
不意に、間延びした呼び声が聞こえた。
シーズが声のした方へと顔を向けると、そこには獣耳の少女ミリアがトコトコと近づいてくる姿があった。
さすがにミリアの体型に合うメイド服はなかったのだろう。獣人少女はフワリとしたスカートのワンピースを着て、その上に白いエプロンを身につけていた。
まるで不思議の国に迷い込んでしまいそうな格好である。
なぜこのような子供服が屋敷にあったのかは知らないが、それは小さく愛らしいミリアによく似合っていた。
ミリアはまだ幼いが、成長すればきっと母親のような美人になるだろうと想像させる綺麗な顔立ちをしている。
「可愛らしい服だなミリア。よく似合ってるよ」
少女の低い視線に合わせるように、シーズは少し屈んで話しかける。
「えへっ……」
シーズにもだいぶ慣れたのか、ミリアはハニカミながらも、ちゃんと彼の目を見ることができていた。
「何をしていたんだ?」
「えっと、おそーじしてました」
そう言って、ミリアは手にもった布巾をシーズに見せた。
どうやら階段の手すりを磨いていたらしい。
「マーサがここを掃除をするように言ったのか?」
「はぃ、わたしのおしごとです」
「ずっと掃除してるのか?」
屋敷に住まわせるとはいえ、小さな子供を働かせすぎるのはどうだろうかと思ったが、ミリアはシーズの問いに首を横に振った。
「おそーじがおわったら、おべんきょーします」
「勉強?」
「おばあちゃんが、もじのおべんきょーの本くれました」
昔はシーズもマーサが家庭教師となって勉強を教わっていた。おそらく、そのとき使っていた教科書だろう。
家事の手伝いをさせながら、ちゃんと子供に勉強をさせるというのは、実にマーサらしいと彼は思った。
「ぜんぶおわったら、おにわであそべます」
シーズは安心した。マーサに任せておけば、この少女を無下に扱うようなことはしないだろう。
老婆は厳しいけれど、正しい教師である。それは彼自身がよく知っていた。
「そうか、やることが沢山あるな。大変だろう?」
「んっと……たへんだけど、うれしーです」
「嬉しい?」
少女の意外な反応にシーズは思わず聞き返す。
「まえのおうちは、ぜんぶやってもらってたから。じぶんでするの、うれしーです」
それを聞いて、シーズはアルテラやミリアが獣人の国でどんな生活をしていたのか気になり、どんなところに住んでいたのか尋ねてみた。
「森のなかの、おっきーおへやで、おかあさんと、いっしょでした」
ミリアは両手をばんざいしながら、住んでいた家の大きさを表現しようとする。
「他に一緒に暮らしてた人は?」
しかし、ミリアはまた、ふるふると首を横に振った。
「ごはんもってくる人はいたけど、いつも、おかあさんとわたしだけです」
アルテラが有力者の妾だったということは本人から聞いていたが、おそらく彼女のために離れが用意されていたのだろう。
「ミリアは、そこでどんなことをしてたんだ?」
「おかあさんが、ご本よんでくれました。あと、おにんぎょうであそんだり、おにわでタマけりしたり。でも、お外にはでちゃだめだって」
どうやら、妾の子として、アルテラと一緒に離れに閉じ込められていたようだ。
暮らしに不自由はしていなかったようだが、子供にはさぞ退屈な環境だったに違いない。
そう考えてから、ふと、いま彼女たちが置かれている状況も、立場は違えど、結局はこの屋敷の敷地内に限られた暮らしという点で、同じだということにシーズは気づいた。
やはり、獣人だからといって、ずっと屋敷の敷地内から出れないような生活はさせたくない。
かといって、いきなり獣人の母娘を町に連れていけば、周囲を驚かせてしまうだろう。住民には事前に周知しておいたほうがよさそうだ。
シーズは今後の段取りを考えながら、ミリアに笑いかけた。
「ミリアがいい子にできてたら、こんど、お母さんと一緒に外に出かけようか」
それを聞いて、ミリアの瞳が輝いた。
「ほんとう?」
「ああ、だから勉強も頑張ろうな」
「はいぃ、だんな様ぁ」
ぴょんぴょんと喜びを表現するミリアはとても愛らしい。
シーズがそっと頭を撫でると、ミリアはちょっとくすぐったそうに目を細めた。
「えへぇ……」
少女の獣耳も、もふもふとした毛に覆われているので、撫で心地がとてもよい。
ミリアも嫌がる素振りは見せず、気持ちよさそうに撫でられている。髪の毛もフワリとしており、獣耳も合わさって、クセになりそうな撫で心地であった。
(ああ……癒されるなぁ)
昨夜からアルテラとの情欲渦巻くアレやコレに浸っていたせいか、無邪気な笑顔を向けてくるミリアは、まるで野原に咲くタンポポのように、彼の気持ちをほっこりさせた。
先程まで体の中で暴れていた色欲が浄化されていくようである。
ミリアのためにも、獣人の母娘のことを町の住民にちゃんと理解してもらわなければと、俄然やる気も湧いてきた。
シーズが撫でる手は動かしたまま思案していると、ふいに背後から人の気配がした。ミリアもそれに気づいたのか、耳がピクンッと反応する。
「坊ちゃん」
(また出た……)
シーズは胸中で呟きながら振り返る。
「やあマーサ」
シーズが挨拶をしても、老婆は相変わらずの鉄面皮で口を開く。
「お仕事は捗られていますか?」
痛いところを突かれ、シーズの頬が引きつる。
「ミリアも、ちゃんと掃除はできていますか?」
ミリアもびくっとして背筋を伸ばすと、緩んでいた表情も引き締まった。
マーサはさきほどミリアが掃除していた箇所を、神経質そうに目を光らせて観察する。
なぜだかシーズまで嫌な緊張感に襲われた。
「──まあ、よろしいでしょう」
なんとか許されたことに、シーズとミリアはホッとする。
しかし、老婆はそんな緩みは許さない。
「次はお勉強です。まずは文字の読み書きを覚えてもらいますよ、ついてらっしゃい」
「はっ、はいぃ」
ミリアはうわずった声で返事をしながら、老婆の後ろについていく。
その途中で少女は振り返ると、シーズに小さく手を振ってきたので、彼も手を振りながら「頑張れ」とエールを送る。
ミリアがあの怖い教師になれるには、まだまだ時間がかかりそうだった。