その日、シーズが屋敷に戻ってきたのは夕日が空をオレンジ色に染めた頃であった。
「おかえりなさいませ。旦那様」
主人の帰宅にうやうやしく頭を下げるアルテラに出迎えられる。
メイド姿のアルテラが自分の帰りを待っていてくれた。そんな些細なことでもシーズの頰が緩みそうになっている。玄関の物音に気付いたのか、そこへミリアもやってきた。
「あっ、だんな様ぁ」
ミリアはまるで子犬がじゃれつくようにシーズの手を握りながらぐーっと引っ張った。
シーズもあやすようにミリアのフワフワした髪を撫でながら優しく笑いかける。
「ただいまミリア」
「だんな様、どこいってたんですか?」
アルテラは主人に対する娘の粗相を嗜めようと、ミリアの肩をそっと引き離そうとするが、シーズは「大丈夫だよ」と言ってから、改めて二人に目を向ける。
「明日、きみたちを連れて町に行こうと思う」
それを聞いたアルテラは少しの驚きと不安を表情に滲ませ、対照的にミリアは顔をほころばせる。
「ほんとっ?」
「ああ、本当だよ」
「おかあさん、お外にいけるんだって!」
ミリアは嬉しそうにはしゃぐが、アルテラはやはりどこか不安そうだった。
「旦那様、その……大丈夫なのでしょうか?」
それは、獣人である自分たちが町に出ることで起こりえる問題を危惧した言葉だった。
シーズは彼女を安心させるように頷く。
「俺と一緒にいれば大丈夫さ」
「そう……ですね。旦那様がいらっしゃいますものね」
口ではそう言っているが、やはり彼女の心配は拭いきれなかったようで、シーズは場を和ませるためにミリアを抱き上げながら今日はどんなことをしていたのか尋ねる。
ミリアは身振り手振りを交えながら、マーサの授業では緊張したけど新しく文字を覚えたことや、ドイルと一緒に花壇の花に水をやったことなど、今日の出来事を嬉しそうに話す。
引っ込み思案な娘がいつの間にかシーズと打ち解け、はきはきと喋っている様子を目の当たりにしたアルテラの顔からは、男を惑わせる妖艶さはなりを潜め、そこにあるのは娘を見守る優しい母親の顔だった。
それから夕食の時間となり食堂に出向いたシーズだったが、昨日と違いテーブルに用意されていたのは一人分の食事だけである。
シーズの後ろに立ち給仕をするアルテラに尋ねてみると、自分たちはすでに使用人なのだから、主人と食事の席を共にはできないと言われてしまった。
ちなみに、これまでもマーサとドイルは、シーズの食事が済んだ後に、厨房にあるテーブルで賄い料理を食べていたのだが、特にマーサは歓談をするようなタイプではないので、食事のときは実に静かなものだった。
しかし、そこにアルテラとミリアが加わったことで厨房の空気が変化した。
ミリアの朗らかなお喋りに対して、ドイルは孫を相手にするお爺ちゃんのようにそうかそうかと相槌を打ち、マーサは変わらず黙々と食事をしつつ、ミリアのテーブルマナーに細々と注意はするものの、意外なことにお喋りを禁ずることはしなかった。
*
さて、シーズは食事を済ませた後に、一日の汗を流すために入浴をしているのだが、なぜだか浴室には裸にタオルを巻いた姿のアルテラが一緒にいた。
そこでなにも起こらないわけもなく、今もアルテラの舌がシーズの肉棒を丁寧に舐めている。
「んっ、れろっ……れるっ、れろっ、ちゅっ、ちゅぷっ……」
「うぁっ……そこ、気持ち良いよ……アルテラ」
「んんぅっ……ちゅぷっ、りょうひゅひゃまぁ……きひいいれふかぁ?」
舌の上に亀頭を乗せながら、アルテラはペニスを弄ぶように裏側を刺激する。
最初こそ遠慮していたシーズだったが、いざ事が始まってしまえば快楽に抗えるわけもなく、盛り上がった気分に身を任せていた。
「んっ……ちゅぽっ、じゅるっ……ちゅぷっ、れぇっ……んっ、んふっ……旦那様のお○んぽ、射精したくて震えてますわぁ……」
咥えていた肉棒を口から離すと、アルテラは手を使って陰茎を擦る。
シーズはアルテラの乳房を触りがなら、柔からな唇を堪能する。
「んっ、ちゅっ……れるっ……んむっ、ちゅっ……」
互いの舌を絡ませ合い、アルテラの甘い唾液が口に広がる。
キスをしているだけでも、性交をしているかのような甘い疼きが肉棒に伝わってくるようで、アルテラの手淫による刺激も合わさって、すでに我慢は限界に達していた。
「んむっ、ちゅるっ、んっ……旦那様の白くてドロドロした精子、たっぷり出してくださいませ」
本当ならアルテラの膣内に射精したいのが本音だったが、彼女の手わざがそれを許してくれない。
「うっ、ぐぅっ……」
「旦那様のここ、とっても苦しそう……アルテラの手にビュッビュしましょうね、ほぉら、びゅっびゅ〜っ」
「うっ、ぐぅっ、で、出る……っ!」
まるで赤子をあやすように耳元でネットリとした艶声で囁かれながら耳の中を舌でグチュリと舐められたシーズは、ぞわりとした快感によって我慢できずに射精してしまう。亀頭から放出される精液はアルテラの手にたっぷりと射精されドロドロの白濁液まみれになる
「はぁっ……はぁっ、気持ちよかった……」
シーズは射精の余韻に浸りながら、アルテラのふくよかな乳房に顔を埋める。
「ふふっ、旦那様は甘えん坊さんですね。可愛いですわ」
「そっ、そうかい?」
幼い頃に母親が他界しているのでシーズには母親に甘えた記憶があまりない。だからだろうか、アルテラのような包容力のある大人の女性に弱いのかもしれない。
「それじゃあ、旦那様のおちんちん、きれいきれいにしましょうねぇ」
子供扱いされて恥ずかしいのに、アルテラの母性に逆らうことはできず、言われるままに大人しくなったイチモツをやんわりと撫でられながら、体も隅々まで丁寧に洗ってもらった。
入浴が終わってからシーズの身体に付着した水滴を拭いてもらいながら、含みのあるような視線を向けてくる。
「旦那様のここ、まだまだお元気みたいですわね」
股間をそっと撫でてくるアルテラの問いかけに、シーズは彼女の言わんとすること、それが夜伽の誘いであることを察した。
(今夜こそ……アルテラとセックス!)
二つ返事をしそうになったところで、シーズは口から出かけた言葉を飲み込んだ。
いやまて、あんまり手玉に取られるのもなんだし、ここは男の余裕というものを見せておくべきではないだろうか? という男のプライドが邪魔をする。
たっぷり時間をかけて迷った挙句、シーズは残念そうに首を振った。
「いや、明日のこともあるし、今日はやめておこう。アルテラもゆっくり休んでくれ」
「かしこまりました。それでは、おやすみなさいませ旦那様」
未練がましいシーズと違い、アルテラはそれだけ言ってさっと踵を返してしまう。
(あれっ!? 予想してた反応と違う……)
てっきりこれまでのように、アルテラが誘惑してきて「そんなことおっしゃっても、旦那様のココは正直ですわ……」とか言われながら股間を撫でられ、なしくずし的に彼女と寝室へ行く──。
そんな浅はかな期待をしていただけに、シーズは肩透かしをくらった気分であった。
「あっ、アルテラ」
「はい、なんでしょう?」
振り返ったアルテラの顔を見つめながら、シーズは迷った。
ここで引き止めるべきか、おとなしく見送るべきか。男として正しいのはさてどちらだ。
「おっ……」
シーズは決心して口を開いた。
「おやすみ……」
「はい、おやすみなさいませ」
その夜、この判断は正しかったのだと自分に言い聞かせながら、彼は広いベッドで一人寂しく眠りについた。