獣人の母娘を町に連れていってから数日が経ち、彼女たちも屋敷の生活にだいぶ慣れたようだ。
主人であるシーズへの性的な奉仕ばかりが目立つアルテラではあるが、彼女はメイドとしても十分に有能で、屋敷の雑務から来客対応まで完璧にこなした。
屋敷を訪れた者がアルテラの獣耳と尻尾を見れば、大抵は面食らった顔をするものの、彼女が魅力的な笑顔を見せつけるや、相手はその美貌に見惚れて警戒心も解かれてしまう。
しかし、それがメイドの務めだとわかっていても、シーズはアルテラが他の男に笑顔を向けるのが気にくわないので、あまり愛想を振りまきすぎないよう、それとなく彼女に注意するのだが――。
シーズの嫉妬心などアルテラにはお見通しだったようで、クスクスと笑われた挙句、まるで子供をあやす母親のように慰められてしまった。もちろん性的な意味の慰めであったことは言うまでもない。
アルテラの豊満なおっぱいにむしゃぶりつきながら、シーズはなんだかいいように操られている気がしてならなかったが、彼女の柔らかな肢体に包まれていると、そんなことはどうでもよくなってしまうのだった。
初めてアルテラとセックスをした夜以降も情交は続いており、エッチの回数は増える一方である。
ちょっと二人きりになれば、どちらからともなく体を寄せ、唇を寄せ、それがベッドの上だろうが机の上だろうが、服を着たままでもおかまいなしに――むしろシーズはメイド服を着たままのほうが興奮する――すぐさま性器で繋がってしまう。
シーズも自重しようと思ってはいるが、アルテラと身体を重ねるたびに快感も増していくようで、いったん快楽の虜になってしまえば、なかなか我慢もできるものではなかった。
もちろん、母親とのエッチなスキンシップだけではなく、娘のミリアのことだって、シーズはちゃんと面倒を見ている。
暇があればミリアを連れて近くの森林を散歩したりもする。小さな手を握って仲よく歩く姿は歳の離れた兄妹のようで、周囲の人々は微笑ましく見守っていた。
シーズにとってもミリアは使用人ではなく妹のような存在であった。今では一緒に風呂に入るぐらい仲良しである。
勿論、いかに性欲旺盛な男子とはいえ、つるつるのぺったんこな幼女の体に欲情はしない。
けれどアルテラの娘だけあって顔の造りは整っているし、きっと数年もすれば幼さも抜け始め、やがては美少女に成長するだろう。
母親の巨乳も遺伝しているのなら、きっと胸もすぐに膨らみ始めるに違い無い。
(そうなれば、果たして俺は理性を保てるのだろうか――――)
アルテラの裸を見ればすぐに蕩けてしまう自分の理性が、最近は全く信用できないシーズであった。
*
さて、少々色事にうつつを抜かし過ぎではあるものの、獣人の母娘と共に平穏な日々を過ごしていたシーズだったのだが、そんな彼の元にある日、一通の手紙が届いた。
差出人は遠方の街に住む幼馴染の少女からだった。
幼馴染は大きな商家の娘で、毎年盛大な誕生日パーティーを催すのが恒例となっており、シーズにもその招待状が届いたのだ。
(そうか、もうそんな時期なのか……)
父親が他界してからは忙しくてなかなか会いに行くこともできず、もっぱら手紙のやりとりだけだったのだが、幼い頃から仲が良く、男と女だけどシーズにとっては気の置けない大切な友人である。パーティーには出席しないわけにはいかない。
(というか、断ったら後で酷い目に遭うのは俺だし……)
幼馴染の顔を想像しながら、シーズはやれやれと苦笑するのだった。
そんなわけで、マーサたちに屋敷の留守を任せたシーズは単身、幼馴染の住む遠方の街へ訪れていた。
そこはシーズの住んでいる町とは比べものにならないほど活気があり、外部から訪れる人々によって賑わいを見せている。
それというのも、この地域一帯を取り仕切る大商会によって物流が盛んになっているのが要因なのだが、幼馴染の少女というのは、そのヴィクタール商会の一人娘なのだ。
シーズのラングレイブ家とヴィクタール商会は、祖父の代から深い付き合いをしてきた。
彼の治めるゼルトリアは森に囲まれた田舎であるが、それゆえに森林資源の宝庫でもある。
立派に育った樹木から採れる質の良い木材は、高級家具の材料として高値で取引される。そして、伐採した材木の流通はヴィクタール商会が担っていた。
ラングレイブ家とヴィクタール商会は、大事な取引相手でもあり、商会の現当主とシーズの父は親友同士でもあった。
そしてそれはシーズの代にも受け継がれ、彼は商会の一人娘と幼い頃より交友関係にあったのだ。
街の賑わいに感嘆しながらも、シーズがヴィクタール家の屋敷に到着すると、そこではメイドが慇懃な態度で出迎えてくれた。
もちろん彼女たちに獣耳は生えていないし、スカートからフサフサの尻尾がのぞき見えることもない。
メイドに獣耳と尻尾がないことに軽く違和感を感じてしまうのは、シーズがアルテラやミリアといつも一緒にいるからだろう。
会場へ案内される途中で彼は屋敷の内装に目を向ける。
(何度も訪れてるが、いつ見ても凄いな……)
天井は見上げるほど高く、廊下は並んだ人がすれ違えるぐらい広い。磨かれた大理石の床は滑らかな光沢を放ち、至る所に絢爛と煌めく調度品の数々が飾られている。それも屋敷に来るたび品が変わっているのだ。
流石はやり手商人の邸宅である。シーズの住む年季の入った屋敷とは雲泥の差であった。
そうして到着したパーティー会場の広間は、すでに多くの来客で賑わっており、テーブルに並べられたお抱えシェフによる豪華な料理の数々に、皆が舌鼓を打っていた。
シーズが当主に挨拶しようと広間を見回していると、それに気づいた中年の男性が向こうから近づいてきた。
恰幅のいい体型で、髭を生やした顔にどこかひょうきんな感じの笑顔を見せながらシーズに手を振っている。
「やぁシーズ! よく来てくれたね!」
よく通る大きな声でガッハッハと笑いながら、シーズの肩をバンバンと叩く。この豪快に笑う男こそ商会の現当主、ドミニク・ヴィクタールである。
「ご無沙汰してます。ドミニクおじさん」
シーズにとっても馴染み深い人物であり、父親の死去に際しては、まだ経験の浅いシーズのために手を尽くしてくれた恩人でもある。
肩にのしかかる衝撃に苦笑しながらも、シーズは彼に会えたことを喜んだ。
「それにしても……毎年のこととはいえ、今年は特に盛大ですね」
シーズがパーティー会場の様子に驚いていると、ヴィクタールはまた大きく口を開けて笑った。
「そうだろそうだろ! なにせ可愛い娘の誕生日だからね! 派手にやらないと!」
「で、肝心の主役はどこにいるんですか?」
シーズがいくら会場を探しても、主役であるはずの幼馴染の姿はどこにもなかった。
ドミニクはシーズに問われて、気まずそうに視線をそらす。
「ああ、またですか……」
何も言わないドミニクの様子から、シーズは全てを察したように呟いた。
「すまないんだがシーズ、あの子を呼んできてくれないか? 主役がいないんじゃあせっかくのパーティーが台無しだ」
これもまた、毎年恒例となっているやり取りだ。
「分かりました。彼女は部屋に?」
「ああ、きっとそうだろう。すまないね」
シーズは頼まれるまま幼馴染の部屋へと向かい、そのドアの前で立ち止まって軽くノックをした。
コンコンとノックの音が響くも、しかし中から返事はなかった。
「マリー、いるのか?」
声をかけてもやはり返事はない。シーズが仕方なくドアノブに手をかけると抵抗なく回り、ゆっくりとドアを開けて部屋の中に足を踏み入れる。
広い部屋の中には、まるでお姫様が使うような美しいレースの天蓋の広がる豪華なベッドがあり、大きな窓から差し込む陽光がぼんやりと部屋を照らしていた。
あまりに静かすぎて一瞬気づかなかったが、窓の前に鎮座する椅子には、綺麗なドレスをまとった人形のように可憐な少女が片膝を立てて座っていた。
「いるなら返事ぐらいしてくれよ、マリー」
シーズと同い年だが、その愛らしい容姿は彼女を少し幼くみせる。
さらさらと艶めく背中まで伸びた髪。小さな顔に細い手足。全体的に華奢な身体つきだが、胸は年相応にふっくらと丸みを帯び、透き通るような瞳がじっと虚空を見つめている。
動かないでいると本当に人形なのではと思わせる無機質な美しさに、初めて彼女を見た男は感嘆すらしてしまう美少女だった。
彼女は顔を動かすことなくガラス玉のような大きな瞳をシーズに向けると、小さく愛らしい口を開いてこう言った。
「おい、くるのが遅いぞバカ野郎」
初めて彼女の容姿を見た男は感動し、その透き通った美声で信じられない粗野な言葉を浴びせられて失望する。ここまでがワンセットである。
それがシーズの幼馴染。マリーレイア・ヴィクタールだった。