マリーレイアが屋敷に滞在し始めた最初の夜。
夕食の席ではシーズとマリーレイアが和やかに談笑しながら料理を味わっていた。
いつもは一人で広いテーブルを使っているシーズも、誰かと向かい合って食事がでいるのは嬉しかった。
「これはマーサさんが作っているのか?」
「うん、アルテラも手伝っているみたいだぞ」
シーズのグラスにワインを注いでいたアルテラが、小さく会釈する。
「ほぉ、だったらこんど、獣人の国に伝わる料理を食べてみたいな」
「――マリーレイア様は獣人に興味がおありで?」
「ああ、私は獣人について研究をしていてね。もしよかったら、アルテラさんの故郷についても、色々と話を聞かせてくれないか?」
「あのっ……大した話もできませんので……」
アルテラの過去について、おおよその事情を本人から聞いていたシーズは、故郷の事は触れられたくないのだろうと察する。
「おいマリー、あまり無理を言うなよ。アルテラが困っているだろう?」
答えにくそうに言い淀むアルテラに、見かねたシーズが助け舟を出す。
主人の気遣いに、アルテラは弱々しく微笑むと、マリーレイアから見えない位置で、シーズの手に触れた。
アルテラの冷たい指の感触にドキッとしながら、シーズもこっそりと手を握る。
幼馴染から隠れて指を絡ませ合うな行為はどこか背徳的で、ワインのアルコールよりもシーズの心を酔わせる。
マリーレイアそんな二人の様子を、何事か企むような瞳で見つめながらワイングラスを傾ける。
赤い液体は一息に、彼女の体内へと流れて消えた。
*
夕食を終えて、各々が自室に戻り、夜も更けた頃。
自室で本を読んでいたシーズが、そろそろ眠ろうと部屋の明かりに手を伸ばそうとしたところで、ドアからノック音が聞こえてきた。
反射的にシーズの胸が高鳴る。
これはきっと、アルテラが夜伽に訪れたに違いない!
昼間も口とおっぱいで抜いてもらったとはいえ、溜め込んだ精力は有り余っている。
なんだい、アルテラだって性欲を持て余しているんじゃないか。
シーズはうんうんと頷きながら、アルテラの熱く蕩けるような膣内の味を想像するだけで勃起してしまう。
きっと、ドアの向こうには頬を染めたアルテラが、悩ましい艶姿で主人に迎え入れられるのを待っているはずだ!
「――入っていいぞ」
シーズがドアに向かって声をかけた瞬間だった。
「ジャンボッ!」
「!?」
おかしな掛け声と共に、バンッと威勢良くドアが開かれた。
当然だが、入ってきたのは妖艶な獣人の美女ではない。そこに居たのは見た目だけ美少女の幼馴染だった。
「おいシーズ、これ、都会では流行りの挨拶なんだぞ」
「……まじか」
シーズの期待に満ちていた顔は、既に諦めの表情に変わっていた。
「さて飲もうか」
マリーレイアは片手に持ったワインボトルを突き出す。
「厨房からくすねてきたな?」
「バカ言え、ちゃんとマーサさんに断ったさ」
ドヤ顔でシーズにボトルを渡すと、マリーレイア無断でベッドに這い上がってきた。
「ぬっ……」
よく見ると、マリーレイアはナカナカどうして、けしからん格好をしていた。
透けたベビードールを着ているせいで、体のラインがくっきり出てるうえに、前開きで丈も短いから、可愛いおへそから、だいぶ過激なレースのパンツまで丸見えだった。
こんなの下着以外は裸も同然だ。むしろ、うっすらと隠されているせいで余計にエッチな感じになっている。
(落ち着け俺ぇ……これはマリーの裸、これはマリーの裸、これはマリーの裸……)
マリーレイアに欲情するのは色々な意味でマズイと思ったシーズは、心を空にしようとするのだが、一方の幼馴染はシーズの目を全く気にしていないようで、ベッドの上ではしたなく四つん這いになっている。
丸いヒップと薄桃色のショーツが、シーズの眼前に突きつけられる。
(くっ……けしからん!)
駄目だとわかっていても、シーズの目はマリーレイアのお尻をガン見する。
「おいシーズ」
「なにかナッ!?」
「グラスはどこだ?」
パンツを見ていたのがバレたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「いや、部屋にワイングラスは置いてないぞ」
「しょうがないなぁ……じゃあアレでいいか」
マリーレイアは棚のティーカップを指差した。
「えぇ……」
無作法だと思いながらも、シーズは仕方なく、優美な花の描かれた白磁のカップを取り出して、赤ワインをドボドボと注ぐ。
「かんぱーい」
「かっ、乾杯……」
互いにティーカップを鷲掴みにしながら、チンッと傾けて、一気に中身をあおる。
ゴクリゴクリと喉を流れる赤い液体が、身体に染み込んでゆく。
風情はないが、気取ったものを捨てる開放感は意外と心地よかった。
「キミはいつも、こんなことしてるのか?」
「そんなわけないだろ。今日はあれだ、幼馴染の再会記念だよ」
シーズはカップを傾けながら苦笑する。
「それ、この前したばかりじゃないか」
「バカ言え、お前はすぐに帰っただろ」
「うっ、まあ確かに……」
「最近は手紙しか寄こさなかったし、まったく薄情なやつだ」
「それは、うん、すまなかった……」
父親が他界してからは、立て込んでいたとはいえ、確かに少し疎遠になっていたかもしれない。
シーズは反省しつつも、あることに気づく。
「もしかして、マリーがうちに来たのは、俺がすぐに帰って寂しかった……ぶっ!?」
マリーレイアの投げつけた枕が顔に直撃したせいで、最後まで口にすることはできなかった。
「自惚れるなよコノ野郎」
彼女の頬が赤くなっているのは、怒っているせいなのか、それとも――
しかし、普段はわりと鈍感なシーズだが、なぜかこういうときに限って、無駄に察しが良くなってしまう。
「つまり、きみが馬車に大荷物を乗せてたのは、最初からうちに滞在するつも……ひででっ!?」
マリーレイアの白い指がシーズの頬を引っ張る。
「要らんことを言うのはこの口かぁ?」
凶悪な笑みを向けるマリーレイア。これ以上からかうのは危険だと悟り両手を上げて降参する。
「すまなかった。これからはもっと会いにいくからさ」
「――まあ、お前が来たければ、好きにすればいいさ」
落ち着いたところで、二人はまた、カップにワインをドバドバ注ぐと、ぐいっと飲み干す。
「ぷはっ――そういやお前、夕食のときアルテラさんのことを、妙に庇ってたな?」
「いや、べつに庇ったというか……彼女も過去に色々あったみたいなんだ。詮索はしないでくれよ」
「はぁん? お前はまぁたアレだろ、涙ながらに悲しい過去を聞かされて、疑わずにコロッと信じちゃったんだろ?」
「うっ……それは、まあ、その……」
「ダメだなぁ、女の涙に弱い男ってのはこれだからぁ」
マリーレイアはぐいぐいとワインを飲み続ける。もうほとんど絡み酒だ。
シーズも図星を指されて反論できないうえに、目の前に座るマリーレイアの格好にも困っていた。
彼女が膝を立て座るせいで、先ほどから、逆三角形をしたショーツの膨らみが丸見えだ。
「おいっ、聞いてるのかぁシーズ」
「ああ、聞いてるって……」
パンツを見ないように目を逸すとマリーレイアに怒られるので、前を見るしかない。見るしかないのだ。
大部分がレース生地で作られたショーツは、半分透けているようなもので、面積の割に肌色の露出が多く、彼女の秘部もギリギリ隠れているといった程度。下手をすれば透けて見えそうだ。
自分の知らない間に、幼馴染の女の子が、こんな過激な下着を履くようになっていたことに、シーズはショックを受ける。
(なんてけしからんパンツなんだ。こんないけないパンツを履くなんて。まったくマリーはけしからんパンツだ!)
どうやらシーズもだいぶ酔っているようだ。
「おい、シーズ」
「だから……ちゃんと聞いてるって」
「パンツ見てるのバレてるからな?」
「!?」