*
ぬるま湯に沈んでいるような、心地よく体が溶けてしまうような感覚。
只々きもちがよくて、只々深く沈んでいく――――
「……ぁ……さ……ま」
誰かの声に呼ばれた気がした。
「だん……さま…………だんな様」
それがアルテラの呼び声だと気づいたとき、シーズの意識は現実に引き戻される。
目の前には、心配そうに自分を覗き込むアルテラの顔があった。
どうやらベッドの中で彼女の豊満な乳房に顔をうずめながら、いつの間にか夢うつつとなっていたようだ。
「ああ、すまない……ちょっとぼんやりしてた」
ぼやけた思考を覚まそうと頭を揺する。
(疲れが溜まってるのかな……)
日中も生あくびが絶えず、最近はどうもしゃっきりしない日が続いていた。
「うふふっ、でも旦那様のここ、とっても硬くなってますわ」
アルテラのしなやかな指が勃起したペニスを撫でる。ぼんやりする頭とは裏腹に男根はいつも以上に熱く滾り、彼女の膣内に入りたがっていた。
「ああ、まだまだし足りないんだ」
シーズは腰をずらし亀頭の先端をアルテラのしっとりと濡れた花弁にあてがうと、そのまま膣奥へと挿し込んだ。
ズプリと膣壁を押し広げながら潜り込んだ肉棒に、彼女の熱く蕩けた膣内の感触が伝わってくると、あまりの気持ちよさに腰が勝手に動きだしてしまう。
「んぅっ……あぁっ、旦那様ぁ……」
「はっ、はァッ……アルテラっ、アルテラ……ッ」
彼女の膣をより深く味わおうと、シーズはひたすらに腰を振ってペニスを抽送する。
肉棒を挿入されたアルテラの身体もまた性を求め膣肉は蠢き、シーズを快楽で包み込んだ。
相変わらず頭は重たいままだったが、腰は淀みなく動き、彼女の感じる箇所を的確に突きあげている。
まるで意思とは無関係に下半身が快楽を求めて勝手に動いているようだった。
ベッドが軋み、ランプの明かりに照らされた壁には絡み合う影絵が映り込む。
彼女の耳と尻尾のせいか、その影はまるで人と獣がまぐわっているようにも見えた。
夜が耽るまで交わり、精を吐き尽くしたシーズは、アルテラを抱きしめながら、意識はやがてまた深い泉の底へと沈んでいった。
シーズが眠ったのを確認したアルテラはいつも通り、彼を起こさぬよう気を配りながら、腕から抜け出し部屋を去ろうとする。
そのときふと、ベッド脇のテーブルに置かれた指輪に彼女の目が止まった。
それはシーズがいつも身につけている青い宝石の付いた指輪で、不思議と惹きつけられるような輝きを湛えていた――。
*
次にシーズが目を覚ました時、窓の外では朝日が昇っており、ベッドにはやはりアルテラの姿はなかった。
シーズは欠伸をしながらベッドから抜け出すと、朝の身支度を始める。
顔を洗い、服を着て、髪を整え、最後に当主の指輪を嵌める。それが毎朝の習慣だ。
しかし今朝はそれができなかった。
「あれ?」
シーズは間抜けな声を出しながら、部屋をあちこち移動して回る。
ひとしきりウロウロとしてから、また同じ場所に戻って来たとき、彼の顔は青ざめていた。
「指輪がない……」
昨夜は確かにテーブルの上に置いておいたはずなのに、その指輪がどこにも見当たらないのだ。
もう一度部屋を探し回ったけれど、やはり見つからない。
(ということは……)
シーズは急ぎ部屋を飛び出すと、廊下を早足で進み、目の前のドアをバタンッと勢い良く開けた。
ちなみにそこはマリーレイアの部屋である。
「マリィィッ!」
「うおッ!?」
どうやらマリーレイアは着替え中だったらしく、ショーツ以外なにも身につけていない裸の状態の彼女は、突然の侵入者に驚き、胸を隠すことも忘れて仰け反った。
けれどシーズも相当に焦っているようで、そんなことには構わず部屋にずかずかと入り込み、マリーレイアに詰め寄る。
「おいマリー! 指輪はどこだ!」
「はッ? オマエはいきなり何を言って……」
「しらばっくれても無駄だぞ! 前からキミがあの指輪を欲しがってたのは知ってるんだ!」
細い肩を掴まれグラグラと揺すられるマリーレイアは、うんざりした様子でシーズを押しのける。
「あーもー! だからなんのことだか分からん! とりあえず落ちつけ! 何があったかちゃんと理説明しろ!」
「ぬっ……」
そこでようやく冷静さを取り戻したシーズは、事の経緯をマリーレイアに説明した。
「ほぉ、つまり指輪が盗まれたと思って、真っ先に私のことを疑ったわけだ? 長年の付き合いである幼馴染の私を?」
「それはその……長年の付き合いだからこそ疑ったというか……」
「へぇ……」
氷点下の瞳で睨みつけられて、シーズは気まずそうに視線を宙に泳がせる。
「いや、マリーなら冗談で持ち出すぐらいしそうだと思って……すまない、俺が浅はかだった……」
「ふんっ、まったくしょうがない奴だ……まぁ、オマエにとっては大切なモノなんだろうし? 気が動転してたって事にしといてやるよ」
マリーレイアはそう言って、やれやれと肩をすくめる。
「怒ってないのか?」
「私が寛容な心の持ち主だったことに感謝するんだな」
「マリー……ありがとう」
幼馴染の優しさにシーズは心を打たれた。
「これからは私のことをもっと敬え」
「ああ、もちろんさ!」
「ワンと鳴け」
「わん!」
「マリーレイア様と呼べ」
「わんわん! まりーれいあさまー!」
「はっはっはッ! 実にいい気分だ!」
パンツ一丁のおっぱい丸出しで踏ん反り返って高笑いを上げるマリーレイアに、へへぇとかしずく領主様。
いつの間にか開けられていた部屋のドアからは、怪訝な顔をしたアルテラが、その不可解な光景を黙ってジッと見つめていた。
「「うおッ!?」」
視線に気づいて驚き仰け反る二人。
「お二人とも……その……大丈夫ですか?」
ナニがとは言わないものの、彼女の瞳には二人への深い哀れみが宿っていたのだった。