「んっ……ちゅっ、ちゅぱっ、んふぅ……ふっ……んんっ」
マリーレイアの鼻腔から漏れる熱い吐息。射精を終えた後も二人は性器を結合したまま濃厚な口づけを交わし互いの身体を抱きしめ合う。
腰を動かさずとも繋がっているだけで満たされるような心地よさを感じながら、シーズは幼馴染の少女が愛おしくてたまらなかった。
やがて、どちらからともなく口を離すと、二人の口から伸びた唾液が透明な糸を引いてプツリと途切れた。
黙って見つめ合う二人。マリーレイアの熱く潤んだ瞳がシーズの胸を締めつける。
(マリーがすごく可愛く見える……)
何故こんな可憐な少女に自分は今まで恋心のひとつも抱かなかったのか、シーズは不思議で仕方なかった。お前の目は節穴かと言いたくなってしまう。
シーズが胸に湧き上がる愛情を言葉にして彼女に伝えようとしたそのとき、唐突に突き出されたマリーレイアの両手によって胸板を突き飛ばされたシーズは勢いよく仰向けに倒れて床に頭を打ち付ける。
「痛ぇっ!?」
何が起こったのか分からず目を白黒させながら身体を起こしたシーズが目にしたのは、腕を組んで直立不動に立ちはだかるマリーレイアの姿だった。
「いつまでも甘えるなシーズ! サービスタイムは終了だッ!!」
(そうだった! 俺の幼馴染は変人だった!)
エッチしてたときはあんなに可愛らしかったのに、それが突如としていつもの傍若無人な幼馴染に早変わり。
もしかしてエッチをするときだけ人格が変わる特殊体質なのだろうかと疑ってしまう酷さである。
腕を組んで仁王立したマリーレイアの股間からは中出しされた精液がボッタボタと垂れ流し状態。注ぎ込んだ愛の無残な姿にガックリするシーズ。
「さて、今の調子はどうだシーズ?」
「うん、調子はいいよ、気分はダダ下がりだけど」
「よろしい。どうやら私の見立てによると、お前の体調がおかしくなった原因は……セックスのしすぎによる依存症、つまりセックス中毒だ」
とても人には言えない診断結果だった。
「うそぉ……」
「ほんと」
「おかしな妄想に取り憑かれたのも?」
「セックスのせいで過剰分泌された頭がパーになる脳内麻薬のせいだな」
「そんな話は聞いた事がない」
「学者の研究によると年間千人以上のセックス中毒患者が出てるとか出てないとか」
「まじか」
まるで嘘のような話だが、頭のよろしい学者先生たちが調べているというならば、シーズは信じないわけにはいかない。
「末期症状になると勃起が止まらなくなって精液を吹き出しながら「アッひょぉオッ!」と悶えながら快楽死するとかしないとか」
「なんてこったい」
領主様がそんな間抜けな死に方をしたとあっては領民からはアホ領主と罵られ、ラングレイブ家の名声は地に堕ちるだろう。とてもではないが歴代の当主に顔向けできない。
「治療法はいって簡単、しばらくの間はセックス禁止」
「だよな……」
処置としては当然のことながら、正直に言ってシーズには自制する自信がなかった。
「シーズよ、意志薄弱なお前のことだ、きっとアルテラに誘惑されたらホイホイチンコをおっ立てて発情した種馬のようにパッカパッカと腰を振ってしまうに違いない」
「酷い言われようだが、その通りなので反論できない!」
「そんなチンコ野郎のお前にはコレを授けようじゃないか」
差し出された手に握られていたのはマリーレイアが胸に下げていた首飾りだった。
「これって、マリーが大事にしてるものなんじゃないか?」
「これを私だと思って、肌身離さず身に着けていてね♡」
(つまり、心が揺れ動きそうになったときは自分の顔を思い出して欲しいってことか、なんだい、マリーも可愛らしい所があるじゃあないか)
意外に乙女な面を見せるマリーレイア。これにはシーズもドキリとしてしまう。
「風呂に入るときも、飯を食べるときも、寝るときも、クソしてるときも、アルテラと会ってるときも、外しちゃダメだからな?」
(思ってたより愛が重たい……ッ!)
「もしも約束を破ってその首飾りを外したら」
「外したら?」
「オマエハ死ヌ」
「呪われてる!?」
おっかないものを手に入れてしまい首に掛けるのを躊躇っていたら、マリーレイアの手で無理やり首にぶら下げられた。
「ふん、なかなか似合ってるぞ」
「ははっ……そうかな」
「もしもまた体調に異変を感じたらすぐに私に知らせるんだぞ」
「ああ、うん」
「よし、それじゃあお前は今すぐ私の部屋に入って着替えをとってこい」
「へ?」
「こんな格好で部屋に戻っているところをマーサさんやアルテラに見つかったら言い訳でんきだろうが」
「そっ、そうだな、わかった。ちょっと待っていてくれ」
シーズが駆け足で書庫から出ていくのを見送ったマリーレイアは、やれやれと嘆息しながら椅子に座り直す。
(さて、まさかこんなことになるとは思わなかったが、これがシーズに見つからなくてよかった)
机の上に置かれた本を除けると、そこには無くなったはずのシーズの指輪が隠れていたのだった。
*
マリーレイアの着替えを求めて彼女の部屋に辿り着いたシーズだが、クローゼットから適当なドレスを見繕うまでは問題なかった。
しかし替えの下着も必要だということに気づき、女性の下着を漁るのに心苦しさを感じながらも、シーズはチェストの引き出しを探していく。
都合よくお目当てのものはすぐに見つかった。しかしながら、それは健全な男子が目にするには魅惑的にすぎる光景であった。
「女の子っていうのは、こんなに沢山のパンツを持っているのか?」
レースやフリルで可憐な装飾を施された下着類が小さく折り畳まれ、引き出し一杯に詰め込まれている様子はまさに秘密の花園である。
どれがいいのか分からないシーズは、とりあえず手近にあったショーツを掴んで広げてみる。
「むむっ! マリーのやつ、こんなイヤらしいパンツを履いてるのか……こっちなんてレースだらけで向こう側が透けて見えるし……こっちのなんてパンツというよりも紐じゃあないか、なんてこったい……」
未知なる世界への探究心が抑えきれないシーズ。しかし下着漁りに夢中になり過ぎたせいでドアが開きっぱなしだったことを失念したのが運の尽きだった。
「坊ちゃん」
無邪気に色とりどりの蝶々を追いかけ回していた少年は、しわがれた声によってピタリと動きを止める。
姿を確認するまでもなく、声の主はマーサだった。
「マリーレイア様のお部屋で、いったい何をなさってるのですか?」
「いや、違うんだ、俺はただ……」
「ただ、なんです?」
マリーレイアの着替えを取りに来たことを説明しようとしたシーズだが、それだと芋づる式に自分がマリーレイアに乱暴したことまで白状することになりかねない。
シーズはぐっと堪えるように目を瞑ると、老婆に向けて言い放った。
「俺はただ……女性の下着に興味が湧いてしまったんだ!」
このあとマーサに滅茶苦茶説教された。