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【50話】アルテラという獣人の女【エロラノベ】

【ファンタジー・エロ小説】田舎領主様と獣人の母娘 田舎領主様と獣人の母娘

ある日の夜、自室のベッドの上で一人眠っていたシーズは暗闇の中で目を覚ました。

真っ暗で何も見えなかったけれど、すぐ側に人の気配がする。

「アルテラかい?」

枕に頭を乗せたまま、首だけ傾けながら虚空に向かってシーズは尋ねた。

姿は見えずとも鼻を掠める甘い匂いが彼女がそこにいることを確信させていた。

「旦那様……」

暗闇からアルテラの声が聞こえた。

ベッドが揺れ、匂いが色濃くなると、体の上に彼女の重みが加わる。

胸板を撫でる手、股の間に潜り込む脚、のしかかってくる柔らかな乳房、首筋を這う唇、耳元に吹きかかる吐息、重なった唇の柔らかさ、ねっとり絡みつく濡れた舌。

このまま彼女に身を委ねれば、甘美な快楽に酔いしれることができるだろう。

しかし、シーズは彼女の体をそっと押し返した。

「旦那様……どうして?」

顔は見えないが、アルテラの声には落胆と悲しみが滲んでいた。

「私のことがお嫌いになりましたの……?」

「まさか、そんなことあるわけないじゃないか」

「でしたら……」

「けど、今は一緒には寝れないんだ」

「…………」

アルテラは何も言わない。おそらく納得できないのだろう。

シーズは探る手つきで彼女の肩を掴まえると、鎖骨をなぞりながら首を登って顔に触れると、落ち着かせるように頬を撫でた。

頬を撫でていると、アルテラのヒンヤリとした手が上から被せられる。

「私は旦那様に求められるために居ますのよ?」

彼女の言う通り、シーズは出会ってからずっとアルテラの体を求め続けてきた。いつの間にかそれが当然となっていた。

マリーレイアに注意されていたのに、それでもアルテラの色香に溺れてしまった結果、こうして体の交わりを絶ってしまうことでアルテラを不安がらせてしまっている。

それはつまり、これまで築いてきたアルテラとの関係は体の繋がりばかりであったということだ。彼女のことを娼婦と思ったことなど一度もないが、実際はそれと何が違ったのだろうか?

「思ったんだ、俺がこうなったのも、ちゃんとキミに向き合ってこなかったツケが回ってきたんじゃないかってさ」

シーズの気持ちは、しかしアルテラには伝わらなかった。

「わかりません……旦那様が何をおっしゃっているのか……」

「アルテラ……」

「よろしいじゃありませんか、今までのように私の体で旦那様を満たして差し上げますわ。さぁ、私を受け入れてくださいませ」

暗闇に慣れてきた目がうっすらと輪郭を捉えるなかで、彼女の瞳だけが妖しく光る。吸い込まれるような暗紫色の煌めき。

けれど、交わろうとするアルテラの体をシーズの手が押し留める。

「そんなっ、どうして……」

アルテラの声からは酷く狼狽している様子が伝わってきた。

「アルテラ、また明日ちゃんと話をしよう、そうしないといけないと思うんだ」

諭すようなシーズの言葉に、アルテラは何も言わずに身を引くと、黙って部屋から出て行ってしまった。

自分の気持ちを上手く彼女に伝えられなかったことを悔やみながら、シーズは明日のことを考える。

そうだ、明日は皆で湖畔に出かけてみよう。はしゃいで水遊びをするミリアとマリーレイア、自分は木陰でアルテラに膝枕をしてもらいながら、その様子を眺めつつ、彼女とゆっくり話をしよう。

今はそういう時間が必要なのだ。きっと上手くいくさ。

そんな淡い期待を抱きながらシーズは眠りに落ちた。

残念なことにシーズの願いは叶わず、翌朝の空は暗い灰色の雲に覆われてしまった。

今にも雨が降り出しそうな空をシーズが屋敷の窓から眺めていると、空からポタポタと落ちてきた雫が窓にぶつかると、すぐさま勢いを増して窓ガラスを震わせる大粒の雨へと変わった。

「降ってきたな……」

マリーレイアとミリアは屋敷で大人しく過ごしているが、アルテラの姿だけが見当たらなかった。

そのことをマーサに尋ねると、どうやら彼女は街へ使いに出ているらしい。

きっと雨に降られて立ち往生しているだろうと、シーズが迎えに行こうとした時だった。

ドンドンッと屋敷の扉が叩かれる重たい音が鳴り響いた。

マーサが扉を開けると、外には雨に濡れた外套を纏う旅の装いをした者が静かに立っていた。

目深にかぶったフードのせいで顔は見えないが、シーズはその姿に見覚えがあった。

外套のフードが脱がれ、黒い毛に覆われた獣耳と共に素顔が晒される。

「よお人間、久しぶりだな」

「アリューシャ!」

それは遠くの街でシーズが出会った獣人の女、アリューシャだった。

突然の再会に驚きながらも、シーズはアリューシャの来訪を歓迎した。

彼女が別れ際に交わした約束を覚えて、自分を訪ねてきてくれたことが嬉しかった。

濡れた外套をマーサが預かり、アリューシャはシーズによって応接間へと案内された。

すぐに用意された紅茶を飲みながら、アリューシャは人心地ついたように呟く。

「この国に来てから、こんな歓迎を受けたのは初めてだ」

旅をしていると聞いていたが、やはり人族の国だと獣人の彼女には煩わしいことも多かったのだろう。

「先を急ぐようでなければ、しばらくうちに泊まるといいよ。これまでの旅の話を聞かせてくれないか」

気さくな笑みを向けるシーズに、アリューシャはやれやれと息をつく。

「相変わらずのお人好しだな。なぜ獣人にそこまで親切にする?」

問われてシーズは、そいういえば彼女にはアルテラのことを話していなかったことに気づいた。

「いや、実はね、うちには使用人として働いている獣人の女性がいるんだよ。だからかな、きみのことが気にかかってさ」

それだと結局はただのお人好しということになるのだが、またアリューシャに呆れられるかと思いきや、彼女は意表をつかれた様子でシーズを見つめ返してきた。

この国に他の獣人がいるとは思っていなかったのだろうか? それにしても随分な驚きようだった。

「おい、獣人の女といったな? そいつの名は?」

「アルテラだけど……それがいったい――」

「アルテラ……いや、しかし……」

アリューシャがなにやら一人で考え込んでいると、そこへ暇を持て余していたマリーレイアがひょっこり顔を出してきた。

きっと彼女に搭載されている獣人探知機能が反応したのだろう。

「やあやあ、初めまして。なにやら盛り上がってるようじゃないか、ちょっと私も混ぜておくれよ」

興味津々といった様子で、返事も聞かずにシーズの隣に座るマリーレイアにアリューシャは怪訝な視線を向ける。

「無作法で申し訳ない。紹介するよ、マリーレイアだ。俺の幼馴染で今はうちに滞在しているんだ」

シーズはマリーレイアにも、アリューシャとの馴れ初めを説明する。

「へぇ”探しもの”をする旅か、興味あるな。それはどんなものなんだ?」

シーズもそれは気になっていたが、人の事情を詮索するのは憚られていた。こういう時はマリーレイアの図々しさが羨ましくなる。

アリューシャは少し考えてから頷いた。

「そうだな、もしかしたら、お前たちにも関係するかもしれない話だ」

「俺たちに?」

「私はお前に”探しもの”をしていると言ったが、正確には”人探し”だ。私はある獣人を探すために、この国までやってきた」

そこでシーズは先ほどのやり取りを思い返す。

「もしかして、アルテラがそうだと?」

「私が探している人物はアルテラという名前ではない。しかし、名前を偽っている可能性もある。直接そのアルテラという女に会わせてくれないか?」

「いや、彼女はちょうど、使いで外に出ているんだ。しばらくすれば帰ってくるだろうけど……」

名前を偽っているかもしれない人物とは、なにやら雲行きが怪しくなってきた。

「名前があてにならないのなら、その人の外見的な特徴を教えてくれないかな」

マリーレイアが冷静に質問をする。

「銀色の髪をした獣人の女だ。外見年齢はおまえたちより少し年上といったぐらいだろう。小さな女の子を連れていたはずだ」

シーズとマリーレイアは顔を見合わせる。アリューシャが話す特徴は、全てアルテラと一致していた。

「ふむ、その人物を探している理由――いや、単刀直入に聞こう。アリューシャさんが身に着けているペンダントの紋章には見覚えがある。たしか獣人の国では法を司る機関の証だったはずだ。つまり、その人物は罪を犯して追われているのかな?」

唐突に語られたマリーレイアの推測にシーズは言葉を失った。

この幼馴染はいったい何を言い出すんだ、と。

しかし、アリューシャは別の意味で驚きを隠せない様子だ。

「どうやら、お前と違ってそっちの女は随分と勘がいいようだな……」

手の内を読まれたアリューシャは苦い顔をしながら仕方なく白状する。

「法的に立証されている罪ではない。しかし、野放しにしておくのは危険すぎると判断したゆえ、私は単独でその女を追っている」

「それはまた、是非ともお話願おうじゃないか」

「少し長くなるぞ」

「なに、かまわんさ。雨の日の長話は嫌いじゃない」

二人の会話はどんどん核心へと近づいていく。状況を理解できていないシーズは話に置いていかれながらも、心には暗雲のように不安が立ち込める。

この話を聞いてしまえば後戻りできなくなる。そんな気がしてならない。

激しい雨音は屋敷の中にまで響いてくる。

降りしきる雨が止む気配はない。

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