さて、スフィアナが修道院を離れてから暫くが経った。
彼女のことだから、またどこかで不幸な目に遭っているのだろうと想像する人も多いかと思われるが、残念ながらそうはなっていないのだ。
スフィアナを妾として迎え入れた男は彼女をいたく気に入っており、スフィアナに何不自由のない暮らしをさせていた。
彼女自身は贅沢など望みはしなかったが、男はスフィアナに好かれたいがため、山ほどの贈り物をしてくるので、彼女も仕方なくそれに付き合っている。
一方で、女として成熟したスフィアナは益々魅力を増し、彼女を飾るに相応しい極上の絹で仕立てられたドレス、大粒の宝石があしらわれた煌びやかな装飾品の数々によって、他の女が並ぶことすらおこがましくなるような美しさを誇った。
男はスフィアナを宝物のように扱い、彼女のためだけに用意した離れに住まわせ、不便のないよう侍女に世話をさせた。
そして夜な夜な彼女の寝屋に訪れては、妖艶な肢体を貪るように、まぐわうのであった。
男はいつもドレスを着せたまま行為を始める。美しく着飾った女を犯しながらドレスを脱がすことに興奮を覚えるのだろう。
「あんっ、そんなに焦らなくても……わたくしは逃げませんわ……んぅッ」
男はスフィアナの柔らかな乳房を揉みしだきながら、しっとりと滑らかな肌に頬擦りをする。
「ああ、スフィアナ、おまえは最高の女だ……その美貌も、この淫らな肢体も、全て私のものだぞ」
「うふふっ、もちろんですわ。スフィアナは身も心も全て貴方様のもです」
男の性癖を理解しているスフィアナは、支配欲を満たす言葉を与えてやりながら、男の頭を胸に抱き寄せ、股間で膨らんでいる肉棒をしなやかな指でさすってやる。
「はぁっ、ふぅっ……もう我慢できん! 挿れるぞっ!」
「ぁぁッ、ください、貴方様の太くて硬いおちんぽ、スフィアナの淫らなおまんこに挿れてくださいませ」
耳元に熱い吐息を吹きかけながら、淫らな言葉を囁いてやれば、男は俄然やる気になって、スフィアナの股を開かせると、濡れそぼった蜜穴に亀頭をあてがうと、いきり勃つ肉棒をねじ込んだ。
熱く粘ついた膣肉が肉棒をぬちゅりと呑み込むと、スフィアナは膣を抉られる感覚に悲鳴を上げる。
「んっ、ぁあッァッ……! 貴方様の立派なオチンポで、スフィアナのオマンコが犯されて……ふぅぅんっッ!」
「ぐぅぅっ! 何度挿れても蕩けるようなメス穴だ! こんなものを知ってしまったら、他の女など抱く気にならん!」
「んふぅっ、んぅっ……はぁ、ぁァッ……何度でも気の済むまで犯してくださいませ、これは貴方様だけのメスマンコですわ」
「ああっ、もちろんだ! 何度でも犯してやる! 誰にも渡してなるものか!」
「ふぅんっ、あっ、あァァぁぁっ……!」
肉棒で膣を蹂躙されながら、艶やかな喘ぎ声を上げるスフィアナは、一見すれば男と共に行為を堪能しているようにも見えるが────。
(はぁ……毎晩毎晩、よく飽きないものね……)
膣を抉られる快感に体が悦びを感じていながらも、彼女の心は完全に行為とは切り離されていた。
スフィアナにとって、もはやセックスは作業である。数多の男と寝てきた彼女にかかれば、気を入れずとも男を悦ばせるなど容易いことだ。
相手が求める女を演じてやれば勝手に盛って腰を振る。後は適当に射精させてやれば終わりである。
今この時、必死に気持ちよくなろうとヘコヘコ腰を振ってるこの男に、スフィアナは全く興味がなかった。
どれだけ美貌を賛美されようとも、どれだけ高価な贈り物されようとも、スフィアナの心は動かない。もはや、彼女が男を愛することなどあり得ない話である。
さりとて、この場所から逃げ出すことなどできないし、逃げたとしても行くあてがない。男に媚を売って生きるなど御免だと修道院に逃げ込んだというのに、結局はこの有様である。
逃げ場などないのだ。どうしたところで自分の人生は男に左右されるのだと悟った彼女はすっかり諦観し、金持ち男を適当に悦ばせながら、空虚な日々を過ごしている。
「うぉぉっ、なんて締め付けだ! それに、膣中でヒダが絡みついてくるぞ!」
「んぅッ……あぁっ♡ そんなに奥を疲れた、わたくし、イってしまいそうです……♡」
心底感じているフリをしながら膣をぎゅっと締め付けてやれば、男はあまりの気持ち良さに呻き声を上げる。
演技をされていることに微塵も気づけない男は、スフィアナをうつ伏せに屈ませ、後背位で獣のように彼女の尻肉に股間を打ちつけた。
「あぁッ! こんなかっこう……恥ずかしいっ、んんっ……! ひぅんッ!」
「ほらっ! どうだ! こうされるのが好きなんだろう!?」
「んひぃっ! あぁっ、気持ちいいですっ……貴方様の逞しいオチンポで、スフィアナのいやらしいオマンコ、もっと突いてくださいませ♡」
性器が出し入れするたびに、ジュポッ、ジュポッ、と卑猥な水音が鳴り、興奮した男の手がスフィアナのドレスを引き千切る。
(はぁ……また破ってる、これ、けっこう気に入ってたのに……どうせまた新しいものを買うのだろうけど、お金持ちってどうしてこんな勿体ないことするのかしら……)
男の性癖に呆れながら、スフィアナは感じ入った喘ぎ声を出す。後背位は相手から顔が見えないから、表情を作る必要がなくて楽だった。
(私、この男の相手をしながら一生を終えるのかしら? ああ、その前に、歳を取ったら捨てられるのかもね……べつにいいわ、普通の人生なんてとっくに諦めてるもの……)
そんなふうに彼女がなげやりに考えている間にも、男の抽送は激しさを増し、声にも余裕がなくなってき。どうやらそろそろ射精が近いようだ。
「ぉぉおっ、出すぞスフィアナ! お前の子宮に私の子種をたっぷり出してやるぞ!」
「あぁッ! くださいっ、貴方様の種付け精子でスフィアナを孕ませてくだいませ」
「おォォッ、孕ましてやるぞ! そらっ、出るぞ! スフィアナ! わたしの子を孕めぇっ!!」
ドビュルルルッ! ビュルルルッ! ドプッ! ビュブッ!! ドビュルルルッ!
男が叫ぶと同時に、膨らんだ亀頭がスフィアナの膣内に溜め込んだ精液を撒き散らす。
「ひあぁァアアアぁァっ────ぁァァッ!!」
子宮に子種の詰まった精液が流れ込むのを感じながら、スフィアナの体も本能のままに絶頂を迎えた。
(そういえばそろそろ繁殖期だけど、このままだと、そのうち本当に妊娠するのかもね……)
まるで他人事のようだった。男の静液を注ぎ込まれる哀れな女の姿を、もう一人の自分が感情のない瞳で見つめていた。
全てを諦めたスフィアナの心はどこまでも空虚で、凍った沼のように感情の水面は微動だにせず、彼女が何かに喜ぶことも悲しむこともなくなっていた。
そしてスフィアナは妊娠した。
*
日増しに膨らんでゆく自分のお腹を見るのは、なんとも不思議な気分であった。
妊娠したとわかったとき、男は喜んだが、スフィアナはやはり何も感じなかった。
自分の中で新しい命が芽生えた実感などさっぱり湧かず、少し膨らんだお腹は酷く奇妙なものに見えた。
(こんな女の子供なんて、あなたも運がないわね……)
そのときはまだ、自分の子供にすら他人事のスフィアナであったが、臨月が近づき、大きくなったお腹の中で赤ん坊が動くのを感じるにつれ、ようやく自分が母親になることを自覚するようになると、こんどは疑問を覚えてしまう。
(いいのかしら……私が子供を産むなんて……きっとこの子も不幸になる……)
もはや取り返しのつかない段階になって、スフィアナは迷いの中で出産することとなった。
そして、無事に出産を終えたとき、額に玉の汗を浮かべながら、スフィアナは恐る恐る、隣に横たわる赤ん坊の手に触れた。
まだ満足にモノを掴むことができない、小さくて、弱々しい手が、スフィアナの指をやんわりと握り返すと、彼女は赤子から伝わってくる温もりに胸を衝かれた。
(なんて……温かい……)
まるで陽光のような赤子の温もりによって、スフィアナの凍りついていた心は溶け、涙となって流れ落ちた。
(あぁ……そうなんだわ……この子が、私の……)
全てを諦めていたスフィアナは、こうして新たに生きる目的を見つけた。
この子は何があろうと幸せにしてみせると。
自分が失ってしまった分まで、この子のことを幸せにすると誓った。
そして、赤ん坊には、古くは太陽を意味する『ミリア』と名付けられた。
*