突然のことで、彼女が何を言っているのか、自分の身に何が起こったのか、アドニスには理解できなかった。
しかし、目の前の女性が纏う神々しい雰囲気に、アドニスは無意識に跪いて頭を垂れていた。
(なんだ? 体が勝手に動いて……彼女はいったい……)
姿勢はそのままに、チラリと視線を上に向けたアドニスは、女の容姿を見て息を呑む。
艶やかな金色の長い髪。エメラルドのような神秘的な輝きを湛える瞳。慈愛に満ちた優しげな顔つき。
そしてなにより、圧倒的な存在感を放つ豊満なお乳!
女性が着ているシルクよりも滑らかで透けるほど薄い純白の衣は胸元が大きく開いており、はちきれんばかりのお乳を隠すには、あまりにも心許ない。左右の隙間から肌色の柔らかそうな乳房の曲線が見えてしまっているではないか。
(すごい……ッ! こんなお乳、見たことがない!)
村ではもちろん、街でだって、こんな素晴らしいお乳を持った女性には会ったことがなかった。
アドニスが思い描いていた理想のお乳をもった女性がそこに居たのだ。
まるで至高の芸術を目の当たりにしたような鮮烈な感動にアドニスが震えていると、女性はニッコリと微笑みかける。
「わたしの名前はルナリス。愛と繁栄を司る女神です」
「女神……さま!?」
いきなり自分のことを女神だと名乗る女性を前にして、しかし、アドニスは疑いなどしなかった。
理屈ではない。彼女の言葉はアドニスの魂に直接響き、それが真実であることを理解させた。神がかったお乳の持ち主はマジで神様だったのだ。
(言われてみれば、ルナリス様の容姿は女神像によく似ていらっしゃる。お乳の大きさ以外は……)
女神像のお乳はもう少し小ぶりで、手に収まるサイズだったが、どうやら、あれを彫った名工も、このお乳を再現することはできなかったとみえる。まさに、人の手には余る神乳だ。
そこでふと、自分がこれまで、女の乳房への情欲を発散させるため、女神像のお乳を【搾乳】するという罰当たりな行為をしていたのがバレているのでは? ということに気づく。
(もしもそうなら、神罰が下ってもおかしくはない……まさか、俺はそのために呼び出されたのか……!?)
アドニスの心の声を見透かしたように、ルナリスはこくりと頷いた。
「あなたのことは天上からずっと見ていました。あなたが女性のお乳に並々ならない想いを秘めていることも知っていますよ」
「おふぅ!?」
見られていた! 石像のお乳を搾乳する滑稽な姿を! これは神罰確定!!!
「もっ、ももも申し訳ございません! お許しを! なにとぞお許しを!!」
女神様に土下座しながら、アドニスは心の中で天国へ逝った養父へ謝った。ごめん父さん、どうやら自分はそっちに行けないみたいだ。だってこれから地獄に落とされるんだもの──と。
けれど、ルナリスはアドニスを咎めることはせず、頭を床に擦り付ける青年に手を差し伸べた。
「顔を上げてくださいアドニス。大丈夫、あなたを罰したりなどしませんよ」
「えっ……」
おそるおそる顔を上げたアドニスは、慈愛の笑みを崩すことのないルナリスに手を引かれ、女神の温かな手の感触にドキリとしながら、彼女の前に立ち上がった。
「でっ、では……どうして俺は女神様の元に呼ばれたのでしょうか? 俺は乳搾りしか取り柄のない、ただの牛飼いなのですが……」
「そうですアドニス、だからこそ、わたしはこの場にあなたを招いたのです」
ルナリスの言わんとすることが理解できず、目を瞬かせるアドニスに彼女は言葉を続ける。
「そのですね、いま、少し困っていることがあって……あなたに協力してほしいのです……」
どこか恥ずかしそうに、もじもじとした口ぶりで、ルナリスはそう告げた。
果たして、神様の困りごとに自分などで力になれるのかと、アドニスは疑問だったが、それでも麗しの女神様にお願いされたとあっては、断る選択肢などあるはずがない。
「おっ、俺にできることでしたら、なんでもさせていただきます!」
「まあ、ありがとうアドニス。感謝します」
「いっ、いやぁ、そんな……」
「それでは……」
嬉しそうにポンと手を合わせて微笑むルナリスの可愛らしい仕草に、つい鼻の下が伸びてしまうアドニスだったが、ルナリスがおもむろに首の後ろで留めてある衣の結び目が解かれると、彼の表情は一瞬で凍りついた。
留めるものが無くなったのだから、当然ながら胸を隠していた衣はぺろりとめくれ落ち、豊満すぎる乳房がたゆんと揺れて、アドニスの眼前に女神様の生乳が晒されたのだ。
「アドニス、わたしのお乳を搾ってもらえますか?」
「……………………」
ちょっと意味がわからなかった。
露わとなったルナリスの巨乳の迫力たるや、両手でも隠しきれないほどのボリューム。
ただ大きいというだけではなく、柔らかそうなのに重みで垂れた様子は一切なく、美しい丸みを維持したまま上むきに反り返って、先端には薔薇色の乳首がぷっくりと突き出している。
全てが完璧。まさしく完成された至高のお乳である。
見てはいけないと思いながらも、その素晴らしい神乳を前に目が吸い寄せられてしまう。
「あっ、えっ、俺が……ルナリス様の、おっ、おちっ、おちちを……搾る……?」
口にしてみても、言葉がまったく頭に入ってこない。現実感がなさすぎて、やっぱり、これは夢なんじゃないだろうかと疑ってしまう。
「そうなのです。最近、お乳の出がよくなくて……あなたの【搾乳】で母乳を搾ってほしいのです」
再度ルナリスに告げられて、アドニスは顔面蒼白になってブンブンと首を振った。
「そっ、そんなっ、俺ごときが女神様のお乳に触れるなど、バチがあたります!」
「いえ、バチは与えませんから大丈夫ですよ?」
「あっ、いやっ、しかしっ!」
ずっと女のお乳を触りたいと願っていたが、まさか女人をすっとばして女神様のお乳に触れるチャンスが巡ってくると誰が想像できただろうか。
村娘に「お乳搾って♡」などと言われたら、アドニスは「うっひょーい!」と喜んでモミモミしていただろう。しかし、女神様を相手にアドニスは完全にビビッてしまった。
てっきり快諾してくれると思っていたルナリスは、アドニスの反応が芳しくないのを見て、どうしたものかと首を傾ける。
「困りました。あなたがお乳を搾ってくれないと、世界が大変なことになってしまいます」
「どっ、どういうことですか?」
女神様のお乳と世界にどんな因果関係があるというのだろうか。
「お乳が張っていると神力が滞ってしまい、わたしの力が地上世界にうまく行き渡らなくなってしまうのです」
「そうすると、地上にはどんな影響が出るのですか?」
「わたしは人々の愛と繁栄を司っているので、まず婚姻率が下がります」
「はぁ、なるほど?」
「そうなると出生率も減少し、人口が減少した国は衰退し、貧困が広がり、多くの人が飢餓と争いで命を落とし、愛を忘れた人々はモヒカンでヒャッハーしながら滅びの道を辿ることになるでしょう」
「ふぉおぉっ!?」
最後の方は何を言っているのかわからなかったが、とりあえず厄災レベルで危険なことはアドニスにも理解できた。
やばい。女神様のお乳で世界がやばい。
「俺にルナリス様のお乳を搾らせてください!!!」
女神様のおっぱいチャンスかと思いきや、まさか世界の命運を握らされてしまった。今この時、人類の行末はアドニスの【搾乳】にかかっていると言ってもいいだろう。責任が重すぎて泣きそうである。これは強迫ってレベルじゃねえぞ!
「では、こちらにいらしてください」
「はっ、はい……」
一歩近づけば、そこにはもう手の届く距離にルナリスのたわわな乳房があった。
(いいのか? いいんだよな? これは女神様から直々にお願いされたことなんだし)
確認するようにルナリスの顔を見ると、彼女は何も言わず静かに頷く。
「そっ、それでは、始めさせていただきます」
「はい、お願いします」
緊張に乾いた喉がゴクリと唾を飲み込むと、アドニスは手に意識を集中させる。
「スキル【搾乳】」
スキルの発動によって刻印の輝いたアドニスの手が乳房に触れた。
「あンッ」
「おぁっ!?」
女神の口から発せられた艶かしい声に驚いたアドニスが慌てて手を離すと、ルナリスは頬を赤らめながら、ふぅっと息を吐いた。
「ごめんなさい。ちょっと、お乳が敏感になっているみたいで、気にせず続けてください」
「はっ、はい……では」
「んっ……」
再度、アドニスの手が乳房に触れると、ルナリスはピクンッと体を震わせながら、堪えるように瞳をキュッと閉じた。
(こっ、これが……ルナリス様のお乳の感触!)
さっきまで緊張してそれどころではなかったが、いざ乳房の感触に意識を向けると、今まで経験したことのない至極の柔らかさが手か伝わってきて、脳が震えるような幸福感をアドニスにもたらした。
なんて温かく柔らかいのだろうか。豊満な乳肉は押しつけられた手を優しく包みこむように吸い付いてくる。まさしく愛の女神がもつにふさわしい慈愛のお乳である。
「あァッ!」
「!?」
興奮のあまり力の入った指が、ぷっくりと突き出した乳首を掠めてしまうと、ルナリスがたまらず喘ぎ声を漏らす。
「あぅんっ、あっ、アドニス、そこは……」
「ももっ申し訳ありませんッ!!!」
アドニスは背中に冷や汗を垂らしながら、頭を振って邪念を消し去ろうとする。
(落ち着け俺、見ちゃダメだ。いつもやってる牛の乳搾りだと思って、搾乳することだけに集中しろ)
目を閉じ、呼吸を整え、【搾乳】に集中して手を動かす。
すると、手から伝わってくるお乳の感覚に、すぐさま違和感を覚えた。
いつも牛の乳を搾るときであれば、スキルを発動して乳房にふれた瞬間にミルクが吹き出してもおかしくないのだが、ルナリスの大きなお乳の中には、たっぷりの母乳が溜め込まれているのを感じるが、いくら揉んでも、途中で何かが詰まって乳頭から出てこようとしなかった。
「んっ……ぁっ、んんッ……」
その間も、ルナリスは乳房から伝わる刺激を感じて、もどかしげに身をよじっている。
今まで試したことはなかったが、もしかしたら女性のお乳に【搾乳】を使うと、なにか副次的な効果が出てしまうのかもしれない。
「ルナリス様、大丈夫ですか……?」
「はっ、はい……んっ、わたしは、だいじょうぶですから、あっ、そのままっ……続けてください……んぅうッ」
(なんかメッチャエロい!)
ほんのりと紅潮した肌が艶かしく、おまけにいい匂いが香ってくる。
(いかん、余計なことを考えるな、今はお乳を搾ることだけに集中しろ!)
自分に喝を入れるが、スキルを使っているのに一滴たりともお乳が出ないことに焦りが生まれる。
乳搾りに人生を捧げてきたアドニスは搾乳だけなら誰にも負けないと自負していた。しかし、ルナリスのお乳はそれを嘲笑うかのように搾乳を拒む。
女神様のお乳は、いまや目の前に立ちはだかる大きな壁となって、アドニスの自信を揺るがしていた。
(さすがは神乳……今まで俺が搾ってきたお乳とは格が違う!)
圧倒的な存在の前に、常人であれば自信を喪失してしまうところだが、それが逆にアドニスの職人魂に火をつける。
「たとえ神様のお乳が相手だろうと、俺の【搾乳】に搾れない乳はないッ!!!」
アドニスの決意に反応して、手に浮かんだ紋様が輝きを増し、【搾乳】の力がルナリスのお乳に流れ込んだ。
「うぉおおオオォッ! 唸れっ! 俺の【搾乳】ぅうぅううッ!!!!」
「ひぁああァァッッ!」
渾身の【搾乳】が炸裂した瞬間、アドニスは見た。女神様の嬌声と共に、乳首から吹き出した白い飛沫を。
それは枯れていた井戸から水が湧き出したように、勢いよく噴出した乳白色のミルクが正面にいたアドニスにふきかかる。
(やった、やったぞ! これで世界が救われるんだ!)
女神様のお乳からぴゅうぴゅうと飛び散る母乳を浴びながら、アドニスが達成感に浸っていたそのときだった。
いったいどうしたことか、最初は勢いよく吹き出していた母乳は、途中からみるみると勢いを失っていくではないか。
「えっ、なっ……なんで!?」
お乳の中には、まだ大量の母乳が残っているのを感じるのに、何かが邪魔をして、それ以上は搾乳ができない。
「くそっ!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!」
必死にスキルを使用するが、勢いはどんどん衰えていき、ついに母乳の出は止まってしまった。
「そっ、そんな……」
掴みかけていた勝利が手からこぼれ落ち、落胆と共にアドニスは床に膝をついた。
【搾乳】を使いこなし、もはや自分に搾れない乳などないと思い上がっていたアドニスにとって、それは生まれて初めて味わうお乳への敗北だった。
「どうやら、今のあなたでは、これ以上、お乳を搾ることはできないようですね」
残念そうにルナリスが目を伏せる。
「あばばばばばば」
なんということだろう。アドニスから【搾乳】という取り柄をなくしたら、ただの牛飼いA(童貞)ではないか。これじゃあ主人公になれないぞ!
アイデンティティの喪失によって精神が崩壊しようとしていた青年を、ルナリスは優しく抱きしめた。
自分を挫折させた女神様のおっぱいに顔が押しつけられる。大きすぎる乳房の谷間はアドニスの頭をふんにょりとお乳の中へと呑み込んだ。
顔に吸い付く柔らかな乳肉。お乳についた母乳の甘い香り。どこまでも深い母性に包み込まれる感覚。母親を知らないアドニスにとって、それは生まれて初めて感じるママの温もりだった。
「諦めてはいけませんアドニス。あなたには無限の可能性があるのですよ。だから負けないで」
「ばぶばぶばぶぅゥッ!」
アドニス復活! アドニス復活! アドニス復活!
それはまるで不死鳥のごとく、一度は挫けながらも、神乳の中からおぎゃあっと蘇ったアドニスの瞳には精気が漲っていた。ついでに股間も勃起していた。
「俺やりますルナリス様! ルナリス様のお乳のためなら、なんだってします!」
「ありがとうアドニス。あなたには、これからも定期的に、わたしのお乳を搾りに来てほしいのです」
「ですが、俺の【搾乳】ではこれが限界で……」
「今回の搾乳で少しの猶予ができました。その間にあなたのスキルを成長させれば、もっとお乳を搾ることができるはずです」
「成長……いったいどうすれば」
「お乳を搾るのですアドニス。あなたのお乳への愛が、情熱が、強い信念が、きっとスキルを成長させてくれるでしょう」
ルナリスがそう告げたとき、アドニスの視界を白いモヤが覆い始めた。
「どうやら、ここまでのようですね。しばしのお別れです」
「ああっ! ルナリス様!」
「だいじょうぶ、あなたならきっとできます。わたしはいつでも、あなたのことを見守っていますよアドニス」
「ルナリス様……」
「信じるのです、あなたの中に眠る乳力を」
「乳力!? なんですかそれ!? ルナリス様! ルナリスさまぁぁ!!」
そこで視界は完全に白く包まれ、次に目を開けたとき、アドニスは森の中で女神像の前に立っていたのだった。