さて、予期せぬ事態もあったけれど、無事にゴブリン退治を終えて牧場へと戻ってきたアドニスとルヴィア。
「シロー、ただいまー」
「わうっ!」
外で帰りを待っていたシロを見つけて手を振ると、アドニスの姿を見つけるやシロは元気よく駆け寄って腰に抱きつくと、嬉しそうに尻尾をパタパタと振った。
「わぅわぅっ、おかえりなさいアドニス様!」
「おーよしよし、留守番ご苦労だったなシロ」
シロの頭を撫でていると、外の声を聞きつけて家の中からミルフィーナも姿を現した。
「ただいまミルフィーナさん」
「お帰りなさいませご主人様、ルヴィアさんも。ご無事でなによりです」
ゴブリンは弱いし、ルヴィアもいるから危険はないと言っておいたのだが、やはりモンスターが相手ということもあり、心配していたのだろう。
アドニスの無事な姿をみてホッと安堵したのも束の間、ミルフィーナはすぐに二人の格好に気付いて頬を引きつらせた。
「あの……どうしてご主人様は上半身裸なのでしょうか? それに、ルヴィアさんが着てらっしゃるのはご主人様のシャツですよね? あらあら? お二人はゴブリン退治に行っていたはずなのに、どうしてそんなことになるんでしょうねぇ? 不思議ですねぇ(笑)」
なんということだろう。語尾に(笑)とついてるのに彼女は全く笑っていないではないか。それどころか、猜疑心に満ちた眼差しを主人様に向けてくるではないか。
その目は「ご主人様は森の中でいったいナニと対峙してたんですかねぇ?」と訴えかけていた。
ホブゴブリンとの死闘を繰り広げて生還したというのに、これにはアドニスも遺憾の意を表したいところである。
「おいおい。おいよいよい? ちょいとミルフィーナさん、どうやらキミは何か誤解をしているようだね。いいだろう、だったら聞かせてあげようじゃないか、俺の獅子奮闘の活躍ってやつおよぉっ!」
そうしてアドニスは、群れをなすゴブリンたちを千切っては投げ千切っては投げ、突如現れたホブゴブリンに苦戦を強いられるルヴィアを助けるため身を呈して戦ったことを──。
まあホントはゴブリンは魔法薬で退治したし、ホブゴブリンに至っては穴に埋められたあげく小便をぶちまけられただけなのだが……。
しかし、隣にいたルヴィアがそれを否定しなかったので、ミルフィーナは素直に信じてショックを受けていた。
「そっ、そうだったんですね……わたしったら、ご主人様がそんな大変な目に遭われていたとも知らず……」
「いやいや、いいんだよミルフィーナさん、誤解は誰にだってあることさ」
「すみません、わたしはてっきり、ご主人様お得意の「お乳を搾らせて~」からのなし崩しセックスで猫耳美少女に中出しをキメ込んでいたとばかり……私ったら、なんて失礼なことを……」
本当に失礼だった。しかし全て当たっていた。
「…………ああ、うん、気にしないでいいよ」
「どうして目をそらすんですか?」
「…………」
「ねえご主人様、ルヴィアさんとセックスしました?」
「いやぁ?」
アドニスは顔もそむけた。
「それはYESですか? NOですか?」
「………………いやぁ?」
アドニスは顔をそむけすぎて、ついに後ろを向いてしまった。
気まずい沈黙。うしろからミルフィーナの押し殺したようなため息が聞こえて、アドニスの背中に冷や汗が流れる。
「ルヴィアさん、ちょっとよろしいでしょうか、少しお話をしたいことがあるので」
「ん、わかった」
「ご主人様はシロちゃんと外で待っててくださいね」
「はい……」
ここでミルフィーナ、戦略的タイムアウトを申告。ルヴィアを連れて家の中に入ってしまうのだった。
*
「そーらシロ、いくぞ~」
「わうっ! わうっ!」
アドニスが放り投げたボールを追いかけて、シロが楽しそうに走り回る。
「わうわうっ♪ アドニス様!」
ボールを拾って戻ってきたシロの頭をわしゃわしゃと撫でてやると、シロは尻尾を元気に振ってアドニスに抱きついて、顔をペロペロと舐める。幼女に顔舐めされるというのも乙なものだ。
「わうっ、アドニス様ぁ、ぺろぺろっ」
舐めてくれたお返しに、お腹を撫で回してやると、シロはもっとナデナデして欲しそうに仰向けになる。
「ほ~ら、ここもナデナデしちゃうぞ~」
アドニスはお腹だけではなく、シロの発展途上の胸やら、小さくてぷにぷにしたお尻やら、すべすべしたお股やら、身体中をまんべんなく撫で回した。
「わうん♪ わうっ♪、うぅっ、ンぅっ……わぅっ、ぁっ、んんぅっ♡ わぅっ♡ わぅン♡」
興奮したシロの声に、どこか熱っぽいものが混じっているような気もしたが、きっと気のせいだろう。
いつも、お乳にまみれた生活を送っているアドニスにとって、たまにはこうして清涼なロリ情緒を感じることは大切だ。
アドニスはそのまま暫く、シロを抱えて芝生の上をゴロゴロ転がりながら戯れた。
「あははハハツ、あははハハハッ」
「わうっ♪ わうわうん♪」
何気ない日常に幸せを感じる瞬間である。
「アハハハハッ……ハハッ……ハ……なんで俺、自分の家にも入れず半裸でけもみみロリ幼女と戯れてるんだろ?」
「わう?」
急に冷静になった途端、なんかおかしくね? と気付いてしまった。
太陽が傾き、冷たくなってきた風が半裸に染みるのを感じていると、家のドアが開いてルヴィアが姿を見せた。
「えっと、ルヴィア、話は済んだのか?」
「うん、ミルフィーナさんとはちゃんと話し合ったから大丈夫」
(えっ、大丈夫って、何が……?)
二人がいったい何を話していたのか、とても気になったが、怖くて聞けなかった。
その後、依頼も終えたということで、ルヴィアは「じゃ、またねアドニス」と言って、あっさり帰ってしまった。
残されたアドニスは、シロを連れて、そうっと家のドアを開けて中の様子を伺う。すると、部屋の中にいたミルフィーナと目があった。
「どうしたんですかご主人様? 中に入らないんですか?」
「えっ、いや、入りますけど? うん、そりゃあね、自分の家だから入らざるを得ないかな!」
訳のわからないことを言いながら、アドニスはおどおどしながら我が家に入る。しかし落ち着かない。
「えっと、ミルフィーナさん、その、ごめんね?」
「え? なんでご主人様が私に謝るんですか? なにか私に申し訳がないことでもなさったんですか?」
「えっ、いやぁ、べつにそういうわけでは……」
まるで語尾に(威圧)と書かれているようなプレッシャーを感じたアドニスは、ますます態度が小さくなる。
「そうですよねぇ、ふふっ、おかしなご主人様」
「あははっ、だよねぇ、あははははっ」
「うふふふふっ!」
「あははははっ!」
その日の晩はミルフィーナがアドニスの大好物を沢山作ってれたのだが、どんな味がしたかは覚えちゃいなかったとさ。