さて、なりゆきで女神たちのお茶会に招かれてしまったアドニスだったが、いざ席に座ると三人の神々しさに当てられてすっかり萎縮していた。
(俺なんかが女神様たちの女子会に加わるのは場違いなのでは?)
ルナリスと何度も会っているうちに感覚がおかしくなっていたが、こんなの教会関係者であれば奥歯ガタガタ言わせながら腰を抜かして失禁するレベルである。
おしゃべりしながら優雅にお茶を楽しむ三女神の顔色を窺っていると、彼女たちの側で給仕をしていた犬耳少女がアドニスの隣にやって来て、紅茶を注いだカップをそっとテーブルに置いた。
「どうぞアドニス様、こちらアルヴヘイム産の茶葉を使用しております」
「どっ、どうも」
産地を言われたところで「なるほど、わからん!」という感じだが、きっと人間の世界ではお目にかかれない神様御用達の茶葉に違いない。
頭の白いカチューシャからして、この犬耳少女はメイドなのだろう。年齢はアドニスと同じぐらいに見える。パッチリした瞳にフワリと柔らかそうな黒髪ボブに、黒い毛並みの犬耳とフリフリしてる尻尾が愛らしい美少女だ。
(かわいい子だな……というか格好がやたらエロいんだけど、天界だとこれが普通なんだろうか?)
やはり人間の感覚とはちょっと違うのか、彼女が着ている衣装はメイド服というよりもレースのビスチェといったほうがふさわしい肌色の露出が多い装いで、腰を覆っているスケスケのフリルからは下着らしき布が透けて見えちゃってるわ、上下が分かれているせいで、お腹どころか下乳がチラ見えしてるわで、思わずガン見してしまう。
(いいなこれ、ミルフィーナさんに頼んだらこういうの着てくれないかな)
天界ファッションに感銘を受けるアドニス。ミルフィーナがこんなエッチな格好で家事をしている姿を想像するだけで胸がワクワクしてしまうじゃあないか。
彼女も感覚としては同居人だが、本人が使用人的な扱いを望んでいるのだから、広義ではメイドと言っても過言ではないわけで、土下座して頼めばイケそうな気がした。
(けど、いやいや着てくれつつ、ものすごく冷たい目をされるんだろうなぁ、最近のミルフィーナさんはたまに俺の扱いがぞんざいなんだよね。いやしかし、それはそれで、アリと言えなくもない!)
「あの、どうかされましたか?」
インスピレーションが湧きすぎて、ついつい妄想に耽ってしまうアドニスの様子に犬耳メイドが首を傾ける。
「あっ、いや、ははっ、なんでもないです」
誤魔化し笑をしながら、出された紅茶を一口飲んでみると、あまり嗜好品の類を口にすることがない暮らしをしていることもあり、口の中に広がる豊潤な香りと深い味わいにアドニスは目を見張った。
「お味はいかがでしょうか?」
「こんな美味しいお茶、初めて飲んだ……」
「お気に召していただけて幸いです。こちらもどうぞ」
次いで出された菓子も絶品で、目を輝かせて食べるアドニスの様子を犬耳メイドはじっと見つめる。
「えっと、なにか?」
「あっ、いえっ……申し訳ございません」
彼女が何やら言いたげなのに気付くアドニスだったが、メイドはそう言って頭を下げると黙り込んでしまった。
一体なんだろうかと疑問に思っていると、様子に気付いたルナリスが口を開く。
「妹のことが気になっているのでしょう? その子はシロの姉なんですよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「はい……わたし、シロの姉のクロと申します」
言われてみると、毛の色は違うものの、耳や尻尾の形やモフモフ具合が似ている気がする。しかし、シロのペッタンなロリ体型とは違い、姉のクロはだいぶ発育がよく、胸は大きくふくらみ、太ももだってムッチリとした女の子らしい体型をしていた。
(姉妹ってことは、シロも成長すればこんなムチプリな美少女になるのか?)
大きくなったシロの姿を想像しようとしたが、子犬っぽいイメージが強すぎて、うまくできなかった。
「アドニス様、妹はルナリス様から仰せつかった役目をきちんと果たせているでしょうか?」
どうやらクロは小さな妹がひとり人間の世界に降りて上手くやれているのか心配をしているようだったので、彼女の不安を拭うべくアドニスはしっかりと頷いてみせた。
「もちろん、シロにはいつも助けられてますよ。あいつが居なかったら俺一人で途方に暮れていたところだったし、頼りになる相棒です」
「そうですか……あの子のお仕えする相手が、アドニス様のようなお優しい方でよかったです」
クロから向けられる純真な笑顔にアドニスが照れていると、話を聞いていたグラリンザが口を開く。
「ルナリスの身におきた異変は知っています。あなたがどうやってそれを解決しているのか、くわしく聞かせてもらえないかしら?」
どうやらルナリスの体調不良に関してグラリンザとアスーリアも心配していたようだ。それならばと、アドニスはコホンと咳払いをして、これまでの奮闘劇をかいつまんで説明した。
助けた奴隷のお乳を搾り、なりゆきでロリババアエルフのお乳を搾り、最近では猫耳冒険者のお乳を搾り、次はどうすれば新たなターゲットのお乳を搾れるかということに頭を悩ませているところなのだと。
その結果──。
「頭は大丈夫かしら?」
頭の心配をされた。いつもこうだ。
「いたって正常ですが!?」
「そうなのね、逆に心配だわ……」
いっそう不憫な目を向けてくるグラリンザに心を抉られていると、隣で聞いていたアスーリアが名案とばかりに手を上げる。
「だったら、わたしのおっぱいを搾ったら、すぐにレベルアップできるんじゃないかなー?」
「俺もそう思いまっス!!!」
アスーリアからのフラッシュアイデアにアドニス全力のアグリィィッ! ここは是非とも女神様のコンセンサスを得て彼女たちのお乳とパートナーシップを結びWin-Winな関係となって【搾乳】にイノベーションを起こしたいところである。
「おっけ~♪」
「ごっつぁんです!!!」
両手でふくよかな乳房をたぷたぷと揺らすアスーリアの誘惑によって、理性を失ったアドニスが鼻息も荒く手を伸ばしたそのときだった。
「悪ふざけはおやめなさいアスーリア」
「え~、べつにわたしはいいんだけどなぁ」
グラリンザに注意されてアスーリアがふいっと体をそらしたせいで、空振りした手は万乳引力によってより大きなお乳へと引き寄せられる結果となった。これは自然の摂理である。
「あ゛」
かくして、アドニスの右手は、隣にいたグラリンザの爆乳にタッチアンドGO!
いけない、これは不可抗力とはいえ、妖艶なる美貌の女神に「んほぉぉっ♡♡♡」と言わせてしまう展開じゃあないか。けど仕方がない、ラッキースケベは主人公の特権なのだから!
しかし、いくら待っても、グラリンザはンホともオホとも言わなかった。
「いつまで私の胸を触っているつもりですか?」
「ひぃぃっ! 申し訳ありません!!!」
いたって冷静な声音にアドニスは青ざめて慌てて手を引っ込める。
なんたるやらかし!
しかし、グラリンザは小さく溜め息をついただけで、それいじょうアドニスを咎めることはしなかった。
「今のは故意ではなかったので許しますが、相手の許可なく女性の胸を触るのは犯罪ですからね?」
「搾乳も犯罪ですか!?」
「それはケースバイケースです」
「なんてこった……」
いつの間にか忘れていた一般常識を女神様に諭されるアドニスであった。
*
さて、それからしばしの歓談のあと、宴もたけなわということで、今回のお茶会はお開きとなり、最後にルナリスから激励の言葉をもらって地上へ転送された。
「わうっ! おかえりなさいアドニス様!」
森の中に戻ってくると、シロが女神像の前に座ってアドニスの帰りを待ちわびていた。
「ただいまシロ」
よしよしと頭を撫でてやると、シロは不思議そうにアドニスの匂いを嗅ぐ。
「わう? アドニス様からクロお姉ちゃんの匂いがします」
「そうそう、天界でシロのお姉さんにあったんだよ。シロがちゃんと務めを果たせてるって聞いたら安心してたぞ」
「そうですかー……わぅ、わぅぅ」
シロはしばらく会えずにいた姉の匂いに感じるものがあったのか、甘えるようななき声で尻尾を振りながらアドニスの腰に抱きついて顔を押し付けてくる。
いつも明るく奔放なシロだが、まだまだ家族に甘えたい年頃なのだろう。
「よしよし、家に帰ろうな」
「わぅん」
そうしてアドニスはシロを抱っこしてミルフィーナの待つ牧場へと帰るのだった。