「よくここまでスキルを成長させましたねアドニス。これまでの搾乳によって私のお乳の詰まりは大分解消されました。おそらく、次で完治するでしょう」
「さすがルナリス様、切り替えがお早い……ッ!」
身なりを整えて神々しさを再装填したルナリスの御姿からは、ついさっきまで「んほぉおおおォォおぉっ♡♡♡おっぱいびゅるびゅるしながらオチンポずぼずぼされるのキモチいいのぉぉおぉっ♡♡♡」と叫びながら母乳を吹き散らかしていた淫神と同一人物とはとても思えない。
ちなみにアドニスといえば、精魂尽き果てていまだにフラフラと足取りもおぼつかないのである。
「無事に使命を果たした暁には、ご褒美としてあなたの願いを何でも叶えましょう」
アドニスの感嘆も華麗にスルーして、ルナリスは説明口調でそう告げた。
「ははぁ、願いですか。俺としてはルナリス様のお乳を搾れることがご褒美みたいなものなのですが」
「ふふっ、謙虚ですね。それではアドニス、次に会うときを楽しみにしていますよ」
ルナリスがそう言うと、アドニスは眩い光に包まれて天界を後にした。そして目を開けば、いつも通り、森の中にある女神像の前に立っていた。
「ご褒美か……つまり、ルナリス様に会えるのも次が最後ってことなんだろうな」
今は搾乳という役割があるからこそルナリスに会えるけれど、そもそも人間と女神は文字通り住む世界が違うのだから、使命を果たせばただの牛飼いであるアドニスが天界を訪れる機会は二度とないだろう。
「そういえば、シロはどうするんだろうか? やっぱりシロもお役御免になれば天界に帰るのかな」
すっかり家族の一員となっているケモミミ少女も、本来であれば人間に崇め奉られるべき神獣なのだから、天界に戻るのが筋だろう。
いつのまにかすっかり日常になっていたが、今がずっと続くことはないのだ。
もうすぐ使命を果たせることへの安堵と共に一抹の寂しさを感じながら、アドニスがぼんやりと女神像を眺めていたそのときだった。
よく晴れていた空が突然暗くなり、のどかな野鳥のさえずりがピタリと止まった。
「ん、なんだ……?」
アドニスが異変を察して空を見上げた瞬間、突如として暗雲を切り裂く黒い雷が轟音と共にアドニスの真上に落ちた。
それは一瞬の出来事だった。あまりにも唐突すぎて、アドニスは自分に何が起こったのかも理解できなかった。
呆然とその場に立ち尽くしながら、周囲が焼けこげているのを見て、ようやく自分が雷に撃たれたのだと気づいた。
上空を見上げると、空を覆っていた暗雲は晴れ、何事もなかったかのようにすっかり元の青空が広がっている。幸いなことに体には傷ひとつない。おそらくルナリスの乳加護が守ってくれたのだろう。だが、問題は他にあった。
「なんてこった……女神像がバラバラに……」
雷の直撃によって女神像は無残に砕け散ってしまったのだ。これでは天界に転送してもらうことができない。
アドニスは愕然としながら、周辺に散乱している破片を拾い上げた。ちょうどお乳の部分にあたるパーツだろう。砕けてもなお見事なお乳である。
「【搾乳】」
アドニスはおもむろに【搾乳】してみた。特に意味はない、ただの脊髄反射である。しかし──。
「あれ……?」
【搾乳】は発動しなかった。
「お、おかしいな……【搾乳】!」
もういちど試してみたがやはりスキルは発動しない。息をするようにお乳を搾ってきたアドニスにとって、こんなことは初めてだった。
「【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】!【搾乳】────!!!」
森の中に虚しく響く搾乳の叫び声。しかし何も起こらない。
「おっ……おぉぉっ……おぱあああああぁあああっ!!?」
アドニスは【搾乳】を失った。
*
「大変だ! 女神像が……スキルがぁっ!」
「わうっ!?」
「どっ、どうしたんですかご主人様、そんなに慌てて……」
家で主人の帰りを待っていたミルフィーナとシロが、ドアを勢いよく開けて駆け込んできたアドニスに目を丸くする。
しかしアドニスは驚くふたりに構わず、目についたミルフィーナの大きなお乳を両手でムニュンと鷲掴みにして【搾乳】を試みたが……やはり不発!
「……あの、ご主人様? いきなりなんですか?」
いきなりおっぱいを揉んでくるスケベご主人に冷たい視線が向けられただけだった。
「なんて……こった……」
本物のお乳でもダメだとわかり、膝からカクンと力が抜けてアドニスは床に崩れ落ちた。
そして、困惑するシロとミルフィーナに支えられて椅子に座ると、アドニスは何が起こったのかを二人に説明した。
「なるほど……スキルは神様から賜った力ですし、ご主人様が女性のお乳ばっかり搾ってるから神様がお怒りになって没収されてしまったのかもしれませんね」
「へぶぅ!?」
優しく励ましてくれるかと思いきや、ミルフィーナから辛辣な意見が投げつけられる。やはりアドニスの女性関係については日頃から鬱憤が溜まっていたのだろう。しかし、女神様のために女性のお乳を搾ってきたというのに、それで天罰が与えられるのは納得がいなかなった。
「いや、そんな落ち着いてるけどねミルフィーナさん、【搾乳】が使えないってことは牧場の仕事にだって影響があるんだよ? 乳搾りだって一瞬じゃ終わらないし、品質だって補正されないし……」
「それが普通なんですよ。スキルに頼らず地道に働きましょう。大丈夫です、わたしもお手伝いしますから。そうだ、新しくチーズ工房を作ってみるのはどうですか? 牧場の新しい名産をつくって収入源を増やしましょう」
悲観的になっているアドニスに対して、ミルフィーナはむしろやる気まんまんである。こういう逆境時は女の方が肝が座っているらしい。
「大丈夫ですよ、スキルがなくたってわたしはご主人様の側にいますから、いっしょに頑張りましょう」
「わうわう! シロもお手伝いしますよアドニス様!」
「ミルフィーナさん……シロ……おっ、おれは……っ」
そうだ。どんなに大変な時だって、自分には支えてくれる家族がいる。
スキルなんかなくたって、人間には頑張れる力があるんだ!
二人に大切なことを気付かされたアドニスは、瞳に希望の輝きを取り戻した。
「あっ、ああ! そうだな! 俺たちみんなの力で牧場をやっていこう!」
アドニスは大きく腕を上げた。そうさ、俺たちの牧場物語はこれからだ──!!!
神乳しぼります!牛飼いさんの『搾乳』スキル <完>
「───────!?
いやいやいや、これはそういう物語じゃないんだわ! あっぶなぁ、危うく完結するところだったよ」
そして我に返ったアドニスは、とりあえずシロと一緒に壊れた女神像の元へと向かうのだった。
*
現場に戻ってきても、やはり石像は砕けたままだった。
「う~ん困ったぞ。なあシロ、神獣の神秘的なアレで何とかできないか?」
「わう、接着剤でくっつけてみましょう」
そして小一時間が経過。
「わふぅ~、完成ですアドニス様!」
「おおっ!」
一仕事終えて額の汗を拭うシロが、やりきった感のある笑顔をアドニスに向ける。
しかし、そこには「混沌」と題したくなるような不穏な圧を漂わせる異形の像が鎮座していた。
「シロさん!? なんか女神像が前衛的なオブジェに変貌しちゃってるんですけど!? 大丈夫かこれ?」
「わう、とりあえず動くか試してみましょう」
「でも俺、今はスキルが使えないんだが」
「わうっ、大丈夫ですよ、神獣の神秘的なアレで起動できますから」
「さすがシロ! 頼りになるぜ!」
「わうわう!」
そう言って、シロは元女神像だったものをベシベシと素手で叩いた。
『ピーッガッガガガッ、ててテテテンそうをかいしシマシマスススス』
女神像(元)からバグった音声が流れ出した。
「やりましたアドニス様!」
「ひゅ~っ、やっぱりシロは最高の相棒だぜ!」
お馴染みの光に包まれたアドニスは天界へと転送され、そして目を開くと、そこにはいつもどおりの真っ白な空間──ではなく、全体的にピンク色でなんか卑猥な匂いがぷんぷん漂う空間が広がっていた。
「なんかいつもと違う!?」
「あれー? アドニスくんだーひさしぶりー! 元気してたー? どうしてここにいるのー? セックスするー?」
そこにいたのはルナリスではなく、チンポ大好き超絶ヤリマン美少女アイドル女神のアスーリアだった。