さて、どうやら女神像の不具合のせいで違う場所へと転送されてしまったアドニスは、事の経緯をアスーリアに説明した。
「そっかぁ、そんなことがあったんだねー」
「はい、それでルナリス様にご相談しようと思ったんですが……アスーリア様のお力でなんとかなりませんかね?」
「うーん、こういうのはグラリンザの方が詳しいから、グラリンザのところに連れて行ってあげようか?」
「ほんとですか、ぜひお願いします!」
「うん、それじゃあとりあえずセックスしよっか!」
「話の流れをぶった切っていくスタイル!?」
「しないの?」
「しませんよ!?」
否定しながらもアスーリアのくりっとした大きな瞳に見つめられ、アドニスはドキッとしてしまう。自他共に認めるヤリマンビッチ神だが、その容貌はまさにアイドルで、可愛さという点だけならルナリス以上、こんな美少女に迫られたらどんな男でもイチコロだろう。
平時であればアドニスだって喜んで飛びついていただろうが、今は非常事態なうえ、ルナリスにキンタマすっからかんになるまで搾り取られていたことが功を奏して理性的な判断を下すことができた。
「そっかー残念、さっきまで友達の男神たちとしてたんだけど、みんな途中でバテちゃったからアドニスくんに相手してほしかったんだけどなー」
そう言って、アスーリアが向ける視線の先には、無数の男神たちがスッポンポンのまま力尽きて転がっていた。きっとアスーリアのセックスフレンズなのだろう、とんだ大乱交である。
ミル乳のドーピングもないまま、もしもうっかり誘いに乗っていたら自分もああなっていたに違いないとアドニスは肝を冷やした。かように女神様とのおセックスは命懸けの過酷なファイトなのである。
「まあそれは今度でいっか、それじゃあグラリンザのところに転移するねー」
アスーリアが軽い口調でそう言った瞬間、アドニスの視界は途端にピンク色の世界から、闇夜の世界に移り渡った。
天を覆う暗闇に小さな輝きがちりばめられ、それは幻想的だがどこか怖くもあった。
「あ、いたいた。やっほーグラリンザー!」
「あら、アスーリア? いったいなんの用かし……ら!?」
暗闇の世界にひとり静かに佇んでいたグラリンザが騒がしい友人の来訪に視線を向けるが、その隣にアドニスの姿を見つけるとその目を丸くする。
「どうもグラリンザ様、お久しぶりです」
「アドニス、なぜあなたがここに……?」
いきなり人間がやってきたことに驚いたのだろうか、明らかに戸惑っているグラリンザにアドニスは今の状況を説明した。
「あなた、よくそれで無事だったわね」
「はい、ルナリス様の加護が守ってくれたんだと思います。けど、それからスキルが使えなくなってしまって……」
「そのようね。見たところ、どうやらあなたにはスキルを封じる呪いがかけられてるみたいだわ」
「呪い!? なんでそんなものが……グラリンザ様のお力で呪いを解いていただくことはできないでしょうか?」
「残念だけど、わたしも見たことがない呪いだし、すぐには無理だわ」
「そんな、何か方法はないですか!?」
「そうね……人間界にいる【解呪】のスキルを持つ者なら呪いを解くことができるかもしれないけど、とても希少なスキルだから、そう簡単に見つからないでしょうね。今はどうすることもできないし、あなたはいったん地上にお戻りなさい。この事はわたしからルナリスに伝えておくわ」
「落ち込まないでアドニスくん、わたしたちも何か方法がないか調べてみるから」
「はい、すみませんアスーリア様、グラリンザ様、よろしくお願いします」
そうしてアスーリアたちによって元居た場所へと転送されたアドニスに、女神像の前で帰りを待っていたシロが駆け寄ってくる。
「わう!お帰りなさいアドニス様! ルナリス様には会えましたか?」
「いや、それがな……」
アドニスは意気消沈しながら、グラリンザに言われたことをシロに伝えた。
「わぅぅ、なるほどぉ困りましたねぇ」
「ああ、今のところ、どこかにいる【解呪】のスキルを持った人を見つけるしか手がないんだけど、そんな都合よくは見つからないだろうし、お手上げだ」
「わう! シロにお任せください! 神獣の神秘的なアレでなんとかします!」
そしてシロはいつも運命のお乳を探すのと同じ要領で鼻をスンスンと鳴らしてあたりの匂いを嗅ぎはじめる。
「えぇっ? けどぉ、いくら神獣の神秘的なアレでも、そうそう都合よくいかないじゃあないかなぁ? ちらちらチラッ」
「わうん! 吉兆の匂いがします!」
「ぱねぇっ……シロさんマジぱねぇよ!」
「わう、こっちですアドニス様!」
駆けだすシロの後を追っていったアドニスは、森を抜け村に戻り、教会の前までやってきた。
「わうっ! ここです! ここから匂いがします!」
神獣の導きに従って扉を開けたアドニス。すると、薄暗い礼拝堂にステンドグラスから差し込む陽光の中で膝を折って祈りを捧げる修道女の姿を見つけた。
黒い修道服に身を包んだ娘が物音に気付いてアドニスたちの方を振り向く。
ベールの隙間からのぞくフワリとした長髪に、頭の左右には羊人族特有の大きなツノが伸びており、優しげな目つきと可憐な容姿は、どこか儚げな印象を受けた。最近やってきたのだろうか?村では見たことのない少女だった。
修道女は突然やって来たアドニスたちの姿を呆けたようにじっと見つめている。
驚かせてしまったのだろうかと、アドニスが声をかけようとしたときだった。
「あなたは……御使様でいらっしゃいますか……?」
「え?」
先に口を開いた修道女の問いかけに、その意味がわからず困惑してしまう。
御使様? この娘はいきなり何を行っているのだろうか?
なんのこっちゃ分からずアドニスが戸惑っていると、隣のシロがえへんと胸をはる。
「わうっ、そうですよー、アドニス様は女神ルナリス様から使命を託されたお方なのです」
「やっぱり、そっ、それじゃあ、あなたも……」
「わうっ、シロは神獣シロですよー」
「あぁっ、まさか、わたしのような者の元に神獣様と御使様が現れるなんて……」
「え?え?」
「わうっ、ここに来たのは他でもありません。あなたの力を借りるためなのです」
「かしこまりました神獣様、このカプリア、誠心誠意ご奉仕させていだきます」
「わうっ! やりましたねアドニス様!」
「アドニス様、なんなりとお申し付けください」
なんか知らんがトントン拍子で話が進んだ。
「ちょっとまって、俺だけ全く話についていけてないんだけど、俺が御使様だとかちょっと意味わからんのだが、何かの間違いでは?」
「いえ、アドニス様、あなたから溢れ出る眩しい神気は、まさしく御使の証です」
「うっそ、俺の体ってぺかぺか発光して見えるの?」
「はい、あまりにも神々しくて直視できないぐらいです。あっ、まぶしっ……」
「なにそれこわい」
アドニスは無自覚だが、女神様の母乳を浴びたりゴクゴク飲んだり、あまつさえ生でパコパコしちゃった今の彼は法王もびっくりな神気をまとっていた。一般人ならともかく、敬虔な信徒であり非凡な才を持つカプリア視点では、アドニスはめっちゃシャイニング状態である。
「それで、アドニス様の使命とは……わたしにいったい何ができるのでしょうか」
「ああ、そのことなんだけど……」
そして、アドニスは語った。
神様から授かった搾乳スキルのこと。神獣シロが天界より遣わされたこと。
スキルを成長さて女神様のお乳を搾りきらないと世界がやばいこと。
そして今、【解呪】のスキルが必要なこと。
一大スペクタクル巨編を予期させる壮大な物語を語り聞かせた!
すると────。
「そうだったのですね。わたしのスキルがアドニス様の崇高な使命の一助となるなら、喜んでお手伝いさせていただきます」
「初めて人から信じてもらえた!?」
この話をするたびに虚言癖のあるおっぱいバカ扱いされてきたアドニスとって、逆に信じてもらえたほうが驚きだった。
「それじゃあさっそく【解呪】をお願いしてもいいかな?」
「はっ、はい……」
そしてカプリアは目を閉じて両手をアドニスに向けてかざす。するとどうだろう、淡い光がアドニスの体を包み込んだではないか、なんかこう体がいい感じに軽くなったような気がしなくもないぞ!
「やったか!」
「いえ失敗です」
ダメだった。
「呪いが強すぎてわたしのスキルでは力が足りません……」
「なんてこった、いったいどうすればいいんだ。助けて女神様ぁ!!!」
一難去ってまた一難。こんどこそ手詰まりになりアドニスが神頼みをしたときだった。
『もしもーし聞こえてるー? わたしアスーリア、いま女神の神秘的なアレであなた達の心に直接語りかけてるよー♪』
なんか天啓がきた。