その事件は昼下がりに起こった。
小腹が空いた俺は珠代さんに何か作ってもらおうと、彼女を探して家の中をうろうろするも、どこにも姿が見当たらない。
出かけるとは言ってなかったし、はて、珠代さんはいずこ?
俺が疑問に思っていると、庭の方から微かに珠代さんの声が聞こえてきた。
洗濯物でも干しているのかと思ったが、よくよく耳を澄ませば、珠代さんは誰かと会話しているようだった。
いったい誰と?
訝しみながら近づくと、しだいに珠代さんの声がはっきりと聞き取れるようになる。
「それはわかっています……けど、あなた……」
なにやら珠代さんにしては珍しく緊張をはらんだ声……いや待て、彼女は今なんと言った?
珠代さんの発した「あなた」という言葉が何を意味するのかすぐには理解できなかった。
しかし、それが夫に対する呼称だと気付いたとき、俺は頭の後ろをガツンとやられたような錯覚を覚えた。
なんてこった! つまり今、珠代さんの旦那が家に来てるってことか!?
何事もなく過ぎていく日常のせいで忘れそうになっていたが、彼女は人妻(狐妻?)なのだ。
俺の「珠代さんを寝取ちゃうぜ計画」において最大の障害とも言える旦那が、まさか我が家に乗り込んでくるとは……。
正直、心の準備はできていないが、避けては通れない相手である。まずは、その顔を拝んでやるぜ。きっとヒョロッとしたキツネ目の男に違いない!
緊張のせいで心臓が大きく跳ね上がり、握った手の平にじっとりと汗が滲む。
俺は気付かれないように、居間からそうっと庭を覗き見た。
まず視界に入ったのは縁側に立つ珠代さんの姿。どこか不安げな様子で胸の前で手を握っている。
俺は彼女の視線を追って、その先に居るであろう旦那の姿をついに目撃した!
これは、なんと言うべきか…………フォックス!!!
モフモフした毛皮、珠代さんと同じフサフサな耳と尻尾、4本の足で立つ姿。どこから見てもキツネである!
その愛らしい姿に、臨戦態勢だった俺も思わずホッコリしてしまう。そういえば以前にも一度このオス狐を見たことがあったな。
てっきり旦那も人間に化けているものだと思い込んでいたのだが、キツネの姿で珠代さんに会いに来ているようだ。
俺は少しほっとしながらも、さてどうしたものかと様子を覗き見る。
どうやら人間に化けていても、珠代さんとキツネ(ややこしいから”キツ夫”と仮称する)の会話は成り立っているようだが……俺にはキツ夫がキャンキャン鳴いているようにしか聞こえない。
人間とキツネが会話する光景はなんともシュールだ。
俺はしばし傍観することにした。
「キャン、キャンッ」
「いえ、それはまだ……わかりません」
「キャンキャン!」
「けど、あなた、恩返しのためなんです」
「キャン!キャキャン!」
「あなた……」
「キャンキャキャン!キャワン!」
――――――意味が分からんわッ!!
しかし珠代さんはなんだか困っている様子だ。
このまま黙って見過ごすべきではないと判断した俺は、さも今来たかのように「珠代さん、そこにいるの?」とワザとらしく声をかけながら乱入を試みた。
「雪彦さん……!? どっ、どうなさいました?」
「いや、ちょっとね、それより何かあったの?」
俺は何も気づいてないフリをしながら庭に佇むキツ夫に目を向ける。
「キツネがいるね?」
「そっ、そうなんです……迷い込んでしまったみたいで……」
キツ夫は逃げることなく俺をじっと見つめてくる。
おいおい、随分と挑戦的な目をしてるじゃねえか。
獣は先に目をそらした方が負けるとかなんとか、だったら俺も逃げるわけにはいかん。
悪いがここは俺と珠代さんの愛の巣(になる予定)なのだ。キツ夫は山に帰るんだナッ! という意思を込めて睨み返す。
ぶつかり合った視線が火花を散らし、隣でオロオロしている珠代さんは非常に可愛い。
俺はキツ夫に見せ付けるように珠代さんの肩を抱き寄せた。
「ひゃっ……あのっ、どうしたんですか雪彦さん?」
「いやぁ、珠代さんは可愛いなぁと思って」
胸に顔を埋めた珠代さんを抱きしめながら、流れるような手つきでキツネ耳と尻尾をナデナデする。
上達した俺のハンドテクニックは珠代さんの気持ちよくなる場所を的確に刺激するのだ!
「ふぁっ、雪彦さん……だっ、だめです……」
「なんでダメなの? いつもしてるじゃない」
「そのっ……キツネが、見てます……」
振り向くと、キツ夫が忌々しげ顔でこっちを見ている。(ような気がする)
「いいじゃないか、キツネになんて、いくらでも見せてやればいいさ」
「んっ……でっ、でもぉ……」
俺は有無を言わせず全力で珠代さんを愛撫する。
見せてやるぜキツ夫! 人間のLOVEてやつをよぉっ!
身体中に手を這わし、乳を揉み、尻を撫で、股の付け根をグリグリと刺激すると、珠代さんの頬はみるみる紅潮し、瞳が潤んでいく。
「あぅっ、ぁっ……ぁぁ、だめです……そんなにされたら……わたし……」
彼女の中で快感が高まっていくのを察して、俺はスカートの中でパンツの中に手を潜り込ませる。
パンツの中は既に糸を引く愛液でぬめっていた。珠代さんは感度がよろしいぜ。
俺はヌルリと湿った秘部に指を挿れて熱く締め付けてくる膣口を搔き回した。
「んぅっ……ぁっ……ふっ、んぁ……ッ!」
切なげな喘ぎ声を漏らす珠代さん。膣肉はトロトロにほぐれて指をズッポリと呑み込んでしまう。
「ほらっ、イクんだ珠代さん、そこのキツネに見られながらイクんだよ」
俺は耳元で囁きながら、激しい手マンでラストスパートをかける。
「あぁっ……だめぇっ、見られてる……のに……こんなっ…………あぁっ、ぁっ……ひうっ! んんぅッ!!」
絶頂によりビクンと体を痙攣させた後、くったりと力が抜けた珠代さんを抱きかかえた。
その一部始終を見ていたキツ夫は、おそらく何が起こったのか理解していないだろう。訳がわからないといった顔でこちらを見ている。(ような気がする)
どうだキツ夫、お前の奥さんは俺のテクニックにメロメロなんだゼ!
キツネ相手に勝ち誇ってる俺は、側から見れば阿呆にしか見えないのだろうが、そんなことは気にしない!
とりあえず寝取り相手の旦那にかましてやったぜ! という達成感を味わないながら、俺は腰の抜けた珠代さんを連れて家の中へと戻ったのだった。
しかし、どうやらチョットやり過ぎてしまったのだと気付いたのは次の日のことだった。
*
「ごめんください」
その日、一人の男が我が家を訪ねてきた。
ひょろっとした体格にスーツ姿、黒髪はきっちり七三分け、いかにも几帳面そうな顔をしたキツネ目の男だった。
あっ、こいつキツ夫だわ。
俺は一目で理解した。