健二がメッセージを送ってからすぐ、携帯に着信が来た。
しかし、そこに表示された返信内容は、またしても健二の予期するものとは違った。
『お前、何言ってんだ? 健二だけど』
まるでこっちがおかしなことを言ってるような文面に、健二は焦って返信をする。
『ふざけるな。お前は修一なんだろ?』
そしてまたすぐに着信。
『なにそれ。なんの遊び?』
健二の言い分はまるで通じていない。ただの冗談だと受け取られている。
文面ごしに話をしていてもラチがあかない。
健二が隣の家にいる山田健二に電話をかけると、数回のコールで相手が出る。
『もしもし?』
「おい、お前は誰だ?」
『だから、意味わかんないんだけど?』
健二が問い詰めようとするも、通話口から返ってきたのは相手の呆れたような声だった。
「今から外に出てこいよ」
『風邪引いてるから無理』
ああ言えばこう言う。
健二はいよいよイラだって、隣の家に乗り込んでやろうかと思ったが、それこそ不法侵入になってしまう。
『よくわかんないけど、明日は学校行けそうだから、そのときにな』
それだけ言って、相手は電話を切ってしまった。
(なんだよこれ……なんだっていうんだ……っ!?)
まるで会話が成り立たない。
てっきり修一と中身が入れ替わってしまったものだと思っていたのに、これじゃあ山田健二が二人に増えたようなものだ。
健二が混乱とやり場のない憤りに頭を抱えると、下からガチャリと玄関のドアが開く音がした。
「ただいまー」
麻奈美の声が部屋まで響いてくる。
これからどうするべきか考えなくてはならいのだが、麻奈美を無視するわけにもいかず、健二は仕方なく一階へと降りていった。
一階に降りると、玄関に居た麻奈美は、いっぱいに詰められたスーパーの袋を重そうに持ち上げていた。
「セールしてたから、いっぺんに買いすぎちゃった」
「キッチンに運べばいい?」
「うん、ありがとうシュウくん」
健二がずっしりと重たい袋をキッチンへ運ぶと、麻奈美はそこから食材を取り出す。
「今日の晩御飯はグラタンにしようと思うんだけど、それでいい?」
家事のほとんどを麻奈美がやっていると聞いてはいたが、美人の姉に世話を焼いてもらえるなんてと羨んでいた健二も、幸か不幸か期せずしてその願いが叶ってしまったようだ。
(修一のやつ、なんてうらやましい生活をしてるんだ!)
エプロンを身につけた麻奈美が、長い髪をゴムで手早く後ろにまとめる姿を健二は後ろからぼけっと眺める。
その仕草は艶っぽく、麻奈美の細い首と白いうなじに目が釘付けになる。
「どうしたの?」
「あ、えっと、姉さんの料理、楽しみだなって……」
「ふふっ、シュウくんグラタン好きだもんね」
なんて幸せな光景なのだろうか。麻奈実の温かい笑顔を見ていると先ほどまでニセケンジのことで頭がいっぱいだったのに、そんなものは頭の隅に追いやられてしまう。
「ちょっとまっててね、すぐ作るから」
「何か手伝おうか?」
「あらっ、珍しい。それじゃあサラダお願いしようかな」
健二は料理なんてほとんどしたことがないけれど、サラダぐらいなら大丈夫だろうと、袖を捲って台所に立つ。
二人で台所に並んで立つと、自然と距離も肩が触れるぐらい近づく。
健二が洗った野菜を千切っていると、隣の麻奈美が健二に向けてスプーンを差し出してくる。
「はい、ソースの味見して」
言われるがままに、スプーンを口に含む。
「うん、美味しい」
「よかった」
にっこり笑う麻奈美の顔に思わず見とれてしまう。
まさか自分がこんなラブコメみたいなことをするなんて。
健二は心の中で感動を噛み締めていた。
それから出来上がった料理を二人で食卓を囲みながら食べる。
今までなら麻奈美とは気後れからまともに話すことができなかった健二も、弟という立場に慣れてきたせいか、だんだんと積極的に喋れるようになってきた。
食後はリビングでまったりしてから、先に麻奈美が風呂に入っていた。
なんとなくソワソワしながらリビングでテレビを見ていると、しばらくしてパジャマ姿の麻奈美が風呂から戻ってきた。
普段は見ることができない麻奈美の姿に、健二は目が釘付けになった。風呂上がりのせいか、頬がほんのり上気してやけに色っぽい。
「シュウくんもお風呂入ってきたら?」
麻奈美に促され健二は脱衣所に入ると、服を脱ぎはじめる。他人の家で裸になるのは妙な気分だった。
そして、脱いだ服をカゴに放り込もうとしたとき、そこに麻奈美の衣類が置かれていることに気がついた。
麻奈美が先に入浴したのだから脱いだ服が置いてあるのは当たり前なのだが、服の上に無造作に乗っかっている薄い小さな布地が目に入ってしまった。
(これ……麻奈美ちゃんのパンツだよな……?)
大人っぽいレースの刺繍が入っている白いショーツは、この前うっかり麻奈美のスカートの中を覗いてしまったとき、彼女が履いてものだった。
頭の中にそのときの光景が蘇ると、それに反応して陰茎に血が集まって膨らんでしまう。
駄目だとはわかっていても欲望には逆らえず、健二は震える手を麻奈美のショーツに伸ばしてしまうのだった。