ファンタジー人妻エロ小説「田舎領主様と獣人の母娘」の第71話〜第80話をまとめて掲載しています。不幸な女が田舎領主様と出会って人妻メイドとなるまでの過去物語。あのとき彼女が何を思っていたのか、その本心が語られる。
【71話】教会嫌いの薄幸巨乳美女はシスターと出会う
(最悪だわ……)
彼女にしては珍しく嫌悪感を丸出しにしながら、スフィアナは眼前にそびえる建物を見上げていた。
古めかしく厳かな雰囲気を放つそれは、女神の信徒が集う修道院である。
年季を感じる門構、その奥に広がる修道院を眺めるスフィアナの顔には疲弊が色濃く浮かんでいた。
女の妬みによって男に輪姦された、あの忌まわしい事件から既に二年の歳月が経過していた。
悪い噂が広まってしまったこともあるが、加害者の死因に疑惑の目を向けていたアリューシャに事の真相を暴かれるのを恐れたというのが街を離れた一番の理由だった。
もっとも、スフィアナの力は常識で測れるものではなく、彼女自身もその可能性は限りなく低いと思っている。
そうして、別の街へと移り住んだスフィアナ。それで全て解決したかといえば、残念ながらそう上手くはいってくれなかった。
次の街でも男にまとわりつかれ、女には妬まれ、それがキッカケで問題が起こり、結局はまた街を出ていくハメになり、またその先でも──。
そんなことが繰り返されたせいで、叔父夫婦の元で暮らしていたとき、男に体を売ってまでして稼いだ皮袋一杯の金もすっかり減ってしまい、残り僅かになっていた。
このままいけば行き倒れてしまう。もちろん、スフィアナがその気になれば男を篭絡して金を稼ぐなど容易いことだ。
もしもスフィアナが私利私欲のために躊躇いなく男を利用できる女であれば、これほど生きづらいこともなかだったろう。
けれど彼女はそれを望まなかった。たとえ意のままに男を操れたとしても、忌々しいと思っている男がいなければ成り立たない人生など御免なのだ。
多くを望むつもりはなく、ただ平穏に暮らしたいだけだというのに、どこに行けども発情した男と嫉妬する女に邪魔される。
スフィアナの心はもう限界だった。
叔父夫婦の元を離れ新たな人生を歩もうと、胸を躍らせ力強く踏み出したはずの足は、まるで沼地に踏み入れてしまったかのように、一歩進むごとに、ズブリ、ズブリ、と沈んでいく。
まとわりつく泥のせいで足は重くなり、もう、どうすればいいのか分からなかった。
そうして、行くあてもなくトボトボと歩いていた彼女は、いつのまにか修道院の前に立ち尽くしていたのだった。
(なんでこんなところに来てしまったのかしら……まさか神に救いでも求めているの?)
スフィアナは自嘲気味に自らに問いかけた。
今でも時折、神父との忌々しい過去を思い出しては虫唾が走るというのに、そんな自分がまさか神に縋るなど冗談ではなかった。
(ありえないわ……)
これはきっと、精神的に弱っているせいで起こした気の迷いに違いない。そう結論付けて引き返そうとしたときだ。
「貴女、なにかご用かしら?」
しわがれた、けれど柔和な声が彼女に語りかけてきた。
見れば、門の側には修道服に身を包んだ小柄な老婆が立っており、スフィアナの悲壮を察したのか、彼女に近づいてきた。
面倒なのに見つかったと、スフィアナは心の中で舌打ちをする。
「いえ、通りすがっただけですから……」
関わり合いになるまいと、そっけなく言ってその場を離れようとしたスフィアナだったが、その手を老婆が掴んで引き留めた。
「あの……放してもらえますか」
「あなた、なにかお困りなんでしょう?」
ニッコリと微笑む老婆の問いかけにスフィアナは頬を引きつらせる。
「いえ、違いますから……」
「あなた、酷い顔をしているわ。さあ、中に入りなさい、温かいものを飲ませてあげましょう」
「いえ、結構ですから」
老婆の痩せた手など振り払おうと思えば簡単なはずなのに、笑顔の圧が強いせいでたじろいでしまう。
「だから……」
何度断ろうとも笑顔を崩さずグイグイと迫る老婆に根負けて、気がつけばスフィアナは修道院内の一室に連れ込まれ、湯気の立つお茶をちびちびと飲みながら、要所をぼかしながらも男によって人生が狂わされたことを喋らされていた。
(私、なんでこんな話をしてるのかしら……)
おっとりしてるくせになんて強引な婆さんだと舌を巻く。
彼女の話を聞いた老婆は、なるほど、と相槌を打ちながらスフィアナの顔を見て一言。
「確かに、あなたって幸薄そうな顔しているわ」
「くッ……!」
今のスフィアナには、とても刺さる一言だった。ズケズケとものを言う婆さんに、さしものスフィアナも穏やかではいられず、カップをテーブルに置いて立ち上がる。
「帰ります。お茶、ごちそうさまでした」
「おまちなさい。あなた、いく当てがないのでしょう?」
「余計なお世話ですわ」
「女子修道院でなら男性に関わることもないし、その綺麗すぎる顔を隠して生活することもできますよ。そうね、顔には酷い傷があることにしましょうか」
「私に修道女になれと? 冗談でしょう、私に信仰心なんてないわ」
「それは、おいおいでいいわ」
「おいおいって……」
「おためしで入ってみるのも、いいんじゃないかしら?」
「おためしって……」
修道院というのは規律に厳格な者の集まりだと思っていたスフィアナは、この老婆はきっと、ろくな信仰心もなく住居目当てに修道女になった類に違いないと思った。
「ちなみに私は、ここで女子修道院長を務めています」
院長だった。
*
(どうしてこんなことに……)
礼拝堂に集まった修道女たちが女神への祈りを捧げる中に混ざって、修道服に身を包み顔も隠したスフィアナは形だけの祈りを捧げながら、心の中でため息をついた。
気がつけば、なんやかんやで修道女にされていた。
そして腹が立つことに、修道院の生活がスフィアナにとって意外な程に快適であった。
今でこそ、性格はだいぶ擦れてしまったものの、元から勤勉で器量もよい彼女は、厳しい規律も与えられる仕事も苦にはならなかった。
それでも、毎日課される礼拝の時間だけは虫唾が走る気分で、賛美歌を歌うときなんかは、どうせ顔を隠してるのだから分かりやしないだろうと、こっそり口パクもするが──。
「スフィアナ、声が出ていませんよ」
「ひぅっ!」
院長に尻をペシリと叩かれたりもする。どうにもこの老婆は苦手であった。
とはいえ、女から目の敵にされることが多かったスフィアナが他の修道女とはそれなりに上手くやれていたのは幸運であった。
修道院の女たちには、入院せざるを得ない事情を抱えた者も多く、不用意に他人を詮索するような真似は避けられていたお陰だろう。
もっとも、いくら顔を隠しているとはいえ、一緒に生活をしていればうっかり素顔を見られてしまうこともある。
女だけの閉鎖的な空間でスフィアナの美しい顔を見てしまったせいで、名状しがたい気持ちを抱いてしまった修道女もいたのだが──とりあえずは、大きな問題が起こることもなく、修道院に守られながらの暮らしは彼女の望んでいた平穏と言って差し支えないものであった。
そうして、スフィアナの傷ついた心は、少しずつ癒されていった。
*
季節は巡り、彼女の修道女姿も板についてきた頃のことだ。
日課の礼拝が終わったとき、スフィアナは老婆院長から呼び止められた。なんでも、司祭様からお話があるということらしい。
嫌な予感がした。日常に陰りが差す兆候のようなものを感じた。
そして、院長に連れられて司祭の部屋を訪れると、そこで彼女はこう告げられた。
「さる高貴なお方が、おまえのことを見染めたのだ」と。
奉仕活動で外に出ていたスフィアナの素顔を偶然にも見てしまい、一目惚れしたから妾にしたい、すぐにでも迎え入れたいとのことだ。
冗談ではないと、スフィアナは断った。院長もスフィアナを擁護してくれた。
けれど、司祭は気まずそうに咳払いをする。
「修道院が財政難なのは知っているだろう? そのお方は、おまえを迎えることができれば、多額の寄付をしてくださると仰っている……これは、おまえがこの修道院に恩返しをする絶好の機会なのだよ。わかるかね?」
司祭が何を言いたいのか、スフィアナは十分に理解した。つまり、自分を金と引き換えに売り飛ばそうというのだ。その寄付金とやらは一体いくらが司祭の懐に入るのだろうか。
(男という生き物はどこまで醜悪なのかしら……)
院長は反対してくれたが、司祭の権力に敵うはずもなく、いくらスフィアナが拒んだところで、たかが修道女には何もできないのが実情だ。司祭が指示すればスフィアナはあっけなく修道院から放り出されてしまうだろう。
出来ることといえば、妾なぞ御免だと修道院から逃げ出すぐらいだが──。
「わかりました司祭様。そのお話、お受けしますわ」
スフィアナは承諾した。ここで自分が逃げれば院長が責任を負わされてしまうかもしれないし、それに、この修道院に世話になったのも確かだ、寄付によって少しは恩返しもできるだろうと思ったのだ。
彼女の返答に、司祭も満足げに頷く。
「院長、いままでお世話になりました、どうか長生きしてくださいね」
スフィアナは顔隠しを取ってから、老婆の痩せた手を握って感謝を口にする。そして、司祭に向かって微笑みながら一言。
「くたばれクソ野郎」
と言い放ち、呆気に取られる司祭を置いて部屋を出て行った。
そして彼女は、さる高貴なお方とやらの妾になるため、その日のうちに馬車に乗せられ修道院を後にしたのだった。
*
余談だが、この司祭は暫くのちに朝食のパンを喉に詰まらせてくたばったらしい。それが彼女の力によるものなのかは不明である。
【72話】人妻となって種付中出し精液で孕まされた美女
さて、スフィアナが修道院を離れてから暫くが経った。
彼女のことだから、またどこかで不幸な目に遭っているのだろうと想像する人も多いかと思われるが、残念ながらそうはなっていないのだ。
スフィアナを妾として迎え入れた男は彼女をいたく気に入っており、スフィアナに何不自由のない暮らしをさせていた。
彼女自身は贅沢など望みはしなかったが、男はスフィアナに好かれたいがため、山ほどの贈り物をしてくるので、彼女も仕方なくそれに付き合っている。
一方で、女として成熟したスフィアナは益々魅力を増し、彼女を飾るに相応しい極上の絹で仕立てられたドレス、大粒の宝石があしらわれた煌びやかな装飾品の数々によって、他の女が並ぶことすらおこがましくなるような美しさを誇った。
男はスフィアナを宝物のように扱い、彼女のためだけに用意した離れに住まわせ、不便のないよう侍女に世話をさせた。
そして夜な夜な彼女の寝屋に訪れては、妖艶な肢体を貪るように、まぐわうのであった。
男はいつもドレスを着せたまま行為を始める。美しく着飾った女を犯しながらドレスを脱がすことに興奮を覚えるのだろう。
「あんっ、そんなに焦らなくても……わたくしは逃げませんわ……んぅッ」
男はスフィアナの柔らかな乳房を揉みしだきながら、しっとりと滑らかな肌に頬擦りをする。
「ああ、スフィアナ、おまえは最高の女だ……その美貌も、この淫らな肢体も、全て私のものだぞ」
「うふふっ、もちろんですわ。スフィアナは身も心も全て貴方様のもです」
男の性癖を理解しているスフィアナは、支配欲を満たす言葉を与えてやりながら、男の頭を胸に抱き寄せ、股間で膨らんでいる肉棒をしなやかな指でさすってやる。
「はぁっ、ふぅっ……もう我慢できん! 挿れるぞっ!」
「ぁぁッ、ください、貴方様の太くて硬いおちんぽ、スフィアナの淫らなおまんこに挿れてくださいませ」
耳元に熱い吐息を吹きかけながら、淫らな言葉を囁いてやれば、男は俄然やる気になって、スフィアナの股を開かせると、濡れそぼった蜜穴に亀頭をあてがうと、いきり勃つ肉棒をねじ込んだ。
熱く粘ついた膣肉が肉棒をぬちゅりと呑み込むと、スフィアナは膣を抉られる感覚に悲鳴を上げる。
「んっ、ぁあッァッ……! 貴方様の立派なオチンポで、スフィアナのオマンコが犯されて……ふぅぅんっッ!」
「ぐぅぅっ! 何度挿れても蕩けるようなメス穴だ! こんなものを知ってしまったら、他の女など抱く気にならん!」
「んふぅっ、んぅっ……はぁ、ぁァッ……何度でも気の済むまで犯してくださいませ、これは貴方様だけのメスマンコですわ」
「ああっ、もちろんだ! 何度でも犯してやる! 誰にも渡してなるものか!」
「ふぅんっ、あっ、あァァぁぁっ……!」
肉棒で膣を蹂躙されながら、艶やかな喘ぎ声を上げるスフィアナは、一見すれば男と共に行為を堪能しているようにも見えるが────。
(はぁ……毎晩毎晩、よく飽きないものね……)
膣を抉られる快感に体が悦びを感じていながらも、彼女の心は完全に行為とは切り離されていた。
スフィアナにとって、もはやセックスは作業である。数多の男と寝てきた彼女にかかれば、気を入れずとも男を悦ばせるなど容易いことだ。
相手が求める女を演じてやれば勝手に盛って腰を振る。後は適当に射精させてやれば終わりである。
今この時、必死に気持ちよくなろうとヘコヘコ腰を振ってるこの男に、スフィアナは全く興味がなかった。
どれだけ美貌を賛美されようとも、どれだけ高価な贈り物されようとも、スフィアナの心は動かない。もはや、彼女が男を愛することなどあり得ない話である。
さりとて、この場所から逃げ出すことなどできないし、逃げたとしても行くあてがない。男に媚を売って生きるなど御免だと修道院に逃げ込んだというのに、結局はこの有様である。
逃げ場などないのだ。どうしたところで自分の人生は男に左右されるのだと悟った彼女はすっかり諦観し、金持ち男を適当に悦ばせながら、空虚な日々を過ごしている。
「うぉぉっ、なんて締め付けだ! それに、膣中でヒダが絡みついてくるぞ!」
「んぅッ……あぁっ♡ そんなに奥を疲れた、わたくし、イってしまいそうです……♡」
心底感じているフリをしながら膣をぎゅっと締め付けてやれば、男はあまりの気持ち良さに呻き声を上げる。
演技をされていることに微塵も気づけない男は、スフィアナをうつ伏せに屈ませ、後背位で獣のように彼女の尻肉に股間を打ちつけた。
「あぁッ! こんなかっこう……恥ずかしいっ、んんっ……! ひぅんッ!」
「ほらっ! どうだ! こうされるのが好きなんだろう!?」
「んひぃっ! あぁっ、気持ちいいですっ……貴方様の逞しいオチンポで、スフィアナのいやらしいオマンコ、もっと突いてくださいませ♡」
性器が出し入れするたびに、ジュポッ、ジュポッ、と卑猥な水音が鳴り、興奮した男の手がスフィアナのドレスを引き千切る。
(はぁ……また破ってる、これ、けっこう気に入ってたのに……どうせまた新しいものを買うのだろうけど、お金持ちってどうしてこんな勿体ないことするのかしら……)
男の性癖に呆れながら、スフィアナは感じ入った喘ぎ声を出す。後背位は相手から顔が見えないから、表情を作る必要がなくて楽だった。
(私、この男の相手をしながら一生を終えるのかしら? ああ、その前に、歳を取ったら捨てられるのかもね……べつにいいわ、普通の人生なんてとっくに諦めてるもの……)
そんなふうに彼女がなげやりに考えている間にも、男の抽送は激しさを増し、声にも余裕がなくなってき。どうやらそろそろ射精が近いようだ。
「ぉぉおっ、出すぞスフィアナ! お前の子宮に私の子種をたっぷり出してやるぞ!」
「あぁッ! くださいっ、貴方様の種付け精子でスフィアナを孕ませてくだいませ」
「おォォッ、孕ましてやるぞ! そらっ、出るぞ! スフィアナ! わたしの子を孕めぇっ!!」
ドビュルルルッ! ビュルルルッ! ドプッ! ビュブッ!! ドビュルルルッ!
男が叫ぶと同時に、膨らんだ亀頭がスフィアナの膣内に溜め込んだ精液を撒き散らす。
「ひあぁァアアアぁァっ────ぁァァッ!!」
子宮に子種の詰まった精液が流れ込むのを感じながら、スフィアナの体も本能のままに絶頂を迎えた。
(そういえばそろそろ繁殖期だけど、このままだと、そのうち本当に妊娠するのかもね……)
まるで他人事のようだった。男の静液を注ぎ込まれる哀れな女の姿を、もう一人の自分が感情のない瞳で見つめていた。
全てを諦めたスフィアナの心はどこまでも空虚で、凍った沼のように感情の水面は微動だにせず、彼女が何かに喜ぶことも悲しむこともなくなっていた。
そしてスフィアナは妊娠した。
*
日増しに膨らんでゆく自分のお腹を見るのは、なんとも不思議な気分であった。
妊娠したとわかったとき、男は喜んだが、スフィアナはやはり何も感じなかった。
自分の中で新しい命が芽生えた実感などさっぱり湧かず、少し膨らんだお腹は酷く奇妙なものに見えた。
(こんな女の子供なんて、あなたも運がないわね……)
そのときはまだ、自分の子供にすら他人事のスフィアナであったが、臨月が近づき、大きくなったお腹の中で赤ん坊が動くのを感じるにつれ、ようやく自分が母親になることを自覚するようになると、こんどは疑問を覚えてしまう。
(いいのかしら……私が子供を産むなんて……きっとこの子も不幸になる……)
もはや取り返しのつかない段階になって、スフィアナは迷いの中で出産することとなった。
そして、無事に出産を終えたとき、額に玉の汗を浮かべながら、スフィアナは恐る恐る、隣に横たわる赤ん坊の手に触れた。
まだ満足にモノを掴むことができない、小さくて、弱々しい手が、スフィアナの指をやんわりと握り返すと、彼女は赤子から伝わってくる温もりに胸を衝かれた。
(なんて……温かい……)
まるで陽光のような赤子の温もりによって、スフィアナの凍りついていた心は溶け、涙となって流れ落ちた。
(あぁ……そうなんだわ……この子が、私の……)
全てを諦めていたスフィアナは、こうして新たに生きる目的を見つけた。
この子は何があろうと幸せにしてみせると。
自分が失ってしまった分まで、この子のことを幸せにすると誓った。
そして、赤ん坊には、古くは太陽を意味する『ミリア』と名付けられた。
*
【73話】そして獣人の母娘は……
さて、ミリアが産まれたことでスフィアナの意識は大きく変化した。
これまでも生きるために男を利用することはあったが、自分のために他者を陥れるというのは彼女本来の性質ではなく、必要以上を望むことはなかった。
しかし、今は違う。何をおいても守りたい、愛しい娘ができたのだ。害をなすものは排除しなくてならない。
この屋敷にはスフィアナ以外にも囲われている女たちが居る。しかし、スフィアナが来てからというもの、主人の寵愛は彼女に独占され、多くの妬みを買っていた。
以前なら放っておいたが、もしも悪意の矛先がミリアに向けられたらと考えたら不安で仕方ない。
だから彼女は女たちを全員屋敷から追い出した。男にちょっとおねだりするだけの簡単な作業であった。
このときすでに、男はスフィアナの願いを叶えるための傀儡となっていた。本人は言いなりになっている自覚はなく、籠の鳥を愛でているだけのつもりだったが、周りからすれば正常な思考を無くしていることは明らかであった。
スフィアナのことを怪しむ者が苦言を呈すれば、彼女は容赦無く排除した。自分たちを脅かす者は許さない。その振る舞いは、もはや悪女と言われても仕方がないものだった。
しかし、その一方で、ミリアには精一杯の愛情を注ぎ、少女は健やかに成長していった。
男はもはや父親として機能していなかったが、権力で女を囲うような男には最初から父親役など当てにしていなかった。
母娘二人で過ごす時間だけが、彼女にとって、かけがえのない幸せを感じさせてくれた。
「おかぁさん、ごほんよんでぇ」
「いいわよ、いらっしゃい」
大好きな絵本を抱えておねだりするミリアを膝の上に座らせると、娘のふわふわした髪と耳を撫でながら、スフィアナは小さな体から伝わる温もりをひしと抱きしめた。
「えへぇ、おかぁさん、あったかい」
「ミリアも温かいわ、とっても……温かい」
こそばゆそうに見上げるミリアの頭に頬をすり寄せながら、スフィアナは娘との幸せな時間を過ごすのだった。
しかし、母娘が仲睦まじく暮らす一方で、男の方は限界が近かった。毒に冒された彼に残っているのは、もはやスフィアナへの執着心だけである。
そして事件は起こった。
*
男はしばしば客人の前にて、宝物を見せびらかすようにスフィアナを披露することがあったのだが、彼女の美しさは当然他の男も惹きつけてしまう。
我慢できずにスフィアナに言い寄る男が出てきてしまうのも無理からぬ話で、もはや自制ができる精神状態になかった男は激昂して客人を殺してしまった。
侍女たちにも現場を目撃され、隠し通すことは不可能だった。
しかし、スフィアナは冷静だった。
殺人はあくまでも男が勝手にやったことだ。もちろん、男をおかしくさせたのは自分が原因だが、証拠がないのだから罪に問われることはない。
男が捕まった後は、ミリアを連れてどこか静かな場所に移り住めばいい。男から贈られた宝石類を売れば母娘で暮らすには十分な金になる。
だからスフィアナは焦らなかった、行方不明者の捜査にやってきた者の姿を見るまでは──。
*
(これは偶然なのか……?)
行方不明者の遺体が見つかり、男が客人を殺したとの証言も取れた。あとは男を逮捕すれば事件はあっさりと解決する。
それだというのに、アリューシャはどうにも腑に落ちなかった。
それは、事件の渦中にいたのが彼女だったからに違いない。
「以前も……こうしてお前に事情聴取をしたな」
「ええ、あのときはお世話になりました」
問いかけにも何ら動じることはなく、落ち着いた様子で答えるスフィアナに、アリューシャは目を細めた。
過去の事件で、その後どうなっていたのか気がかりではあったが、豪華な身なりを見れば随分と大切にされていたことがわかる。
過去にも美しい女という印象を抱いたが、今やその美しさは威圧感すら覚えるほどに増大していた。
「証言に間違いはないか?」
男がスフィアナを巡って争ったことは証言からも確かだ。しかし、当の男は錯乱しているようで受け答えも支離滅裂。
スフィアナが言うには、以前から精神的に不安定になっていたらしい。そのせいで、些細なことに激昂してこのような事件が起こってしまったらしいが──。
「はい、全てお話した通りです。殿方はどうしてすぐに争いを起こすのでしょうね」
彼女の薄い笑みに覆われた表情からは不安や悲しみは感じられなかった。
(男を惑わす美貌か……)
嫉妬による殺人で片付けてしまうこともできるが、それにして男の様子がおかしい。その姿が、過去に監獄で見た彼女の父親と重なるのだ。
「お前の父親が、監獄で死んだことは知っているか?」
アリューシャの言葉に、スフィアナの顔が一瞬だけ強張ったが、しかしすぐに綺麗な笑みで隠される。
「最後までお前の名前を呼んででいたそうだ」
「そうですか、罪深い人でしたから」
それ以上、スフィアナは何も言わなかった。
*
アリューシャを前にして、スフィアナの心の内は緊張と不安で張り裂けそうだった。
よりにもよって、ここで彼女と再開するとは、なんという巡り合わせだろうかと運命を呪った。
父親のことまで調べられているなんて思いもしなかった。彼女は明らかに自分のことを疑っている。
それでも、自分が罪に問われることはないと高を括っていたスフィアナは、そこで女の醜さというものを改めて思い知ることとなった。
スフィアナによって屋敷を追い出された女たちが復讐してきたのだ。
事件を聞きつけた女たちは訴えた。
スフィアナが来てから男が変貌してしまった。男に毒を盛って資産を乗っ取ろうとしていた。陰で操り邪魔者を排除してきた。この殺人もスフィアナの策謀だ──などと、あることないこと言い出した。
もちろん証拠はないが、スフィアナに対する妬み恨みを抱えた女たちは口裏を合わせ嘘を重ね、スフィアナをハメようとした。
そして女たちの恐ろしい執念により、あろうことか、スフィアナは参考人として連行されることになってしまったのだ。
もしも、捜査していたのが、スフィアナに疑いの目を向けていたアリューシャでなければ、女たちの戯事が聞き入れられることはなかっただろう。
もしも、スフィアナが大人しく従ったうえで否認を続けていれば、証拠不十分ですぐに開放されただろう。
しかし、彼女にはミリアがいた。万が一にも捕まってしまえば、娘はどうなってしまうのか。あの叔父夫婦の元になど送られてしまったら──と考えると、気が気ではなかった。
そしてスフィアナは娘を連れて逃げ出し、アリューシャとの逃走劇が始まった。
*
アリューシャは驚愕した。
スフィアナが娘を連れて逃げた。すぐさま追手を差し向けたはずなのに捕まらない。
なぜか? 彼女の逃亡を手引きしていたのがその追手の男だったからである。
結果、彼女は上手いこと逃げおおせたのだ。
捜査を妨害した男が捕まったとき、彼は正常な判断力を失っていた。状態が回復した後、本人が語るも、なぜ自分がスフィアナを助けたのか理解できないと言う。
(魔性の女なんて生温い……あの女は魔女そのものだ!)
スフィアナという女が、放置しておくにはあまりにも危険な存在だと確信したアリューシャは、絶対に捕らえてみせると心に誓い、彼女を追い続けた。
*
スフィアナは逃げた。大切な娘を連れて逃げ続けた。
追手から逃げるために、スフィアナという名前も捨て、アルテラと名乗るようになった。
しかし、どこまで逃げてもアリューシャの影が忍び寄ってくる。女だからスフィアナの毒も効かない、まさに天敵である。
もはや国内に逃げ場はなくなり、彼女は人族の国へと渡った。
人族の男にも彼女の魅了の毒が効くことは幸運だった。男さえ誑し込めば大抵のことはどうでもなる。
けれど、人族の国において、獣人の母娘はあまりにも目立ちすぎた。一処に留まればすぐに噂が立ってしまうせいで、平穏な暮らしを得ることはできなかった。
執念深く追いかけてくるアリューシャの影に怯えながら、獣人である自分たちが穏やかに暮らせる場所を探し、逃げて、逃げて、逃げ続けて──。
そうして辺境の地まで流れ着いた母娘は、森の中で見つけた小屋に住みついていた。おそらく木こりが寝泊まりに使っていたのだろう、長いこと使われた形跡もなく、一時的に隠れ住むには十分たったが、問題は山積みだ。
自分もそうだが、逃避行のせいでミリアはずいぶんとやつれてしまった。気丈に振る舞っているが、これ以上逃げ続けるのは限界だし、携行している食糧も残り少ない。器用なスフィアナであっても狩猟などしたことがないし、森の植物の知識もない。
人に見つかる危険は回避したいが、人里から離れての暮らしは、この母娘には厳しいものだった。
「おかあさん……」
母親の不安を察したのか、ミリアが不安そうにすり寄ってくる。
「大丈夫よ、ミリアのことはお母さんが守るから」
「ぅん……」
そして疲れて眠ってしまった娘を残して、彼女は夜に近隣の人里へと忍び込むと、果樹園から果物を盗んだ。
途中で見つかってしまい急いで逃げたのだが、次の日、彼女たちの元に複数の男たちがやってきた。
盗みをしたことがバレたのだと察したスフィアナは、彼らに懇願した。
「お願いいたします……私はどうなろうとも構いません……どうか、どうか娘だけは見逃してください!」
すると、集団の中から年若い男が彼女たちの前に歩み出てきた。
成人して間もないのだろう、まだ幼さが抜け切れていない青年だったが、周りの態度から見るに、おそらく彼が集団のリーダーだ。
獣人が珍しいのか、青年は自分たちを驚きの目で見つつも、その視線は顔と胸元をチラチラ行き返りしている。その僅かな挙動で、スフィアナは彼が童貞だと見抜いた。誘惑すればあっさりと堕とせそうだ。
(ちょろそう……)
まさか自分がそんな評価をされているとも知らず、青年は彼女たちに語りかける。
「キミたちに危害を加えるつもりはない。だから落ち着いて、話を聞いてほしい」
────こうして、スフィアナは田舎領主様と出会った。
【74話】娘のために悪女となる不幸な巨乳人妻
「俺はこの地の領主だ。きみたちの力になれるかもしれない。だから話を聞かせてくれないか?」
警戒するスフィアナたちを刺激しないよう、それ以上は近づかず、青年は困った顔をしながら、危害を加えるつもりはないと両手を上げて見せる。
「領主様──あなたが?」
そう言われたところで、スフィアナもそう簡単に信じることはできない。なにせ目の前の青年はまだ年若く、身なりも質素。確かに身につけている指輪は値打ちものに見えるが、お世辞にも領主としての貫禄があるとはいえない。
けれど、その純朴そうな面構えからは、自分たちを捕らえてどうにかしようという魂胆も感じない。
相手の真意を測りかねたスフィアナが青年の瞳をじっと見つめていると、何故か照れたように締まりのない笑みが返ってきた。
(なんだか頼りなさそうな坊やね……悪意があるようには見えないけど……)
人族の国に渡ってきてからというもの、出会ってきた人間は獣人であるスフィアナたちを歓迎してはくれず、彼女たちに奇異と不信の眼差しを向けてきた。
だから獣人だとばれないように耳と尻尾を隠して旅をしてきたというのに、獣人と分かっていて友好的に近づいてくる人間は初めてなので困惑してしまう。
「このまま森に居続けていては、その子が辛いだろう?」
素直に差し伸べられた手を取っていいものか逡巡するスフィアナだったが、青年からミリアの状態を指摘されてしまうと弱かった。
自分はともかく、ミリアをしっかりと休ませてやるためにも、今は申し出を素直に受けるのが上策と判断したスフィアナは、静かに頷いた。
(まあいいわ……この坊やが本心で何を考えているにせよ、男相手なら、いくらでもやりようはあるもの)
人族の男であっても自分の毒が有効なのが分かっているのだ。とりあえずは、大人しく彼の言う通りにすることを決めた。
従順な姿勢を見せるスフィアナに安堵した青年は、どうやら自分たちを屋敷に連れて行くらしい。
道すがら名前を聞かれたので、とうぜん偽名を教えた。青年はシーズという名前らしいが、どうやらスフィアナの頭とお尻に付いてるものが気になるようで、隣を歩きながらチラチラと覗き見してくる。
(そんなに耳と尻尾が珍しいのかしら? 人族の感覚ってよくわからないのよね)
スフィアナからすれば、あるべきものが無い人間のほうが奇妙に感じる。
シーズはミリアのことも気にかけているようだが、人見知りする娘に避けられヘコんでいた。そんな様子から、なんとなく彼の人となりが掴めてくる。
(見たところ、ただのお人好しって感じかしら。それと────スケベね)
耳と尻尾だけではなく、スフィアナの大きな胸をチラ見しているのもバレバレであった。
*
案内された屋敷を前にして、そこで初めてシーズが領主だということに信憑性が出てきたのだが、屋敷内は想像していたよりも質素で、これならスフィアナに当てがわれていた離れのほうが豪華であった。使用人も老婆と老夫しかいないらしい。
(まあ、片田舎の領主なんてこんなものかしら……けど)
自分たちの情報が漏れることを恐れ、出来る限り目立たずに暮らしたいスフィアナにとっては好都合である。
その後、気難しそうな使用人の老婆に汚れた身なりを指摘されたスフィアナたちは、案内された浴室で久しぶりの湯あみに人心地がつく。
ぎゅっと目を瞑るミリアの頭にお湯を掛け、丁寧に髪をほぐしてやりながら、スフィアナはシーズが取り入るに値する相手かどうか推し測っていた。
どうすればミリアが幸せに暮らせるか、それだけがスフィアナにとって重要なのだ。
「んゅぅ……おかあさん、おわったぁ?」
「ええ、綺麗になったわ、次は体を洗いましょうね」
顔にかかったお湯を小さな手で拭うミリアに微笑みかけると、体をくまなく洗って汚れを落とした後、用意された替の服を着た二人は食堂に通された。
テーブルに並ぶ温かな料理を前にして、さすがのスフィアナも、しばらくまともな食事をしてなかったせいで腹が鳴りそうになり、ミリアなど目を輝かせ今にも飛びつきそうである。
豪勢な食事ではなかったものの、空腹の二人にとってはご馳走である。
スフィアナが上品な仕草でスプーンを口に運びスープを味わいながら、向かいの席に座り熱っぽい視線で自分を見ているシーズに注意を配る。
おそらく、これから自分たち母娘の身の上について問い質されるだろうと、あらかじめ受け答えを考えていると、予想通りにシーズが口を開いてきた。
二人はどこから来たのか、なぜあんな森の中に居たのか──。
もちろん、逃亡の身であることを洗いざらい話すつもりなど毛頭ない。スフィアナは核心をぼかし適度に作り話を織り混ぜながら、不幸な目に遭って故郷を追われた哀れな母娘を演じてみせた。
お人好しのシーズはどうとでもなりそうだったが、使用人の老婆の方はそうもいかなかった。国にいられなくなった原因について言及されてしまい、スフィアナは言葉に詰まる。
(下手なことを言って怪しまれたくはないわね……優しい領主様は助けてくれるかしら?)
スフィアナはシーズの視線を意識しながら、悲痛な表情を顔に貼り付ける。まるで悲惨な過去について語るのが辛いのですと言わんばかりに。
「まってくれマーサ、そんな尋問するような言い方は……」
すると、思った通り、シーズは悲しむ女を咎めることに心が痛んだのか、老婆の追求を止めてくれた。
「坊ちゃん。甘いだけの人間に領主は務まりませんよ」
厳格な教師のように主人を叱咤する老婆。
(それには私も同意するわ、あなたみたいな坊やは悪い女に利用されてしまうのよ?)
この時点で、スフィアナはシーズのことをお人好しで扱いやすい絶好のカモだと判断した。
これまで出会った男たちの中でもダントツにちょろい。まだ色仕掛けをしていないのにこの有様だ。温室育ちの世間知らずなお坊ちゃん。まるで、過去の自分を見ているようで嫌気が差す。
哀れなスフィアナ。男によって幾度も辛酸を舐めた彼女の心はあまりにも汚れてしまった。例えそれが純粋な善意であったとしても、もはや彼女には男の好意など汚らわしい欲望の産物としか映らなかった。
【75話】童貞を誘惑する巨乳人妻
夜も更けた頃、スフィアナたちに当てがわれた部屋のベッドでは、腹がふくれてすぐ眠気を起こしたミリアが穏やかに寝息を立てていた。
無理もない、子供にとっては過酷すぎる旅路が続いたせいで心身共に疲弊していたのだ。旅の汚れを洗い流し、久しぶりの温かい食事と柔らかなベッドにありつけたことで、張りつめていた緊張が解けたのだろう。
あのお人好しなお坊ちゃんと出会えたのは幸運であった。彼にはスフィアナたちの面倒をみるだけの財力があり、獣人を住まわせるための融通をきかせる権力もある。
加えて、この屋敷にはシーズの他に老婆と老夫しかいないときた。
隠れ住むには絶好の条件が揃っている。ミリアに不安のない暮らしをさせてやるためにも、これを逃す手はなかった。
「だいじょうぶよミリア、お母さんがあなたを守るからね」
眠っている愛しいわが子の額にキスをしてから、スフィアナは物音を立てないようそっと部屋を出でると、暗い廊下を忍び足で進んだ。
そして、事前に確認しておいたシーズの部屋の前に到着すると軽く髪を整えてから、そういえば、あのお坊ちゃんはおっぱいに興味津々だったことを思い出し、胸元の留め紐をわざと緩めて胸の谷間が見えやすくした。
(これでいいわ、男はちょっと隙を見せてあげると喜ぶのよね)
準備は整った。スフィアナが一呼吸置いて遠慮がちにドアをノックすると、すぐに中から返事が聞こえてきた。シーズの声で間違いない。
「領主様、アルテラでございます……」
スフィアナが静かに呼びかけると、しばしの間をあけてからドアが開かれると、寝巻き姿のシーズが姿を現した。こんな夜更の来訪に驚いている様子だったが、深刻そうな顔をするスフィアナを見て、シーズはあっさりと彼女を中に招き入れた。第一関門突破だ。
(さてと、上手くやらないといけないわね……)
どうしたのかと尋ねてくるシーズに、スフィアナは頭の中にあるシナリオに沿って、涙まじりに(もちろん嘘泣き)これまでの悲惨な過去(半分本当で半分は嘘の作り話)を語りながら、この哀れな母娘をどうか助けてくださいましと懇願した。
するとどうだ。彼女の名演技にほだされたシーズはスフィアナの言うことをあっさりと信じ、母娘を助けると約束してくれたではないか。スフィアナ大勝利である。
(この子、呆れるぐらいのお人好しね……)
スフィアナの計画では、助けてくれるなら私の体を好きにしてもいいですよと、交換条件を提示する予定だったのだが、その前に片がついてしまった。
さて、どうしたものか。
ありがとうございます領主様、それじゃあお休みなさい──と、このまま部屋を去っても問題なさそうだったが、明日になって気が変わったと言い出されても困るので、スフィアナは念のために色仕掛けも施しておくことにした。
胸元がはだけているのに気づかないフリをしながら、見せつけるように胸の谷間を強調してやると、シーズの目は釘付けとなり、動揺しながらも横目でチラチラと覗き見ている。これは童貞の反応!
(これぐらいで赤くなるなんて、かわいらしいこと)
スフィアナとしては、このまま欲情して襲いかかられても一向に構わない、むしろ既成事実ができて好都合なのだが、どうやら童貞のシーズには女を押し倒す度胸はないらしい。
(しょうがないわね)
ウブな坊やのためにもう一押ししてやろうと、シーズの手を取って自らの豊満な乳房に押し付けてやると、わかりやすく動揺している。どうやら女の胸を触ったこともないらしい。
(ほら、柔らかくて気持ちいいでしょう? もっと気持ちのいいことをさせてあげるから、さっさと発情しちゃいなさい)
「ぁっ、アルテラ……ッ!」
そのまま体を寄せて吐息のかかる距離まで顔を近づけて、耳元で甘い誘惑を囁いてやれれば、奥手のお坊ちゃんも若い性欲を押さえきれなくなったようで、ぷるんと魅惑的に揺れる乳房に手を伸ばしてきた。
シーズは吸い付くように柔らかな乳房の感触に興奮しながらも、どうやって触ればいいのか分からずに、ぎこちなく指を動かしている。
その手つきは荒々しく、女を悦ばせるにはあまりにも拙いものだったが、乳首に指が擦れると、じわっとした痺れによってピンク色の突起がむくりと突き出してしまう。
「ぁんっ……領主様っ……」
スフィアナが多少わざとらしく喘ぐと、そこが感じるのだなと察したシーズは、胸を揉みながら尖った乳首をつまんで擦るように指先を動かし始めた。
力加減が分からないのか、表面をなぞる遠慮がちな愛撫はこそばゆく、いささか刺激が足りないものの悪い気はしなかった。
スフィアナと寝た男たちは、大抵が彼女の毒に侵されて欲望のままに激しく犯すので、女の扱いに慣れてない坊やのたどたどしさは新鮮である。
(ふふっ、いい子ね、女は優しく扱いなさい)
ご褒美におっぱいを顔に押し付けてやると、シーズは言われずとも突き出した乳首を口にふくんで舌で舐め始めた。ちゅばちゅばと、まるで赤子のように吸われて背筋がむずがゆくなる。
(んっ……そんなに優しく舐めないでよ……変な感じがするわ)
胸から伝わる快感に吐息を漏らしながらも、男に触れられているというのに、そこまで嫌悪を感じていないことが自分でも意外だった。
(まあ、利用するために、セックスぐらい好きにさせてあげるつもりだったし……)
どこか言い訳じみたことを考えながら、スフィアナはおっぱいに夢中の坊やを引き離して、物欲しそうな口にキスをしてやる。
おそらく、男と女の口付けするのも初めてだったのだろう。最初は緊張で唇を触れ合わせるだけだったが、スフィアナが口内に舌を侵入させて、奥で縮こまっている舌を優しく愛撫してやると、シーズもおずおずと舌を絡ませてきた。
「んっ、ちゅぷっ、れろっ……んふっ、んんっ」
最初はおっかなびっくり、しかし、次第に激しく絡み合う舌は、ヌチュヌチュと卑猥な水音を立てながら互いの唾液を交換する。
(そろそろ、こっちもしてあげようかしら)
濃厚な口づけを交わしながら、先ほどからずっと盛り上がったままの股間を撫で付けてやると、敏感になっているペニスから伝わる刺激でシーズが小さく呻く。
「あぁ……こんなに苦しそうにして、かわいそうに……いま楽にしてさしあげますわ……」
百戦錬磨のスフィアナからすれば、まったくかわいいものだ。それじゃあ、今夜はこの童貞坊やの筆下ろしをしてあげますかと、手早くズボンを脱がし、窮屈そうな下着をずらした瞬間、押し込められていた肉棒がブルンッと勢いよく飛び出してきた。
顔の前でそそり立つ剛直を前にして、スフィアナは体を硬直させた。
(…………………ふっ、ふぅん…………やるじゃない)
なにが? いや、ナニがである。
シーズの股間にはスフィアナが想像していたよりも遥かに逞しいイチモツが飢えた獣さながらに、我慢汁を垂れ流してビクビクと脈打っていた。これは立派だッ!
濃縮された雄くさい精の匂いがスフィアナの敏感な鼻腔に直撃する。
(んくっ……! すごい匂い……)
見た目はちょっと頼りない優男のくせして、下半身にこんな凶悪な代物を隠してもっていたとは! 腹にぴったりとくっつく程に反り返るチンポの圧力に流石のスフィアナも驚きを隠せない!
しかし、あくまでも主導権を握るのはこちらなのだ、ここで舐められるわけにはいかないと、スフィアナは余裕の微笑を顔に貼り付けながら、肉棒を手で撫で付けると、指先から熱が伝わってくる。
(やだ、我慢汁がこんなに溢れて……それに、すごく熱い、血管もこんなに浮き出して……)
触っただけでも暴発してしまいそうな肉棒の感触。
これまで両手の指ではとても数えきれない数の男と寝てきたが、その中でもこの坊やのモノは特別逞しかった。
(ふっ……上等よ、この童貞チンポに女ってものを教えてあげるわ)
なんか知らんが、スフィアナの中で妙なスイッチが入ったようだ。
【76話】童貞チンポをフェラチオで口内射精させてあげる巨乳人妻
「あんッ……とても立派ですわ、領主様のおちんぽ」
お坊ちゃんにセックスの手ほどきをするべく、スフィアナは艶やかな笑みを浮かべ、しなやかな指先で勃起したペニスの裏筋を根元からなぞり上げた。
「ぐぅっ! ぅぁッ……」
血流によって膨らんだ筋が爪の先で引っ掻かれると、痺れるような刺激によってシーズが呻き声を上げ、焦らすように何度も指先でなぞられたペニスは鈴口から透明な汁をトロトロと溢れさせる。
「アッ、アルテラ……そこだけじゃなくて、他のところも……」
「うふふっ、かしこまりました領主様」
いつまでもイクことができない生殺しのような愛撫に辛抱たまらなくなったシーズが求めてくると、スフィアナは手の平も使って肉棒全体にカウパーをなじませてから、竿をやんわりと握ってゆっくりと上下に動かし始めた。
「うぁッ! あぁっ……! アルテラっ、すごく、気持ちいいよ……」
ヌチュッヌチュッと粘つく音を立てながら肉棒を擦る柔らかな手。スフィアナは手淫の快感に身を委ねるシーズの様子に目を細めた。
(ふふっ、触っただけで、もう出ちゃいそうね)
このまま手コキを続けて一回射精させてやってもいいのだが、どうせなら更なる快感で理性を蕩かしてやろうと考え、スフィアナは手を動かすのを止めた。
「えっ……」
射精感が湧き出したところで唐突に御預けを喰らってしまったシーズが物欲しそうな顔で見つめてくる。
(情けない顔をしちゃって、しょうがない子……心配しなくても、これから私の旦那様になってもらうのだから、ちゃんと気持ち良くしてあげるわよ)
戸惑うお坊ちゃんを尻目に、スフィアナは勃起したペニスに顔を近づけ口を開くと、艶やかに濡れたピンク色の舌を突き出し、亀頭を口内へと誘った。
「ぁっ、んむっ……ちゅぷっ、んっんふっ……ちゅぽっ、れろっ……」
「うぁっ、ぁァッ……!」
肉棒の先端がぱっくりと呑み込まれ途端、亀頭が熱い唾液の中に浸かり、蛇のようにウネウネと蠢く舌が絡みついてくる。
「んぷっ、じゅぽっ、れろぉ、ちゅぽっ、んっ……ちゅぷっ、んふっ……」
「あァッ、すごっ……ぅゥッ!」
こんな美女が自分の性器をしゃぶっているという光景に劣情が煽られ、今までに味わったことのない未知の快楽がシーズの頭を蕩かす。
口淫によって血流の集まった肉棒は口の中で更に大きく膨らんでいく。すべてはスフィアナの思い通りというわけだが──。
近寄っただけでもオス臭かったペニスを咥えたことで、口内に充満する強烈な青臭さが鼻の奥まで突き抜け、臭いで犯されているような気分だった。
(んぅっ……! なんなのこの子、また、大きくなってる……それに、すごく濃い臭い……)
獣人の男でもこんな臭いはさせなかったというのに、人族だからか、それともこの坊やの体質なのか──しかし、ここで引いては童貞チンコに負けた気がして非常に癪である。
スフィアナは怯むことなく「ほらっ、早く射精してしまいなさい」と言わんばかりに、頭を前後に動かし激しいストロークで肉棒を口から出し入れする。
「んぶっ、じゅぼっ! んぅッ、ちゅぶっ……レロッ、じゅぽッ、じゅぼっ!」
「うぁぁっ! 中で……吸い付いて……っ……うぅっ!」
ねっとりとしたフェラチオから一転、窄まった口でペニスが激しく吸引され、口の中でペニスがきつく締め付けられたことで精管の奥から精液が込み上げてくる。
スフィアナは涎が溢れるのもお構いなしに、ジュボジュボと卑猥な音を鳴らしながら激しいフェラチオでシーズを射精に導く。
「あぁっ、アルテラっ、もっ、もう出そうだ……ッ!」
「んぶっ、んぼっ! じゅぶっ、んぅっ、りょうひゅひゃまぁ……らひてくらはいまへ……んんっ、おくひに、らひへぇ……」
誘うように口を開いて勃起したペニスを舌でねぶってみせる。
(ほらっ、もう我慢できないでしょう? このまま私の口の中で、坊やの白くて臭い精液を出してしまいなさい)
すると、今まで受け身だったシーズも興奮によってタガが外れ、射精の快感を得るために自ら腰を動かしてスフィアナの口の中に肉棒を突き入れてきた。
「ぐぅっ! あっ、アルテラ! もっと、もっと奥まで咥えるんだ!」
「んぶぅっ!! んぼっ、じゅぼっ! んふっ……んぽっ! んぐぅ……っ! じゅぶっ、じゅぼッ!」
乱暴に口内を犯される息苦しさに呻きながらも、スフィアナは内心でほくそ笑んだ。
(ふふっ……坊やといっても、こうなってしまえばタダのオスね。これでもう、この子は私の言いなりよ……)
シーズに自分の毒が効き始めていることをみて、このまま骨の髄まで快楽を植えつけてやろうと、スフィアナが口淫の激しさを増す。我慢の限界を迎えたシーズは本能のままに込み上げてくる精液を開放した。
「あぁァっッ! 出すぞっ、アルテラ!」
どびゅるっ! びゅるっ! びゅぶっ! びゅるるっ! どびゅっ!!
掠れた叫び声を上げると同時に、亀頭から大量の精液が勢いよく吹き出す。
「んぐっ! んぐぅっ……ぅっ! おごっ、んぶっ、んぐっ、ごぐっ、んぅぅっ!!」
ゼリーのようにドロリと濁った濃厚な精液が口内を満たし、剥き出しの生臭さが充満する。
その量は尋常ではなく、口の奥に突っ込まれたペニスから吹き出す白濁液が喉の奥へと流れ込んでくる。
(うぐっ、なにこれっ……すごく濃くて、喉に絡みついてくる……ッ!)
蒸せ返るような精の臭いに目眩を覚えながら、スフィアナはゴクゴクと喉を鳴らして精液を嚥下する。
射精している本人は、自分の子種が詰まった精子を美女が飲み干す光景に見惚れているが、一度の射精とは思えない量のザーメンを口の中にぶちまけられている彼女はたまったものではない。
(ほんとに、なんなのよこの子! いつまで射精するつもり……!?)
どれだけ溜め込んでいたのか、ようやく射精が終わった頃には大量の精液を飲みすぎて腹の中から生臭い匂いが逆流してくるようだった。男を喜ばせるために口内で射精した精液を飲み込んでみせることはよくあったが、それにしても出し過ぎだ。
(うぷっ……ようやく終わった……)
咥えていたペニスから口を離し、やれやれと思ったスフィアナが見たものは──射精が終わったというのに、むしろますます元気に勃起しているペニスの姿であった。
「あっ、アルテラ……そのっ」
乱暴にしてしまったことを反省してるのだろう、すまなそうな顔をするシーズであったが、表情とは逆に下半身ではまだまだ射精したりないと言わんばかりに勃起チンコを反り返らせていた!
(ふっ……いいわ、そっちがその気なら、やってやろうじゃないの)
この坊やを相手にすると、妙なスイッチが入ってしまうスフィアナであった。
*
童貞領主様の筆下ろしまで済ませてやろうと考えていたスフィアナだったが、二度目とは思えない量のザーメンを一気飲みした直後は顎も疲れたしお腹もいっぱいである。
とりえず、領主様に取り入って屋敷に住めるよう取り計らってもらう、という当初の目的は達成できたので、どうせすぐに体を使って奉仕をすることになるだろうから、急ぐ必要もない。
スフィアナはピロートークの最中に眠ってしまったシーズの無防備な寝顔を指先でつつく。
(幸せそうな顔しちゃって……)
こっちは生きるのに必死だというのに、何不自由ない立場で呑気面をしている坊やを見ていると、ちょっとイラッとする。
(まあいいわ、せいぜい私たちを可愛がってちょうだいね、旦那様?)
そしてスフィアナは、眠っているシーズをおこさないよう、静かに部屋を去るのだった。
【77話】童貞を狙う巨乳人妻メイドが誕生した日
さて、領主のお坊ちゃんを籠絡する計画から一夜明け、ベッドで眠っていたスフィアナは窓から差し込む朝日の眩しさで目を覚ました。
ゆっくりと体を起こしてベッドから降りると、軽く体を伸ばしてから昨夜のことを振り返る。
やりたい盛りの童貞坊やを色仕掛けで口説き落とすのは実に簡単であった。挿入まではいかなかったが、むしろ結果としてはそれで良かった。
メイドとして雇ってくれたら、たっぷりご奉仕してあげると性的な関係をほのめかしてやったとき、きっと彼の頭の中はピンク色の妄想にまみれていたことだろう。エッチなお願いを何でも聞いてくれる美人メイドを押し倒し、勃起した童貞チンコを濡れそぼったメス穴に挿れてヘコヘコと腰を振っていたに違いない。
(最初からそのつもりだったし、ヤらせてあげるのは別に構わないけど……問題はあのお婆さんの方ね)
脇が甘いシーズと違い、マーサと呼ばれていた使用人の老婆は素性の知れないスフィアナのことを怪しんでいる。
シーズがスフィアナたちを屋敷に住まわせると言えば、まず間違いなく反対されるだろう。そこはあのお坊ちゃんに何とか押し通してもらわねばスフィアナとしても困る訳だが──。
(少しでも印象を良くしておくべきね)
とりあえず雑用でも手伝って好感度を上げておくかと、彼女がさっさと身支度を整えていると、物音で目を覚ましたのか、ベッドの上で起き上がったミリアが寝ボケまなこで母親をみていた。
「んゅ……おかあさん、おはよぉ……」
まだ眠たそうではあるが、ちゃんとした食事と睡眠のおかげで昨日に比べて顔色も良くなっている。
スフィアナは娘の様子に安堵しながらも手早く着替えを手伝ってやると、ミリアを連れて部屋を出た。向かった先の食堂では、思った通りマーサが一人で朝食の準備をしていた。
「おはようございます、マーサ様」
「おはよう。早いですね」
柔和な笑顔で会釈をするスフィアナとは対照的に、マーサはしかめっ面で彼女を一瞥するだけだが、そんなことは気にせずアプローチを試みる。
「何かお手伝いができればと思いまして」
「あなたは坊ちゃんのお客様として扱っています。そんなことをする必要はありません」
(チッ、なかなか頑固なお婆さんね……)
しかし、ここで怯んでいては話にならない。彼女は言われることなく出来ることを探してマーサの手伝いをした。さすがはスフィアナ出来る女だ。
その間、ミリアは母親の邪魔をしないよう隅っこで大人しくしていたが、やがて食堂にやって来たシーズに見つかって話しかけられると、人見知りな少女は小動物のような動きで逃げるとスフィアナの後ろに隠れてしまった。
「どうしたのミリア?」
「んぅ……」
ミリアはモジモジとしながらスカートの裾を掴んでシーズのことを覗き見ている。
(怖がってる……というよりは、恥ずかしいのかしら? そういえば、ミリアは若い男と話したことが殆どなかったわね)
娘の反応を意外に思いつつ、スフィアナはシーズにニッコリと微笑みかけた。
「おはようございます。領主様」
「おっ、おはよう……アルテラ」
スフィアナの顔を見たシーズはどこか気恥ずかしそうにしている。きっと昨夜の情事を思い出しているのだろう。
(うぶな反応は結構だけど、ちゃんと私たちのこと面倒見てちょうだいよね?)
どうにも頼りない領主様にいささかの不安を覚えながらの朝食を終えた頃、シーズはスフィアナとミリアの今後の身の振り方について切り出したのだが──。
「彼女をこの屋敷のメイドとして雇うと? それが領主としての正しい判断だと坊ちゃんは思っているのですか?」
「えぇっと……そう、だけど……」
案の定、老婆からの鋭い視線に射抜かれたシーズは勢いを削がれて口ごもってしまう。
ここで下手な発言をして状況が悪くなることを恐れたスフィアナは、事の行く末を黙って見守るしかないのだが、心中穏やかではいられない。
(ああもう、情けないわねぇ……私にご奉仕して欲しいならシャンとなさい!)
弱気になっているシーズに向かって心の中で喝を入れてやると、スフィアナの念が届いたのか分からないが、彼は老婆のプレッシャーを跳ね退け、領主らしく彼女たちを屋敷に住まわせることを言い放った。
すると意外にもマーサはあっさりと引き下がった。どうやら最初からシーズの決定に従うつもりで、領主としての自覚を促したようだ。
こうして、老婆の関門を突破し、晴れてお屋敷の住み込みメイドとなったスフィアナは早速マーサの後について仕事を教わることになった。
(この屋敷で上手くやっていくには、この人から信用されないとね)
偏屈そうな婆さんだが、若い女の醜い嫉妬に悩まされてきた彼女からすれば、枯れてるぐらいの方が丁度よい。以前世話になった修道院長のこともあり、老婆には少しだけ親しみを感じるスフィアナであった。
「アルテラ、貴女にはこれを着て仕事をしてもらいます」
倉庫とおぼしき場所に連れて行かれたスフィアナは、まず最初に使用人が着る制服を手渡された。
「はい、かしこまりました」
言われた通り着替えたスフィアナはロングスカートのワンピースとフリルのついた白いエンプロンで構成されたメイド服姿となった。
(人族の服って尻尾を通す部分がないのよね……)
種族が違うのだから仕方がないのだが、スカートの中で尻尾が窮屈な感じがする。
そういえば、シーズが獣人の耳と尻尾にも並々ならない興味を示していたことを思い出す。もしかしたら人族の男にはそうした獣人の局部に対する奇妙な性癖があるのかもしれない。
(けど、そんなことよりも……)
目線を下げると、大胆に開かれた胸元からはスフィアナの豊満な乳房の肌色が大きく露出していた。生地や仕立ては上等で着心地は問題ないのだが、だいぶ趣味に偏ったデザインである。
マーサはスフィアナのメイド服姿を見てからフムと頷く。
「少し手直しすれば着れそうですね」
「この服は旦那様のご趣味でしょうか?」
おっぱい好きなシーズに媚を売るのには丁度良いが、まったく、こんなメイド服を着せて奉仕させたがるなんて、とんだムッツリ坊やだとスフィアナが呆れていると──。
「いえ、それは私が若かりし頃に着ていたものです」
(なん、ですって……ッ!?)
マーサの衝撃的な発言にスフィアナがギョッとして目を見開く。
こんなヒラヒラして胸元も大胆に開かれたメイド服を目の前に居る老母が着ている姿が全く想像できなかった。
「どうかしましたか?」
「いっ、いえ、なんでもありませんわ」
童貞坊やのことだ、このメイド服で誘惑してやれば発情して飛びついてくるに違いない。そうなれば熟練の手管で骨抜きにしてやればいいのだ。
(ふふっ、チョロいわね)
ちょっとばかりショックな事実を知ってしまったスフィアナだったが、まあいい、せっかくの御膳立てだ、せいぜい有効活用してやろうじゃないかと内心ほくそ笑む。
「それと──坊ちゃんも色事に興味を覚える年頃ですから、多少は多めに見ますけど、あまり非常識なことは教えないように。いいですね?」
(うっ、気づかれてるし……)
どうやら思惑を見抜いた上でスフィアナのことを坊ちゃんの性教育に使うつもりのようだ。食えない婆さんである。
「おっ、おほほっ……なんのことでしょうか」
どうやら、スフィアナが考えているほど簡単には行ってくれないらしい。
気まずい空気に誤魔化し笑いをするスフィアナをそれ以上追求することはせず、マーサはその後も淡々と彼女に屋敷の仕事を指導した。
スフィアナも真面目に話を聞いて仕事を覚えてはいたが、だてにいくつもの修羅場をくぐってきたわけではない。釘を刺されたぐらいで止まるような女じゃないのだ。
(要はバレなきゃいいのよ……やってやろうじゃない)
こうして誕生したエロメイドは虎視眈眈と旦那様の童貞を狙うのであった。
【78話】ケモミミ娘のほのぼのな日常
さて、獣人の母娘が領主様のお屋敷に住み始めて数日が経過した。
穏やかな早朝、ベッドで眠っていたミリアの獣耳が朝日の気配を感じてピクンッと揺れると、重たい瞼がゆっくりと開かれる。
「んぅ……にゅ……」
くるまっていた毛布から抜け出し大きな欠伸をしてから、ミリアはよたよたと覚束ない動きでベッドから降りると、卓の上に置かれた水桶に手を入れ、掬った冷水でぱちゃぱちゃと顔を洗う。
水の冷たさに半分眠っていた頭が冴えて、眠たげだった瞳もぱっちりと開く。
(おかあさん、いない)
部屋にある二つのベッドのうち、母親の使っている方はもぬけのから。ミリアが起床する時間、スフィアナはもう台所で朝食の支度をしている。
「んしょっ」
ミリアはバンザイしながらごそごそと寝巻きを脱いで服に袖を通すと、自分が使っていたベッドの毛布を畳んでシーツのシワも綺麗に直してから、母親のいる台所へと向かった。
「おかあさん、おはよぉ」
「おはようミリア」
食堂のテーブルを拭いていたスフィアナが少し乱れていた娘の髪を優しく撫でつける。
「おてつだいするね」
「それじゃあ、マーサさんに聞いてちょうだい」
「はぁい」
母親を手伝おうとミリアが台所に向かうと、そこにはエプロンを付けたマーサが鋭い目つきで鍋の中身をかき混ぜていた。
(おばあちゃん、ちょっとこわい)
スフィアナは娘に甘いので滅多に叱ることはないが、躾に厳しいマーサにミリアはしょっちゅう注意されている。同じ屋敷で暮らしているが、この老婆が笑ったところを一度も見たことがない。
「おっ、おはようございます。おばあちゃん」
「……おはよう、この食器を運びなさい。落とさないよう気を付けるのですよ」
「はいぃ」
老婆の視線に緊張しながらも、ミリアは小さな体をせっせと動かして手伝いをする。
それから暫くして食堂にやってきてシーズが食事を済ませた後、ようやくミリアたちも台所のテーブルで食事を始める。そこに朝の庭仕事を済ませて来たドイル老もやって来た。
「おじいちゃん、おはよぉ」
「ああ、おはようミリア、今日も元気だね」
少女の無邪気な笑顔で老人の深いしわの刻まれた目尻が優しげに下がる。こうして四人で食事をするのが毎朝の習慣となっていた。
(みんなでゴハン、おいしいっ)
シーズが食べるものに比べたら質素な食事であったが、生まれてからずっと母親と二人きりで過ごしてきたミリアにとっては、こうして大勢で食卓を囲むのはとても嬉しいことだったし、それだけで美味しく感じられた。
*
ミリアの一日はそれなりに忙しい。食事を終えたら今度は屋敷の掃除をする時間だ。
「おばあちゃん、おわりましたぁ」
「拭き残しがあります。やり直し」
「ぴぃっ」
不手際があればマーサの低く静かな注意が飛んでくるから気が抜けない。
過保護なスフィアナは、そんな娘の様子をハラハラしながら見守るのであった。
そして掃除が終わった後は勉強の時間。マーサの教えを受けてはいるが計算はちょっと苦手なミリア、引き算は難しい。
「いち、にぃ、さん、しぃ……」
「指を使わない」
「ぴぃぃっ」
老婆の指導は厳しく、目つきも鋭くて怖い。しかし、以前の屋敷で妾の娘として女中から向けられていた冷たい目とは違う、厳しさの中に隠された恩情をミリアは幼いながらに感じ取っていた。
(おばあちゃんはコワイけどやさしい……)
*
勉強が終わったらお待ちかねの自由時間だ。
「おじいちゃん、お花にお水あげてもいーい?」
「ああ、いいとも」
ミリアを相手にするドイル老はまるで孫を前にした好好爺のようで、庭仕事でがっしりとした手が優しげに頭を撫でる。
(おじいちゃんのおてて、おっきくてカチカチ)
自由といっても一人で屋敷の外に出ることはできないが、庭で駆け回るミリアの様子は楽しそうだ。
「あっ、だんな様ぁ」
そしてシーズは仕事の合間にミリアの遊び相手になってくれる。彼もミリアのことが妹のように可愛いのだろう。
最初は人見知りしていたミリアだが、先日一緒に町を回ったとき、シーズとすっかりち打ち解けていた。手を繋いで一緒に歩いていると、とても安心する。
(だんな様のおてて、あったかい)
ミリアが物心ついた頃には彼女の父親はまともではなくなっていたし、害をなす者はスフィアナがを寄せ付けなかった。
だから、この屋敷に住む者はミリアにとって母親以外で初めて出来た近しい人々だった。それはまるで家族のような──。
*
その日の晩、いつもならぐっすり眠って朝まで目が覚めないミリアが珍しく夜中に目を覚ますと、隣のベッドで眠っているはずの母親が居ないことに気づいた。
(おかあさん、いない……)
半分寝ぼけながら母親を探しに部屋から出たミリアは、無意識にシーズの部屋の前にたどり着くと、中から物音と母親の声が聞こえた気がして、そっとドアを開けた。
「んっ、ぁぁッ! 旦那様ぁっ……あんっ、んんぅっ!」
「アルテラッ! もう出そうだ! 膣内に出すぞ!」
「ひぅっ! あぁっ、出して……くださいっ、私の膣内に、旦那様ぁ……ッ!」
部屋の中は薄暗くて良く見えないが、裸になった二人がベッドの上でギッコンバッコンしていた。
大変だ、二人が喧嘩をしているぞ!
「けんかしちゃだめ〜!」
「「うおっ!?」」
突然の闖入によりギッコンバッコンは中断、スフィアナは旦那様に謝って寝ぼけた娘を連れて帰るのであった。
*
部屋に戻ってベッドに寝かしつけられたミリアが離れようとする母親の手を握った。
「んにゅ……おかあさん、いっしょにねてもいーい?」
「いいわよ、一緒に寝ましょ?」
いつもなら夢の中にいる時間だ、ベッドの中に入った母親に抱きつくミリアは目がとろんとして今にも眠ってしまいそうだった。
「おかぁさん……だんなさまとケンカしてなぃ?」
「だっ、大丈夫よミリア、お母さん、旦那様と喧嘩なんてしてないからっ」
良かった、どうやらアレは何かの見間違いだったようだ。
母親の胸に抱かれ安心しきるミリアは幸せだった。
おかあさんがいて、だんな様がいて、おばあちゃんとおじいちゃんがいて、この先もずっと続いていく。
そんな幸せな日々を想像しながら、やがてミリアは深い眠りへと落ちるのだった。
【79話】まさかのライバル登場に焦る巨乳メイド妻
さて、獣人の母娘がラングレイブ家の屋敷で暮らし始めてから暫くして、二人が屋敷の生活にも慣れ始めてきた頃、シーズは遠方に住む幼馴染の誕生日パーティーに出席するため数日のあいだ屋敷を離れていた。
そのため、当主が不在となった屋敷内はひっそりと静まり返り、普段であれば朝から晩までシーズのお世話(性的な奉仕も含む)をしているスフィアナも、日中は手持ち無沙汰気味に屋敷の掃除をしていた。
(あの坊やが居ないだけで、随分静かになるわね……)
そこまで広くもない屋敷だが、マーサは元から口数が少ないし、庭師のドイル老は外で仕事をしているので、屋敷内での会話が極端に少なくなってしまう。
とはいえ、それで感傷的になるほどスフィアナの心は女々しくはない。たとえ主人が不在であっても黙々と仕事をこなすだけだ。
シーズには気の毒なことだが、彼女に「旦那様が居なくなってから、ずっと胸が締め付けられるわ……もっ、もしかして、これが恋をするということなのかしら……?」なんて生娘のような反応を求めてはいけないのだ。
むしろ、「あの性欲だけは一人前な坊やの相手をしなくていいのは楽だわぁ」と思ってるぐらいである。
数えきれないぐらい男と寝て子供も産んだスフィアナだが、いまだ恋というものを経験したことはない。
というか、無理なのだ。
幼くして男に壊された心はその機能を失っている。この先、シーズがどれだけ彼女に愛情を向けたところで、それが取り戻されることはない。
枯れ果てた花園を心に持つ女、それがスフィアナである。
しかし、母親は無情であるが、彼女の大切な娘はそうではなかったらしい。
「おかあさん、だんな様、まだかなぁ……?」
一緒に掃除をしていたミリアは窓に顔を近づけると、じっと外の門を見つめながら寂しそうに呟いた。
シーズが屋敷を留守にしてからというもの、ミリアは目に見えて落ち込んでいた。
今までは自分さえ側に居れば笑顔でいてくれたというのに────スフィアナは娘がここまでシーズに懐いていたことに驚いた。
「そうねぇ、そろそろお帰りになる頃だと思うけど」
「にゅぅ…………」
まるで主人を恋しがる子犬のようだ。いつも元気にピンと立っているミリアの獣耳も今はしょげたようにペタリと折れ曲がっている。
(くっ、ミリアにこんな顔をさせるなんて……ッ!)
母親にべったりだった娘の知らない一面を見せられ、シーズに嫉妬してしまう心の狭いスフィアナだった。
「ほらミリア、そろそろお勉強の時間よ。旦那様がお留守の間もいい子にしていれば、きっとお帰りになったとき褒めてくれるわ」
「だんな様、ほめてくれるかなぁ?」
「ええ、きっと」
「そっかぁ……うん、ミリアがんばる!」
スフィアナの励ましを素直に信じたミリアが小さな手をぐっと握る。しょげていた獣耳がピンっと立ち直り、瞳はやる気に満ちていた。
(うちの子かわいい!)
ミリアのことであれば何でも可愛く見えてしまうスフィアナも大概単純であった。
*
ミリアが去ってからすぐ、スフィアナは窓から見える屋敷の門前に一台の馬車が止まったのを確認した。
きっとシーズが帰ってきたのだろうと思ったスフィアナは急ぎ玄関に向かって出迎えの準備をするが、べつに彼が帰ってきたことが嬉しくて急いでいるわけでは無い。
主人の帰りを喜び出迎えるメイド──を演じてポイントを稼ごうとしているだけだ。これはあざとい!
しかし、ちょっと気合を入れすぎたのが失敗だった。
「お帰りなさいませ! 旦那さ…………っ」
「うぉッ?」
相手を確認しないまま玄関のドアを開いたスフィアナは途中まで言ったところで、そこに居るのがシーズではなく見知らぬ少女だったことに気づいた。
歳はシーズと同じぐらいだろうか、背はスフィアナよりも低く、艶やかにきらめく長髪、澄んだブルーの瞳、まだ幼さが残っているが端正な顔立ちをした美しい少女で、上等な服装から良家のお嬢様だというのが見て取れる。
思わぬ訪問客に面食らったスフィアナだが、それは相手も同じだったようだ。少女は大きな瞳を丸くし、キョトンとした顔でスフィアナのことを見ている。
しかし、すぐに彼女の頭に生える獣耳に気づくと、その可愛らしい顔には似つかわしくないニンマリとした笑みを浮かべる。
「へぇっ、ほぉぉ、なるほど、なるほど、獣人のメイドかぁ〜」
(なんなの、この子?)
スフィアナは直感的に少女の中身が可愛らしい見た目にそぐわない変人だということに気づいた。
警戒を見せるスフィアナに少女が近く。
「いや失礼、なに、私は怪しい者じゃない。だから……ちょっとだけ体を触らせて貰えないだろうか? ほら、そのスカートの後ろに隠れているフサフサした尻尾なんかをナデナデと」
「!?」
好奇心に目を輝かせてにじり寄ってくる少女。まるで変質者のような手をワキワキと動かす姿に尻尾が逆立つ。
(気持ち悪い……ッ!)
「うへへ……ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
そして、狼狽るスフィアナに少女の魔手が襲い掛かろうとしたそのときだった。
「これはこれは、マリーレイアお嬢様」
スフィアナの背後からマーサが姿を表すと、マリーレイアと呼ばれた少女に向かって丁寧にお辞儀をした。
「まっ、マーサさん、こちらの方は……」
「この方はヴィクタール家の御息女、マリーレイア様です」
「だから言っただろう? 怪しい者じゃないって」
悪びれた様子もなく、けらけらと笑うマリーレイアにスフィアナは呆れ果てる。そもそも、そのお嬢様がいったい何の用で尋ねてきたというのか。
「ところで、マリーレイア様はお一人で? 坊ちゃんはご一緒ではないのですか?」
「いや、シーズの後に出たんだけど、どっかで追い越したみたいだ。たぶんあいつもすぐに着くと思うよ」
その言葉を聞いて、スフィアナはようやくマリーレイアがシーズの言っていた幼なじみだということに気づいた。
「左様でございますか。それでは、坊ちゃんが帰るまでどうぞ屋敷でごゆるりとお過ごし下さいませ」
「どーもどーも、ところで、そっちのケモミミメイドさんとも是非お近づきになりたいなぁ〜」
「ひっ!?」
欲情した男のような目で身体中を舐めるように見てくるマリーレイアに怖気が走る。
(あぁ……旦那様、早く帰ってきて……)
身の危険を感じたスフィアナは初めてシーズの帰りを心から願うのだった。
*
幸いなことに、マリーレイアを客室に案内してからすぐシーズを乗せた馬車が屋敷に到着した。
彼もマリーレイアが屋敷に来ているとは思いもしなかったようで、幼馴染の姿を見てギョッとしていた。
スフィアナはしばし二人の関係を探ろうと観察していたが、どうやら恋人という感じではなさそうだ。
もしかしたら、自分たち母娘を脅かす存在かもしれないと、マリーレイアを警戒していたスフィアナだったが、彼女のことを見れば見るほど、その奔放さに愕然としてしまう。
(ほんとに、なんなのよ、この子……)
せっかくの可愛い容姿を台無しにするような粗野な立ち居振る舞い。シーズに対しても男を立てるような気遣いは微塵もなく、ひたすら自分の欲求に従って好き放題だ。
スフィアナの中では、女という生き物は男に媚を売り束縛させることでしか生きていけない弱い存在のはずだった。勿論そこには自分も含まれている。
たとえ男を操る力があったとしても、男がいなければ何もできない無力な自分。だから嘘を並べて体を売って男に取り入ってきた。
スフィアナは男が嫌いだ。男なくして生きられない自分も嫌いだ。
それだというのに────この少女はいったい何なのだ?
未知の存在として映るマリーレイア。彼女を見ていると、心の中にえも言われぬ感情が渦巻いてくる。
それが何なのか、スフィアナはすぐに気づいた。
(私……彼女が羨ましいんだわ……)
男に縛られず、思うがまま自由に生きている彼女こそ、スフィアナが求めていた姿だったのだ。
そしてもう一つ。
(この子は、恋をしている……)
スフィアナ自身は恋ができない、それがどいういう感情なのか理解もできない。
なのに、どうしてだろうか? マリーレイアがシーズに恋をしているのが分かるのだ。
マリーレイアの乱暴な仕草や物言いの裏に隠された想いを感じ取ることができた。
欲しかったもの、失ったもの、その両方をマリーレイアは持っていた。
スフィアナがマリーレイアを見る目は、持たざる者が持つ者に向ける羨望の眼差しだったのだ。
スフィアナに残されたのは性で男を虜にする力だけ。
それだというのに────。
*
(へぇ……ふぅん……まぁね、べつに坊やが誰と寝ようと知ったことではないけどね……)
ある朝、いつものようにシーズを起こしに寝室を訪れたスフィアナは、ベッドの上で仲良く裸で眠っているシーズとマリーレイアを冷たい瞳で見下ろしていた。
こうして、マリーレイアの出現により、スフィアナの心は掻き乱されてゆくのであった────。
【80話】不幸な人妻メイドには普通の恋心が理解できない
シーズが幼馴染みの少女と同衾している現場を目撃してからというもの、スフィアナの誘惑は以前に増して露骨になった。
もちろん彼女が二人の仲に嫉妬するような乙女心を持ち合わせているはずもなく、その行為は狙った獲物を逃すまいとする警戒心の表れだ。
スフィアナにとってシーズは生命線とも言える存在。いささか頼りないところもあるが、彼の助力なくして彼女たちはこの国で生きていけないのだ。
せっかく女を知らないお坊ちゃんを色香で誑かすことに成功したスフィアナからすれば、ここで突然の幼なじみ登場はまさに寝耳に水。そんな設定は聞いてないぞ! と、物申してやりたいところだった。
まあ、これまで異性と意識せず交友していた二人の関係が急速に変わってしまったことに関しては、シーズに女を教えてしまったスフィアナにも原因があるのだが──。
ともあれ、これは早急に対処すべき案件である。
シーズが他の女と寝ようが知ったことではないが、もしも二人が結婚などするようなことになれば愛人の立場を追われてしまう可能性は無視できない──と彼女は考えているが、それは杞憂でしかないのだ。
領主としてはまだ頼りなく少々スケベなところが目立つが、彼は善良な領主の素質である公正な心の持ち主だ。シーズがスフィアナやミリアを追い出すような真似はしない人間だということぐらい、一緒に過ごせば理解できるはずなのに、彼女にはそれがわからないのである。
スフィアナだってシーズの誠実さは多少なりとも認めている。得体の知れない獣人母娘が町で暮らせるよう手ずから奔走していたのだ。ただのスケベ根性だけでは出来ないことだし、それには感謝している。
けれど、病的な人間不信を患っているスフィアナにはシーズを信じきることができず、男の本性などわかったものかと疑ってしまう。
絶望の中で生きてきたスフィアナに刻まれた傷は深い。
結婚するほど愛していたはずの妻を裏切り娘を犯す父親の醜い性が、嫉妬に狂って娘を締め殺そうとする母親の醜い嫉妬が。いまだ消えずに残っている。
果たして、シーズの想いが彼女の壊れた心を癒すときが来るのだろうか?
われわれはただ、哀れな女スフィアナを見守るしかないのである。
*
(そうよ、どんな邪魔が入ったところで、坊やを寝取ってしまえば済むことだわ)
肉食系悪女スフィアナの朝は早い。
朝日とともに起床して、隣で気持ちよさそうに眠るミリアのおでこにキスをすると、すぐに屋敷の仕事に取り掛かる。
有能な彼女はマーサから教えられた仕事を完璧にこなしながらも、移り気な領主様のことを考えていた。
あれから二人の様子を観察していたが、シーズとマリーレイアは肉体関係こそ持ったものの、今までと変わらず仲の良い友人といった様子だ。
これにはスフィアナも首をかしげてしまう。
(おかしいのよね……普通の男女は性行為をしたら恋仲になるものじゃないのかしら?)
何人もの男とヤリまくってきたスフィアナさん。チンコの取り扱いはお手のものだが、こと恋愛に関しては初恋もしたことがない耳年増な小娘同然であった。
シーズの心を掌握する方法? そんなの、とりあえずチンコを握れば男はなんとかなる! それがスフィアナ流の極意である。
*
そして、うららかな日差しの午後。
(とりあえず回数を増やせばいいのよ、残さず搾りとっておけば他の女には出せないものね)
などと恐ろしいことを考えながら屋敷の掃除に勤しむスフィアナ。彼女が頭の中でシーズの喜びそうなプレイの予行演習をしていたときだった。
「おかあさぁん、みて~」
最愛の娘が両手を上げて嬉しそうに駆け寄ってきた。見ればその手には可愛らしい女の子を模した人形が抱かれている。
「ミリア、どうしたのそれ?」
「だんな様がねぇ、おみやげ~って」
無邪気にはしゃぐ娘の姿は微笑ましいが、どうにも要領を得ない。
スフィアナが疑問に思っていると、後からシーズもやってきた。
「やっ、やあ、アルテラ」
少し気まずそうな顔をしている。マリーレイアとの一件を見られて以来、シーズも彼女との関係に苦心していた。
幼なじみとの仲を誤解されたのではないだろうかと、いや、全部が誤解というわけでもなく、マリーのことが好きか嫌いかといえばもちろん好きだし、確かにあの夜はふだん見せない女の子らしい可愛さにドキッとしてしまった。
しかし、それでアルテラに対する気持ちが冷めるなんてことはなく、今でも彼女に夢中なのだが────どうも自分の気持ちがこの獣耳美女にはうまく伝わってないのではなかろうか──?
と、最近気付きはじめた領主様である。
「この人形は旦那様が?」
「ああ、前にほら、マリーの家がある街に行ったときお土産に買ったんだけど、バタバタしてたせいで渡しそびれたままだった」
「お気を使っていただきありがとうございます。ミリアがとても喜んでおりますわ」
「そっ、それでだね……キミにも買ってきたものがあってさ……」
そう言って、シーズは後ろでに持っていた蓋に花柄の彫刻が刻まれた小さな木箱をスフィアナに手渡した。
「中を見ても?」
「ああ、うん」
スフィアナが蓋を開けると、中には赤く輝く小さな石のついたネックレスが鎮座していた。
「アルテラに似合うと思って選んだんだけど……どっ、どうかな?」
幼馴染み以外で女性に贈り物をするなどしたことがなく、そのマリーレイアは普通の女子から大きく外れた特殊な感性の持ち主なため、こうして一般の女性が喜びそうなものをプレゼントするのはシーズにとって初めての冒険であった。
わからないなりに露天に並ぶアクセサリと睨めっこして選んだ品が、果たして意中の女性に喜んでもらえるのか、気が気ではないのだろう。
対してスフィアナは箱から取り出したネックレスをしげしげと眺めてから、もういちどシーズの顔を見る。
緊張した顔は何を考えているのか実にわかりやすい。目の前の女性が自分の贈り物を喜んでくれるか気が気ではないのだろう。
そんなシーズの様子を見て、スフィアナはこう思った。
(すごくソワソワして……セックスしたいのかしら?)
ちがうぞスフィアナ! そうじゃない!!
彼女の中で男が女に贈りもをするというのはつまり、コレをやるからセックスさせてくれよという意味だった。
なのでスフィアナはこそりとシーズの耳元に口を寄せて囁いた。
「旦那様、ここはミリアがいますので、性交でしたらお部屋で……」
「なぜに!?」
多くの過程を端折った言葉にシーズがぎょっとする。
(あらっ、違ったかしら?)
以前の屋敷でも主人から数えきれない程の煌びやかな装飾品の数々を貢がれた。
男は女に物を贈って好意の見返りを求める。それはスフィアナにだってわかっている。そういうときは決まってスケベなことをさせてやれば大そう喜ばれたものだ。
しかし、今のシーズの顔はどちらかと言えばガッカリである。
(なによ、その顔は……)
わからない。気を利かせたつもりだったが、普通に喜んで見せればよかったのだろうか?
そもそも、これはなんだ? マリーレイアと寝たことを気にしてご機嫌取りのつもりなのか?
わからない。なぜそんなことをするのだろうか。
自分は屋敷のメイドにすぎず、追い出されたら行くあてもない。どう扱われようが結局はシーズに従うしかないのだ。
それだというのに、なぜ彼は自分に大してこんなにオロオロとしているのだろう。
その困った顔はなんなのだ。
わからない。
なんだか、彼の顔を見ていると無性に腹が立ってきた。
(なんなのよ……)
わからない。
わからないから、とりあえず喜んだフリをしておいた。それが正しかったようで、シーズもホッと安堵した。
*
その日の夜はシーズの寝室に行かなかった。なんとなく。
自室の化粧台の前に座り鏡に映る自分を見る。胸にはシーズに貰ったネックレスが慎ましやかに輝いている。
「おかあさん、だんな様にもらったキラキラ、きれいね〜」
後ろで見ていたミリアがほぅっと呟く。
以前の屋敷では主人から高価な品々を贈られ目が肥えたスフィアナにはわかる。
このネックレスには大して価値がない。
けれど、その小さな輝きをみていると、今日のシーズの顔が思い出されて、なんだかわからないけどものすごくイヤな感じがした。
不可解なキモチワルさを感じたスフィアナは、ネックレスを外して化粧台の引き出しにしまうのだった。


