「憎い! 巨乳が憎い! 巨乳を賛美する男共が憎い! どいつこもいつも乳のでかい女神像ばかり崇めやがって!」
グラリンザの怒りと憎しみによって巻き起こる嵐のような力の奔流に気圧されながらも、アドニスは懸命に問いかける。
「だからルナリル様を呪ったんですか!?このままじゃあ人の心が寒くなって争いばかり起きる!人類が滅亡するんですよ!!」
「愚かな巨乳好き共を、女神グラリンザが粛清しようというのだアドニス!そして、貧乳こそが至上とされる正常な世界を新たに創造するためになあ!」
「エゴですよ、それは!」
「だったら、今すぐ愚民どもすべてを貧乳好きにしてみせろ! この巨乳至上主義の権化め!」
「くっ、言い返せない!」
確かにアドニスは大きなお乳が大好きだった。ちっぱいよりも巨乳派だった。やっぱり大っきいのっていいことじゃん? しかし、その嗜好がグラリンザのような貧乳に悲しみと憎しみを抱かせる原因だというのなら、彼女が諸悪の根元だと言えるのだろうか?
「我が理想のために、消え失せろアドニス!」
怯むアドニスに向かってグラリンザの放った暗闇の渦が襲いかかり、シロ共々呑みこもうとするが、その直前で光の柱に阻まれる。
「おのれルナリス、やはり邪魔をするか!!」
グラリンザの睨んだ先には、異変を察知して登場するタイミングを狙っていた女神ルナリスの姿があった。
「話は聞かせてもらったわ、ごめんなさいグラリンザ、あなたの苦しみに気づいてあげられなくて……」
まさか親友だと思っていたグラリンザに呪いをかけられていたと知り、ショックを受けるルナリスだが、それでも、悪神に堕ちようとする友を引き止めるため懸命に言葉をかける。
「でもねグラリンザ、胸が大きいと大変なことだってあるのよ、お乳が重くて肩が凝ってしまったり、お乳が邪魔で足元が見えづらかったり……だから胸が小さいほうがいいことだってあると思うの、ね?」
「いけないルナリス様! それは慰めではなくマウントです!!」
「WRYYYYYYYY! 巨乳は根絶やしだあああ!!!」
ルナリスがうっかり燃料を投下してしまったせいでグラリンザの怒りはますます激しく燃え上がり、轟く闇の雷が辺りを無作為に破壊する。
「ああっ! どうしてなのグラリンザ! どうしてわかってくれないの!?」
「黙れ天然巨乳が! おまえに、おまえたちにわたしの何がわかる!? 生まれた時点で完成された存在である神は決して姿が変わることはない!この平らな胸は創造神にすらどうすることもできない! わたしは未来永劫、この貧乳の呪縛から逃れられないのだ!!」
グラリンザの悲痛な叫びにアドニスの心がズキリと痛む。
(このままルナリス様がグラリンザ様を倒してくれれば、それでハッピーエンドを迎えることができるのだろうか?)
「わうっ!危ないアドニス様!」
棒立ちになっているアドニスを激しい戦いの余波から守るために、シロが庇うように抱きついてくる。その拍子に、たわわな乳房もプニュンと押しつけられた。
(ああ、やっぱり大きなお乳は素晴らしい、これは良いものだ、触っているだけで幸せな気持ちになれる)
アドニスは無意識にシロのおっぱいをムニュムニュと揉みしだきながらさらに自問自答する。
(俺はお乳が好きだ、大きなおっぱいが大好きだ。けど、俺の【搾乳】は巨乳を搾るためだけにあるのか? 小さなお乳は不要なのか? ちがう、ちがうぞ……それは違う! 俺の【搾乳】は貧乳をいじめるための道具じゃあないだろ!)
「わっ、わうぅっ、あのっ、アドニスさま? いまはシロのお乳を揉んでる場合では……んんっ、わっ、わぅっ、ふぅんッ、んっ……ンンッ、あっ、アドニスさまぁ、そんなふうに揉まれたら、わぅぅ、シロ、なんだかおかしな気分に……」
「そうだシロ、お乳っていうのは、揉んだら気持ち良くて幸せな気持ちになるし、揉まれたお乳も気持ち良くて幸せにならなきゃいけないんだ。みんなが幸せで、幸せで、幸せな、それが、それが……【搾乳】なんだぁぁああああっ!!!」
「わぅぅううううゥゥンッ♡♡♡」
アドニスの叫びと共にお乳を揉んでいた右手が真っ白な輝きを放ち、ついでのシロのおっぱいからも真っ白な母乳がビュルルッと飛沫をあげる。その瞬間、世界は二人の放った希望の光で白く染まったとかなんとか。
大きく膨れ上がった光は荒れ狂うグラリンザの黒雷を跳ね除け、彼女の生み出した闇の暴風を一瞬でかき消した。戦っていた二人の女神もその強大な力の奔流に唖然とする。
「なっ、なんだ、この光は!? ありえない、たかが人間に、こんなことができるわけがない! ルナリス、あの男はいったいなんなのだッ!!」
「そう……そうだったのですね、アドニスの最後の運命のお乳の相手、それはシロだった……そして今、彼のスキルは限界を超えた。あれはアドニスの【搾乳】の輝き」
動揺するグラリンザの隣で、ルナリスが全てを悟ったようなドヤ顔でそれっぽいことを言う。
「スキルだと!? そんなばかなことが! あれは、あの光はどう見ても神々の力ではないか!」
「ええ、いい質問ですねグラリンザ」
実況解説のルナリスが伊達メガネをくいっと上げて意味深に頷く。
「おそらく、女神である私の母乳を何度も飲んだことでアドニスの体内に蓄積された乳力が神獣として覚醒したシロを搾乳したことで相乗効果的なやつがオーバーフローみたいなのを起こしてなんだかこう神を超越しそうなすごいパワーを生み出し、【搾乳】は今【チチナルモノ】へと天元突破したのです!」
「おまえは一体何を言っている!?」
「ゴクリ……見なさいグラリンザ、アドニスのあの姿を!」
ルナリスが指さしたその先には、赤髪を母乳のごとき純白に染めてアルティメットな姿に変身したアドニスが、くったりするシロのおっぱいを揉み揉みしながら涙を流していた。
「聞こえる、グラリンザ様、あなたのお乳から、悲しみの声が聞こえる……」
「この男、泣きながら乳を揉んでいるだと!?」
得体の知れない存在となったアドニスは闇の女神すらも恐怖させた。
「グラリンザ様、俺があなたのお乳を救ってみせる!」
わきわきと指を動かしながら、アドニスはグラリンザと対峙する。これは気持ちが悪い!
「やっ、やめろっ!来るな!近寄るな!このイカレ乳狂いが!!」
鳥肌を立てたグラリンザが腕を振るうと、天を裂く黒雷がアドニスに降り注ぐ。しかし、アドニスの輝く右手はいともたやすくそれを跳ね除けた。
そして、アドニスは声高らかに宣言する。
「牛飼いの心得、ひとぉつッ!常にお乳をいたわるべし!」
「くそったれ──ッ! だったらぁッ!」
今度は全てを灰燼に帰す闇の炎が襲いかかるが、それも右手のひと振りで呆気なく薙ぎ払われる。
「ふたぁつッ!どんなお乳も愛するべし!」
「こ……こ……こんなことがあってたまるか……!!わたしは女神だ……! こ……こんな巨乳好きの下等な男にやられるわけがない……ッ!!」
慄いたグラリンザが星をも消し飛ばす暗黒波動砲を放ちアドニスを呑み込む。
「どうだ!! ふっ、ふふふっ、やった、やったぞっ、ふははははぁっ!」
「みぃっつぅ!」
「ぁへ……」
しかし、唸る波動の中から聞こえてくる不吉の声にグラリンザは凍りつく。
「泣いてるお乳を救うべしっ!」
アドニスはアルティメットに輝きながら暗黒波動砲の中をすたすたと歩いてグラリンザの目の前まで近づいてきた。
「ひぃぃいっっ!?」
グラリンザは生まれて初めて心の底から震え上がった……恐ろしさと絶望に涙すら流した。
「これが俺の、俺たちの、愛とか夢とか希望とか性欲が詰まった!搾乳だあああああ!!!」
「ぴぎゃあああああああ!!!」
ついにアルティメット搾乳がグラリンザに直撃する。眩い光がほとばしり、【チチナルモノ】から生じる世界を創造するほどのエネルギーがグラリンザに流れ込んだ。
そして光が収束したとき、ぎゅっと目を瞑っていたグラリンザは、おそるおそる目を開き、自分が何事もなくその場に立っていることに気づいた。
「今のはいったい……わっ、わたしは何をされた……?」
あれだけのエネルギーを受け止めてダメージがないことを怪訝に思いながらも、グラリンザはふと、胸元になんだか肩が凝りそうなずっしりとした重みを感じた。
彼女は俯き、驚愕に目を見開く。
「なん……だと……?」
そこにあったのは、地面が見えないぐらい大きく膨らんだ双丘だった。それは、グラリンザが求めてやまない、けれどけっして手にいれることができなかった、理想の乳房だった。
アドニスの【チチナルモノ】は不変であるはずの神の肉体をも創り変えたのだ。
グラリンザは自分の胸にぶらさがる乳房におそるおそる手を触れた。柔らかな感触とともに指は乳肉へと沈み込み、存在を証明する。
「こっ……この重み、弾力……偽物じゃない、これは、本物の、わたしのお乳……」
お乳の温もりは凍りついた心を溶かし、グラリンザの瞳から温かな涙がこぼれ落ちた。
憑物が落ちたようにグラリンザの心からは憎しみが消え去り、彼女は崩れるようにその場にへたりこんで大きな声を上げてワンワンと泣いた。
そして後方で腕組み待機していたルナリスが、頃合いを見計って泣いてるグラリンザの肩にそっと手を置いた。
「ルナリス、ごめんなさい……わたしはなんて愚かなことを……」
「いいの、いいのよグラリンザ、だってわたしたち、ズッ友でしょう?」
「ルナリス!」
ひしと抱き合うふたりの女神、その光景は世界の危機が去ったことを告げた。
やったぞアドニス、ありがとうアドニス、きみとシロのおかげで世界は救われた!Congratulation!!!
「それじゃあルナリス様、グラリンザ様、ちょうどいいからお二人まとめて搾っちゃいますね」
「「え?」」
「そいっ【搾乳】!」
そしてアドニスも最後の役目を果たすべく、ルナリスとグラリンザの神乳にアルティメットな搾乳をブチかます。
「「オほぉおおぉぉおおおぉッ♡♡♡♡」」
こうして母乳を吹き出す女神ふたりのオホ声と共に、人類の未来を揺るがした未曾有の大事件は人知れず幕を閉じたのであった。
