脱衣籠の中に小さく丸められていたショーツを恐る恐る手にした健二は、それを両手で摘むように広げてマジマジと見つめる。
(このパンツを、さっきまで麻奈実ちゃんが履いてたんだ……)
幼い頃から恋焦がれ、けれども自分の手が届くことのない高音の花。そんな麻奈実の秘部を隠していたショーツが手の中にある。
普段の健二であれば、もしもこんな変態的な行為をしているのが麻奈美にバレてしまったら――、という恐怖心が勝って、すぐに止めていただろう。
けれど、現在のありえない状況が健二を大胆にさせた。
(そうだよ、今の僕は修一なんだ……弟ならバレても怒られるぐらいで済むはずさ……)
誘惑に負けた健二はショーツを握りしめながら股間のクロッチ部分に顔を近づける。恥部が押し付けられる場所のせいか、そこの布地だけ、まだほんのりと湿っており、色も少し変わっている。
クロッチに鼻を押し付けながら、すぅっと息を吸い込むと、鼻奥にツンと響くような蒸れた甘酸っぱい臭いが鼻腔に充満した。
他の女子が履いていたパンツだったら汚いと思ってしまうだろうけど、相手が麻奈実なら話は別だ。
むしろ、あの清純な美少女の股間からこんな卑猥な臭いがすることに興奮し、健二はうっとりしながら何度もその芳醇な臭いを嗅いだ。
やがて股間の疼きが辛抱できなくなり、ズボンを脱いでパンツをずり下ろすと、勃起した肉棒にショーツを被せる。
亀頭をクロッチの中心に押し付けながら、手を動かしてショーツを肉棒に擦り付ける。
「はぁっ、はあっ、うっ……はぁっ、麻奈実ちゃん……麻奈美ちゃん……」
目をつぶり、今まで何度も妄想してきた麻奈美の裸体を思い浮かべる。
彼女の秘部にペニスを押し付ける自分を想像しながら、健二はショーツに亀頭を突き立てるように手を動かした。
「あぁっ、気持ちいいっ……! 麻奈美ちゃんっ、気持ちいよっ、麻奈美ちゃんっ!」
滑らかな生地に擦られる刺激によって、鈴口からはトロリとした先走り汁が溢れ、クロッチ部分に染み込んでゆく。
手の動きは加速していき、今にも爆発しそうな射精感が尿道の奥からぐうっと込み上げてくる。
このまま麻奈美のショーツに思い切り射精したいという衝動に駆られながらも、ショーツが精液まみれになっては絶対にバレてしまうからダメだと、理性がギリギリで働いた。
健二は寸前でショーツを取ると、亀頭を抑える自分の手に向けて射精する。
ビュルビュルッと勢いよく迸った精液は受け止めた手から溢れそうなほど大量だった。
性欲を吐き出し冷静になった健二がショーツを確認すると、クロッチ部分が先走り汁の粘液でヌルヌルになっており、焦りながらティッシュで拭き取る。
(少し付いちゃってるけど、洗濯すればわからないよな……?)
健二は小さく丸めたショーツを脱衣籠に戻すと、証拠を隠すように自分の脱いだ服を上に置いた。
それからやっと浴室に入ると、熱いシャワーを頭からかぶり、ペニスに付着していた精液を洗い流して湯船に浸かる。
じんわりと熱いお湯に体を包まれながら、ため息をつき天井を見上げる。
小さい頃はよく互いの家に泊まったりしていたけど、神崎家の風呂に入るのは久しぶりだった。
(なんでこんなことになったんだろう……)
突然こんなことになり、落ち着いて考える余裕もなかったが、こうして風呂に浸かっていると、一旦は隅に追いやっていた疑問が頭をよぎる。
――今も山田家にいるニセケンジは何者なのだろうか?
――自分が修一の体に入っているのなら、修一も自分の体に入っているのではないのか?
――けれど、電話で話したとき、ニセケンジはまるで事情が飲み込めていないようだったし、自らを健二だと言っていた。
――でも、それを信じてしまえば、今度は自分の存在が否定されることになる。
――もしかしたら、入れ替わるという仮定がそもそも間違っているのだろうか?
頭の中で様々な億層が飛び交うが、どれも証明することはできない。
「うぅっ……あっ……っぃ」
のぼせただけで結局なにもわからないまま、健二はフラフラしながら浴室を出た。
リビングに戻ってきた弟の顔を見た麻奈美はぎょっとする。
「わっ、どうしたのシュウくん? 顔が真っ赤だよ……?」
「ちょっと……長湯しすぎて……」
「大丈夫? 横になったほうがいいよ」
健二は麻奈美に支えられながら大人しくソファに寝そべった。
「ほら、ここに頭を置いて」
「うん……」
ぼんやりとした頭で麻奈美の言う通りにしてると、後頭部が柔らかい弾力に包まれる感触を覚えた。
(なんか……柔らかくて……いい匂いがする……あれ、これって……)
気づけば健二は麻奈美に膝枕をされていた。
それは手のかかる弟に対する姉の優しさによるものだったが、健二にとっては恋慕している女の子の膝枕だ。
嬉しさと恥ずかしさと興奮が込み上げてきて、余計に頭が熱くなる。
けれど、何も知らない麻奈美は気遣うように健二の頬を手でさする。
「ほんとに熱いよシュウくん、大丈夫?」
麻奈美のヒンヤリした心地よい手が頬をさするたびに、健二の顔はさらに熱くなってゆくのだが、麻奈美は何も気づいていない。
「だっ、だいじょうぶ……だけど……しばらく、こうしてたい……」
「うん、いいよ」
ちらりと覗き見た麻奈美の顔には天使のように慈悲深い笑みを湛えていた。
頭部を包むようなふわりとした柔らかさ、伝わってくる人肌の温もり、ほのかに香る甘い匂い。
(やばい……姉弟、やばい……麻奈美ちゃん、柔らかい、いい匂い、もうっ……やばい……)
脳みそが蕩けそうなほどの幸福感に包まれたことで、これからどうしようとか、ニセケンジは何者だとか、どうすれば元に戻れるのだろうとかの不安は全て消し飛んだ。
今の健二はただ、この幸せな状況がいつまでも続けばいいのにと夢見心地に願うだけだった。
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